第15幕 14
――残り10人。
「大丈夫でしたか…シエルくん」
ロウとミューズに支えられ、なんとかシエルは腰を持ち上げたいた。
「は…はい。ちょっと驚いただけです……」
まったく――本当に毎度のごとく自由気まますぎるな――スフェラさんは。
クーゼが心の中でそう吐き捨てていたとき、シエルのある異変に気がついた。
異変というより――疲労が限界に達して来ているのは明らかだった。
「シエルくん、少し休もう。皆には俺から……」
「いいえっ。ここで休んでは元も子もありません。僕は体力はありませんが、忍耐力と根性は誰にも負けないつもりです。でなきゃ、「専学師」を目指したりはしませんよ」
強がりなのだろうが――その瞳からは輝きは失われていない。
「そうですね」
クーゼはこの若者に感心した。
「それに…最終手段は残してありますから……」
「最終手段?」
クーゼが驚いていると、代わってミューズが口を開いた。
「はい。だからこそ、この場にロウが残ったのです」
クーゼは黒髪の少女を見つめ、ロウは小さく頷いた。
◆◆◆
シャシブルにはワルドを先頭に、シェーヌとフィールが向かっていた。
「さっき、1人見つけたがあの爆発のおかげで、他の『カタフ』たちが警戒してしまったことは間違いないな」
「シエルさんの「視野拡張」の力もちょっと途絶えたけど…大丈夫だったんかね?」
フィールの分析に、ワルドがそんな付け足しをした。
「シエルさんの場合はこの島の上からここを見下ろしているんだもの。突然目の前に爆発が起こったんでびっくりした――って感じかもしれない」
「結構ひょっろっとしてたからなぁ…あの兄ちゃん」
ワルドはシューヌの言葉に、意地悪そうに笑って答えてみせた。
それにはシェーヌとフィールは、白い目でワルドを見つめていた。
「な…なんだよ」
「あんたの馬鹿さ加減よりかはよっぽどいいわ」
「なんだよ、それっ!!」
ワルドがシェーヌに食ってかかるが、フィールがワルドの肩を叩いた。
「俺が心配なのは、シエルさんの体力の方だ。こんなに大規模に能力を使っているんだ。
あんまり長引くと、シエルさんの体力が尽きてしまう。
『カタフ』がいつ仕掛けてくるかの心配もあるが、どっちにしても時間との勝負だ。
言い合いは全てが終わってからにしよう」
ワルドとシェーヌの顔が引き締まり、2人は無言でフィールに頷いた。
3人は――すでに戦いに臨む「戦士」の顔になっていた。
「クーゼからだ。シエルくんの体力が危ないらしい。本人は気力で持たせているようだが」
「そうですか。私たちもこのような能力のデータがないですから…フォローが難しいですね」
キートとクラッペはアミナの街の南側に来ている。
シエルからの情報で、『カタフ』がこの近くに潜んでいることはわかっていた。
クーゼからの連絡で、現時点での状況を確認していたとき、キートとクラッペの耳にエペからの連絡が入った。
〈キートさん、今そちらに私たちの追っている『カタフ』が向かっていますっ〉
エペの声に集中していたキートは、クラッペが自分の腕をつついて合図をよこしたことに気がついた。
それは灰色の空間に1人の「色」を持つ男。
先ほどの爆発ですっかり警戒してしまったのだろう。辺りを必要に見回している。
「……エペ。中央広場の南側の「ラハニオ通り」へ追い込めるか?その南門前にこちらが追いかけている『カタフ』がいる。
挟み撃ちにしないか?」
エペは一緒に行動しているミゲの顔を見た。
ミゲは素早く頷く。ミゲもまた、ピサ島の地理には詳しい。
「大丈夫です。では南門の前まで追い詰めればいいですね?」
今度はミゲの声が聞こえた。
「ああ、それで行こう。僕らもここで『カタフ』を足止めする。やるよ」
〈了解〉
◆◆◆
クラッペは体術を駆使して『カタフ』と南門の前で格闘を演じている。
それを出し物と勘違いした人々は、遠巻きにそれを驚きと歓声で見物していた。
そこへ、キートが捕まえたエペたちの追っていた『カタフ』を力任せにその人の輪の中心に放り込む。
同時にクラッペが飛び退き、そのタイミングでミゲが男たちを炎で包み込んだ。
そしてエペが2人の男を取り囲む結界を作り出す。
くぐもった爆発音が人々の耳を刺激する。
結界内は爆煙で見えない。が、少々煙が薄れたところでエペは結界を解き、煙はすぐに人々を包み込む。
見物人が驚いている隙をついて、4人はその場を離れた。
「エペさんたちが『カタフ』を2人、処理したとのことです」
クーゼの代わりに連絡を受けたカメリアがクーゼに報告する。
残るは8人。クーゼは呼吸の荒いシエルから視線を外せない。
「……あのぉ」
聞きなれない声に、クーゼが驚いて声の主へ視線を移した。
「…カエナ。どうした?それに…父さんまで……どうしたんですか?」
屋敷にはカエナとマシュドが来ており、シエルに集中していたクーゼは、それに気がつくことが出来なかった。
「……邪魔するつもりではなかったんだがな…カエナくんがとんでもないことを言い出して……それでここまで来たんだ」
マシュドの説明に、クーゼが驚いてカエナを見る。
カエナの表情は昨日までの明るい少女のものではない。
真剣な眼差しに、緊張で顔は引き締まっている。恐怖ではなく、まったくの別人のように纏う気も異質のものだ。
「まさか…君も?」
「はい。マシュドさんと補佐役の方の話を立ち聞きしてしまったのですが…私もお役に立てるかと思います。是非手伝わせてくださいっ!!」
クーゼはマシュドを見る。
一瞬ヴノの立場を考えてしまったのだ。しかしそのクーゼの迷いを払拭するように、マシュドが頷いた。
「わかった…よろしく頼む」
「はいっ!!」
カエナの気持ちのいいほどの返事を聞き、クーゼはカメリアに振り返る。
「君はカエナと一緒に行動してくれ。『カタフ』たちが分散を始めて、人手が足りなくなっている」
「はいっ」
カエナに負けない返事で、カメリアもしっかりと頷いた。
「でしたら僕も……ご一緒します」
「何を言っているんですかっ!?」
ふらりと立ち上がったシエルに、クーゼが慌てて駆け寄った。
「そろそろこの「僕」は限界ですが、精神だけならなんとかなります…これやると、3日は寝込むんですけどね」
苦しそうに――それでも笑みを浮かべるシエルに、ロウが近寄った。
先ほど言っていた「最終手段」ということか――。
「…ロウ…手を」
なんとか言葉を絞り出しているシエルに、ロウが無言で右手を差し出した。
「…シエルくん……何を……」
「…僕も…街へ出ようと思います」
シエルはクーゼにそう言って笑い――ロウと手を合わせた。




