第15幕 8
1日目が終了した。
フィークス家の豪華な晩餐に満足し、マシュドの屋敷に戻ったアーラたちに、昼間ペルが「先視」で視た内容が伝えられた。
「大変なことって……」
アーラはクーゼにそう訪ねた。
「そこまではわからん。だがペルは確かにそう言った。が、お兄ちゃんたちが頑張る。
そしてシエルくんたちが活躍すると言っていた」
アーラがペルを見ると、ペルはクアやアンジェ、ミューズ、ロウと一緒に楽しそうに遊んでいた。
「ここでなんですが、明日、祭り見物は残念ながら取りやめて、協会の「補佐役」はもちろん、我々もその探索に出ることにしました。おそらくは『カタフ』の残党によるものだと考えられるため、一番狙われてくるのは…やはり我々。特にアーラたちだと考えられますので」
ケリーエの提案に、あまり皆の反応は良くない。
せっかくの祭りなのに――という残念な思いが取り巻いている。
仕方のないことなのだが――クーゼやケリーエはつい苦笑してしまう。
「俺たちより、一番残念なのはシエルさんたちだよな。
せっかく『リュケイオン』から来てくれたのにさぁ」
ヴノが申し訳なさそうに、シエルたちを見つめた。
「いいえ。僕らは少しでもお手伝いが出来れば。それにほっとかれても、とても祭りなんて楽しめません」
「本当にいい人だよなぁ、シエルさん。惚れそうだよ……」
アーラが熱っぽい視線をシエルに向けた。男の子とは言え、アーラの美しさにシエルの顔がみるみる赤く染まる。
その直後、アーラとシエルに突き刺さりそうな視線の応酬があった。
「な、な、な、なにっ!??」
シエルは完全にビビっている。
「な…本当にいい人だろう?」
「アーラ。お前完全に、シエルさんで遊んだだろう?」
ジンにツッコミを入れられ、アーラが「そんなことないさ」としれっと答えるところは、母親のリカーナにそっくりだった。
「アーラがそんな性格になったの、絶対お前のせいだと思うけどな、ジン」
ヴノとしては何気ないツッコミだったのだが――。
今度はジンに対して――特にアーラの兄たちからの視線が突き刺さる。
「…貴様…俺になんの恨みがあるんだ?」
ジンはこの状況をどうしてくれると、ヴノに詰め寄る。
「いや…ごめん。ホント、ごめん……」
ヴノはひたすらジンに謝っていた。
「ジンさん、うちの馬鹿兄が本当に申し訳ありません」
カエナが降って湧いたように突然現れては、ジンに丁寧に謝った。
「あ…いや…」
「ところでジンさんは…誰かお付き合いされている特定の方はいらっしゃるのですか?」
有無も言わせぬ威圧感で、瞳はとびきりキラキラで。カエナの勢いに、ジンが1歩2歩後退する。
「カエナ止めとけ、そいつはホモだっ!!」
一体どんな止め方なんだ。
ヴノの発した一言に、ジンはヴノが落ちる寸前まで、本気で首を絞めていた。
アーラとクレイが慌てて止めに入らなければ、本当に危なかったかもしれない。
ヴノへの同情もあったが、大勢は笑いを堪えるか、頭を抱えるか。
おかげでアーラの兄たちをやり過ごすことは出来たのだが――。
「なんだぁ。せっかく綺麗な人なのにぃ。で、相手は誰なの?」
ぜぇ、ぜぇと苦しそうな呼吸を繰り返す兄には構わず、カエナはそんな質問をした。
「それはアーラだよ」
答えたのは嬉しそうなクレイだった。
「クレーイっ!!」
アーラが叫んだ。
アーラたちはそのままマシュドの屋敷に泊まり、明日の「大変なこと」に備えることにした。
久しぶりにアーラは兄たちとの団欒の時間を過ごした。
ここ2ヶ月はこんな時間をもてなかった。エペが加わってからは初めてだろう。
クーゼの招きで、ジンとミゲ。クレイとエペがこの場にいた。
ヴノは妹のカエナから目が離せないと別室で、カリディアとカメリアも一緒に、何か大騒ぎをしているかもしれない。
「でもこんな時間、本当に久しぶり……」
「エペは全然家に帰っていないんだろ?皆寂しそうにしていたよ」
「そう?今はここでやりたいことがあるから……」
パイクとエペがなんかいい雰囲気で話をしている。
時々クレイが気になるのか、バルコニーにいる2人の姿を横目で追っていた。
「気になるなら、お前も参加してくれば?」
「遠慮しておく」
ジンに言われて、クレイは不機嫌そうに答えた。
「エペさんは、小さい頃からパイク兄さんに気があったんだ」
「アーくんっ!?今何か言ったぁぁっ!!?」
地獄耳かっ!?バルコニーからあまりの剣幕でやって来たエペに、アーラは思わずソファから立ち上がってしまった。
「そ、そうなんだ……」
「ち…違うからっ!!本当に違うからっ!!」
こんなに取り乱すエペは初めてだった。
クレイが驚いている中、エペはクレイの隣に座り、テーブルにあったクレイの飲みかけのワインを一気に飲み干していた。
「あ…それ」
「なに?」
「クレイの、飲みかけ……」
エペはグラスを一瞬見つめたあと、今度は顔の赤いクレイの顔を見た。
「……別にいいかっ」
「エペ…酔ってる?」
思わず脱力したクレイに、エペはにこにこ笑っていた。
「せっかくエペさん戻ってきたのにねぇ…」
アーラたちはクレイに同情した。
逆にクーゼたちはエペの素の姿に、目を見張ってしまった。
あれだけ生真面目を絵に描いたようなエルピスの姿からは、とても想像が出来なかったのだ。
「まぁ…いい兆候かな」
クーゼはそう言ってため息をついた。
「これで明日の組み分けが決まりましたね」
「そうだな」
ケリーエがクーゼに声をかけ、クーゼも小さく頷いていた。
「明日の…って」
クレイがクーゼに訪ねた。
「ああ。明日の見回りの組み分け。
俺たち3人は独自に行う。お前たちはお前たちでベストと思われるメンバーで臨んでくれ…ということだ。それが一番だろ?」
クーゼにそう言われ、微笑まれてしまうと、アーラたちは何とも言いにくい。
「じゃ、そうしましょ」
エペは1人――どこか陽気そうだ。
それがいつものエペと本当に違うので、それを知る者は面白い――というよりどこか怖かった。
「もうエペは寝かせたほうがいいだろうな……」
パイクが呆れたように言った。
「じゃぁ…クレイよろしく。エペさんを部屋まで連れてってあげて」
「はっ!?どうして??」
アーラがしれっとお願いする。
クレイは絶叫したい気持ちをぐっと抑えて、アーラに訊いた。
「いやなの?」
何故かそう言われ、エペの顔が眼前に迫る。
「……いやじゃないです…ご案内いたします」
どうして敬語?というクレイに、「よし」とエペは頷き、「おやすみー!!また明日―!!」という陽気な妖気?を残し、エペは困惑気味のクレイを連れて部屋を出ていった。
パタンと扉が締まる。
「あれで良かったの、パイク兄さん……」
アーラはパイクに訪ねた。
「俺とバルコニーにいたときから、あいつ、時々クレイの視線を気にするような仕草をとってた。もう…俺に気はないだろうな」
どこか寂しそうなパイクの肩を、ぽんとクーゼが叩いた。
「じゃぁ、今日はお前の2重失恋記念日だな」
「うるせぇっ!!」
嬉しそうな長兄に、パイクが絶叫した。
「ああ、気にしないで、うち、いつもこんなんだから」
ケリーエがあっけらかんとジンとミゲに言った。
一体ニキティス本家って――?2人の頭に、そんな疑問が浮かんでは消えた。




