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この兄をどうにかしてください!!  作者: 杮かきこ
第1章  『この兄をどうにかしてください!!』
5/69

第1幕  3


「船からも見えていたが、こうして目の前で見るとその大きさがよくわかるな」

クレイがその宮殿の大きさに、感嘆の声をあげた。

「ここはひとつの都市でもあるからね。『学園都市』とでも言うのかな?」

「俺が聞いたのは学徒数が1万人って話だけど、『学園都市』と言うのもこの大きさなら納得がいくな」

 『エヴァエニス宮殿』だけでも、オリュムピア大陸最大国家『エリュシオン王国』の王都イオにある『アイテール城』に匹敵するだけの巨大さと、美しさを誇ると言われていた。

また一万人の学徒と、数千人の関係者を要する建物群は、小国家規模の面積があると伝えられるほどでもある。

「…たしかにこれなら観光の名所にもなるか……」

 しみじみとヴノが呟いた。それだけの美しさと迫力を持った景観だった。

「ここでこれから『メイスン』になるいろんなことを学ぶんだよな…。ちょっと感動かも」

 アーラも希望と期待を込めて、突き抜けるような青い空に浮かぶように建つ宮殿を眺めた。

「…そういえば、クレイは体調大丈夫なのか?」

 ヴノが言い、アーラも心配そうに頷いた。

「あぁ。さっきヴノがくれた気付けの薬だっけ?あれが効いているみたいだ。体の違和感みたいなものはもうない。本当によく効くな。ありがとう」

 無理しているのかとクレイの顔をまじまじと見つめるが、先ほどとは違い明らかに顔色が良くなり、赤みも戻っていた。歩いていて暑くなったのかローブを脱ぎ、左手に抱えて持っている。クレイの話は嘘ではない様子に、アーラも安堵の笑みを浮かべた。

「これから何百段と階段を上がらないといけない。いや…千段以上かな?体力を使うから。

 途中で休憩しながらゆっくり上がれば大丈夫だよ」

 高台にある宮殿までは、ひたすら階段を地道に上がらなければならない。

 それは「登山」に例えられる。確かに山に登るという方が、体感的にはあっているだろう。アーラはそれを心配してクレイに話したのだが、クレイは育ちの良さそうな、品のある笑みをアーラに返してから口を開いた。

「体調が戻れば問題はない。これでも僕は騎士の称号を持っている。だいぶ鍛えている方だと思うよ」

「それであの男たちに囲まれても、悠然としてたわけか。腕もたちそうだもんな」

 ヴノが納得した様子で頷いた。

「それじゃ、ペースを上げても大丈夫だな」

 にやりと不敵に笑うアーラに、ヴノは背筋が寒くなる感覚に襲われた。

「おい、手加減しろよ。初日から疲れ果てるのはごめんだぜ」

「そこはちゃんと考えるよ」

 ほんとかよとヴノが愚痴をこぼした。

「君たちは同郷なのか?仲がとてもいいようだが…?」

 アーラとヴノのやり取りを見てきたクレイが、2人を見て呟いた。

 指摘された2人は互いの顔を見合わせ、すぐにクレイを見ると口を揃えてこう言った。

「いいや」

 クレイが藍色の瞳をめいいっぱい見開いて、2人を食い入るように見つめる。

「船を降りてすぐ、港で会ったんだ。そこから…なっ」

「うん」

 2人は何事でもないかのように、あっけらかんとしている。クレイはすぐに苦笑となった。

「羨ましいな。良き出会いをしたんだね、君たちは…」

「それを言うならクレイも、もう仲間だろ?『良き友』か『悪き友』かはわからないけど」

「それならわかる。どっちもだ」

 アーラに笑顔で答えたクレイの笑みには、あの品の良さはなりをひそめ、2人に負けない屈託のない無邪気さがあった。

 これなら大丈夫だとヴノも笑った。

 


3人の若者たちは、それぞれの思いを胸に、『良き出会い』をした友と連れ立ち、『アカデメイア』への第一歩を踏み出した。



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