暴走
登校早々、正一たちは粟野の指示でそれぞれ別の教室へ向かっていた。
正一はコロナや真と別れ、体育館に向かう。
太陽魔法と月光魔法の演習を行うためだ。
周りに誰もいない廊下を歩きながら、正一は期待に胸を高鳴らせていた。
そして、体育館に着く。
他には誰もいない。いや、担当の教師らしき人間はいた、だが、他には誰もいない。
正一は面食らった。
そして、担当の教師がこちらに気付き、近づいてきた。
女性の教師だった。茶髪がかかったショートの髪で、青いジャージを着た、割と整った顔の体育教師だ。
「君が弥生君ね?太陽魔法に適正があった」
「はい、でも、他には誰もいないんですか?」
「うん、太陽魔法の適正がある人間は少ないのよ」
それはさておき、と、女教師は咳払いし、更に続けた。
「太陽魔法担当教師の蓮野ですよろしくね?」
満面の笑みと、キャピキャピした動きで、最後の「ね」の文字にウインクでもつけ加えられそうな勢いで挨拶した。どうも若作りした(いや、実際若いのだろうが)先生のようだ。
「あ、今、ぶりっ子な先生だって、思ったでしょう?」
見抜かれていた。
前言撤回、中々に抜け目の無い先生のようだ。
「あ、いえ、そんな事は思ってないです」
と、一応、正一は否定しておく。
本当に?と、疑わしげな目で正一を睨み付け呟いたが、すぐに笑顔を作ると更に続けた。
「まあ、いいわ、じゃあ早速これをつけて?」
そう言って蓮野は手に持っていたブレスレッドのようなものを取り出した。
太陽を模した装飾がついた赤いブレスレッドだった。
「これは、魔法科学機「システム・サン」、太陽機とも言うわね」
「システム、サン」
「そう、これからの君の相棒よ?」
正一は、渡されたブレスレッドをまじまじと見た。
よく見ると、ブレスレッドの装飾以外の場所にも幾何学的な模様が刻まれている。
早速正一はブレスレッドを手に装着した。
その瞬間、正一の身体に何かが駆け抜けた。
だが、正一は驚かない。
「もしかして、魔法化学機、初めてじゃないの?」
「はい、この魔法化学機「システム・ルナ」をつけたことがあります」
正一は自分の手首に目を落とし、そこにつけられた黄色いブレスレッドを蓮野に見せた。
「ふーん、学校の備品じゃないわね?」
「はい、僕が所有しているものです」
「そっか、珍しいわね?」
本当に珍しそうに正一の手元のブレスレッドをまじまじと見つめた。
月光魔法機自体は別に珍しくないので、この場合は、民間の人間が魔法化学機を持っていることに対して珍しさを感じているのだろう。
「そう言えば君、月光魔法にも適正があったのよね?」
「ええ、そうですけど?」
疑問系で答える正一。
「貴方は学校の決定で月光魔法ではなく、太陽魔法を中心に磨くことになっているの」
「何故です?」
「さっきも言ったとおり、太陽魔法は希少価値が高いの、一年生に貴方一人、二年生に二人、三年生に一人、でも、その分、太陽魔法は強力なんだけどね」
「なるほど」
理解したところで、蓮野は続ける。
「じゃあ、早速、魔力の込め方を教えるわね」
蓮野は説明を始めた。
「まずは、ブレスレッドの装飾のところに人差し指を置いて」
正一は指示に従い手順を踏んでいく。
一通りの説明が終えられ、そして、最後の工程に入る。
「そして、太陽付近に設置された衛星から送り込まれるエネルギーを転送、そして、自分の望む姿にそのエネルギーを変換するイメージで、想像力を働かせて。
まずは、この工程を素早く出来るように何度も練習すること。じゃあ、まずは、太陽魔法、使ってみましょうか?」
正一はその言葉に従い、ブレスレッドに魔力を転送し、自分のイメージする。
すると、強大な力の奔流が体中を駆け巡った。
そして、正一の頭上に、小さな光の球体が浮かび上がる。
熱波を放ち、周囲にその力を撒き散らす。
まさに、小さな太陽。
それが次第に膨張していく。正一は慌ててそれを止めようとした。
しかし、止まらない。
小型の太陽から撒き散らされる力の余波が、少しずつ大きくなっていく。
止まらない、止めることが出来ない。
正一は、咄嗟に反物質エネルギーの転送を止めようとしたが上手くコントロールできない。
「弥生君!」
蓮野が叫ぶ、その理由は、正一が膝を折ったためだ。
反物質エネルギーばかりでなく、正一自身の力までが吸い取られているのだ。
それに比例して小さな太陽は膨張し続け、周りの物を溶かし、体育館を壊していく。
そして、正一の意識は途切れた。その後も太陽は暴走し続ける。
蓮野はどこからかブレスレッドを取り出すと、反物質エネルギーを転送し、魔法を行使した。
青い光、冷却の力を持つ魔法だ。
青い光が太陽を包み、サウナのように干上がった大気を元に戻そうとエネルギーを奪い取っていく。
だが、完璧にではなかった。
冷却の力が足りない、蓮野は更に出力を上げた。
青い光が更に増していき、太陽を完全に遮る。
そして、太陽は完全に消え、静寂がその場を支配した。
「まさかここまでとようはね・・・」
蓮野は床に転がる正一を見て呟いた。
体育館は全焼とは行かないまでも、所々に焦げ後が残っている。
そして、蓮野は携帯を取り出し、保健室に電話をかけた。
らだ