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この兄をどうにかしてください!!  作者: 杮かきこ
第2章  『このお嬢様をどうにかしてください!!』
34/69

第10幕  2

 次の日。

 ミゲはもう1日だけ『アカデメイア』を休み、スフェラの屋敷で預かってもらうことになった。

 帰りは屋敷に寄り、ミゲの顔を見に行くことで、ミゲも納得をした。

 その影にはプリムラの心理療法が大きく貢献していることは、言うまでもない。

 


カメリアは遠慮気味に、アーラのやや後ろを歩いてる。

 奥ゆかしさもカメリアの良い部分だと、アーラはそう理解している。

 昨日の話ではないが、どちらを選べということは今はできない。でもカメリアの方が、特に『妹』という感覚が強い。ミゲはそのパワーに振り回されて、妹とか異性とか、そんな感覚が吹っ飛んでいた気がする。が、昨日の出来事で、ミゲも14歳相応の女の子ということを改めて意識させられた。

 


ではカメリアは?そう思わずにいられない。

 プリムラにはいつも通りに――と言われたのだが。

「…私は大丈夫です…アーラさん」

「何かあったら言ってくれ。オレはそういう感覚鈍いから…」

「そんなことありません。私が支えます」

 13歳とは思えない言葉に、アーラは一瞬で頬が熱くなっていくことがわかった。

「だから大丈夫です」

 カメリアも…本当に可愛い。ミゲが『陽』ならば、カメリアは『陰』。悪い意味ではなく、

性格上の話であり、2人の『美徳』は、あまりに対照的なのだ。

 やっぱり選ぶとか――無理だと思う。それがアーラの素直な感想だった。

 


寧ろ選ぶ――という行為自体、アーラには強い違和感と罪悪感がある。

 いくら母や兄たちが認めたとは言え、それは遊びのようなもの。

 自分があの2人と関係を保つこと自体が、あの2人への冒涜のようなものなのだ。

 それを変えるとなると――いずれ本当のことを、話さなければならないときがくるのだろうか――。

 できればこのままに。このままにしておきたい。アーラは顔を深く俯けていた。

「…アーラさん?」

 カメリアが酷く心配した様子で、アーラの顔を覗いていた。

「あ…あぁ。大丈夫。深く考えすぎてた」

 カメリアはアーラの右手を優しく、包むように握った。

「私が居ますから。ずっと傍にいますから。だから…アーラさんは前だけを見ていてください」

「カメリア……」

「私は…妹でもいいです。アーラさんの傍にずっと置いていただけるなら……それでいい」

 アーラの顔を見ることが辛かったのか。カメリアの顔はずっと俯いていたが、口を滑り出た呟きは、アーラの心の奥底に突き刺さっていた。

 誰か昨日の話をカメリアに言ったのか?そんな考えすら浮かんだが、そんな者は居るはずもない。そう。信じられる仲間たちだからだ。

 と、すれば、自分がそうカメリアやミゲに接していたのだろう。

 まるで、妹と接するように。

 どうすればいいか、うまい方法が浮かばない。カメリアを安心させてやれる、うまい言葉が浮かんでこない。どうすればいい?

 アーラは無言で、ただただそんなことばかりを考えていた。

「アーラさん?」

「…ん…オレ…どうすればいいんだろうってさ……」

「…このままでいていいんですよ。アーラさん」

「…カメリア」

「私は傍に居ますから。アーラさんはこのままでいいんです。ミゲもそれでいいはずです。

 私の言葉に、こんなに悩んでくれるアーラさんが大好きなんです。

 アーラさんは前だけを向いて。私たちのことは大丈夫。自分の心配だけをしていてください。お願いします」

 ああ、もう。オレ、年下の女の子をこんなにも心配させていたんだ――。

 アーラは自分が情けなくなった。

 それでも。だからこそ――。言いたい言葉がある。

「カメリア。オレ、君が本当に好きだ…。傍にいてほしい。オレが絶対護るから……」

「……はいっ」

 カメリアは腕を絡ませて、潤ませた瞳で精一杯の笑顔をアーラに向けた。

「…同じ言葉。帰ったら、ミゲにも言うけど…いい?」

「そうしてあげてください。そうしないと、私も張り合いがないですから…」

カメリアは笑みを崩すことなく、アーラに大きく頷いた。



 そんな2人の会話を、ジンは黙って聞いていた。

 ジンは昨晩、ミゲが落ち着いたころを見計らって、カメリアに接触した。

 ミゲの状況と共に、アーラのカメリアに対する気持ちを伝えた。

 カメリアは妹と考えられている自分の立場に落ち込んだが、ジンはこう切り返した。

 それでも今のアーラには精一杯の気持ちなのだろう。と。前に進むことだけに集中できたら、カメリアに対しても、余裕を持って望めるのではないか――と。

 カメリアは考え、ジンのアドバイスに頷いた。

 アーラが自分を好きになってくれるなら、妹という立場でも今は構わない――。

 ジンはその気持ちを、アーラに直接伝えてみるべきだとも言った。

 俺も協力する。ミゲはもう少し落ち着いてから、同じことを伝えるつもりだ。と。

 カメリアもそれがいいと言った。



 全てはアーラの気持ちも、自分の手の中に収めるため。

 ミゲもカメリアも、アーラを困らせるようなことは考えていないだろう。ならば、俺が2人の気持ちを橋渡しすればいい。

 アーラの思いが余計な方向へ向かないように。『向かせない』ように。

 俺の目の届く範囲で、自由にさせるために――。

 お前は俺が護るよ、アーラ。お前の大好きな人たちも俺が護るから。お前は余計なことは考えず、まっすぐに、素直に、楽しみながら、日々の生活を謳歌すればいい。厄介なことは全部俺が引き受けるから――。

 だから俺の傍にいて、お前は安心して日々の生活のことだけを考えていればいい。

 お前が『好きだ』と言ってくれた――。それだけで俺は十分だよ、アーラ。

 


ジンは口元に微かな笑みを浮かべ、安堵のため息をついた。



 ジンにはもうひとつの問題がある。

 テミスだ。ジンの気持ちがどう転ぼうと、テミスに向くことはない。断言できる。

 しかしあの様子では、伝えようにも本人が究極の妄想女だし、おまけに敵に利用されているとなると、どう伝えようと、聞く耳も持てなくなってはいないだろうか?

なんだか想像するだけでも、どっと疲れが沸いて出そうだった。

 いずれにしても、狙われるのは俺だろう――。

 どうせなら自分だけを狙ってくれると、一番理想なのだが。

 と、いう考えはクレイに読まれているらしく、ジンの傍にはヴノとクレイが控えていた。



 クーゼには叱られたが、女だろうと、容赦できないかもしれない。と、ジンは考えていた。元々女だろうと、容赦していないのだろう――という声が飛んできそうだが、本人は、あれでもそうとう手加減している方なのだ。

 ただ――アーラのことが絡んだら、自分でもそれを抑えることはしないつもりだ。

 と、いうよりできはしないだろう。



「来るかねぇ……」

 アーラとカメリアの微笑ましい一場面を遠くに望みつつ、ヴノが呟いた。

「来ると思う。このままで諦るとも思えない相手だったし…」

 クレイの口調ははっきりとしている。 

 かなり高い確率で、再び自分たちの前に姿を現すと、確信しているようだった。

「だんだん『王導師』として、らしくなってきてるな」

 これはジン。クレイは自嘲の笑みを浮かべ

「まだ、卵にもなってないけどね…」

 と、これはため息混じりに、歯切れ悪く言うしかなかった。

「で、クレイがそこまではっきりと言い切る理由はいかに?」

 ヴノが人の悪そうな笑みを称え、クレイを困らせようと問いかけた。

「補佐役さんたちが、気が付き始めたからだよ」

「キートさんとかクラッペさんが?」

「そう」

「それだけじゃないんだろ?」

 ジンはもう一歩踏み込んだ理由に気が付いているようだ。

「もう補佐役の振りはしていられない。この狭いピサ島で、いつまでも隠れているということも難しいとなると、早々に目的を遂げにくると考えた方がいいと思う。

 それもたぶん…人目に付きやすい場所で、派手に。僕らが戦いにくい状況を選択してくるはずだよ…こんな通学時とかね」

 説明の後半。それは推測というより、事実となった出来事の解説となっていた。

 この日は閉じているブレウラ門の正面。堂々と立っているテミスを確認したからである。

「…来たわね」

 アーラの背負っていたリュックから、アステが顔を覗かせた。

「狭いところに長いことごめんね」

「いいわ。今回は我慢してあげる。その代わり、帰ったら私の毛を梳かしなさい」

「承知しました」

 定位置のように、アーラの肩に駆け上ると、アステは凛とした姿でテミスを見据えた。

「私も手伝う」

「よくってよ、カメリア」 

 名乗りでたカメリアにも、アステは相変わらずの『上から目線』であった。

「…という理由わけで、カリディア。頼むぜ…」

「はい。任せてください」

 ヴノの声を合図に、カリディアは小さく頷いた。

 そして仲間たちから、2~3歩離れた位置に待機した。 

 それを確認したヴノは、アステを見やりつつ、はぁと大きなため息をついた。

「…こちらにも、お嬢様はいたなぁ…」

「頼りになるお嬢様だけどね」

「それは言える」

 アステの様子を見て呆れていたヴノは、クレイの突っ込みに、そこは納得いった様子でしっかりと頷いた。





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