魔法適正検査結果
正一と律子は頑固一徹というラーメンのチェーン店にいた。
店の中には美味しそうな匂いが充満し、席は満席でその殆どが美味しそうに麺をすすっていた。
綺麗に掃除され、白を貴重としてクリーンな配色になっている店は明るい印象を受けさせる。
恐らくマニュアル通りなのだろう。
チェーン店が生き残るための徹底したマニュアルだ。
カウンター席に座りながら店を見渡して、正一はそんな事を考える。
先程注文したメニューはまだ来ない。
暇つぶしに隣で家から持参した漫画を読んでいる律子を横目で見、正一はメニューが来るのを待った。
ちなみに、律子が味噌ラーメン、正一が塩ラーメンだ。
「ああ、読み終わっちゃった」
律子が、読んでいた漫画を投げ出して、退屈そうにあくびをした。
すると、そのタイミングを見計らったかのように、注文した品が来た。
頭にタオルを巻き、頑固一徹のロゴが入ったエプロンを着た女性店員が二杯のラーメンを盆に乗せて運んできた。
「塩ラーメンのお客様は?」
女性店員が笑顔で聞く。
「ああ、はい僕です」
正一は手を上げながら答えた。
塩ラーメンが目の前に置かれ、律子のほうに味噌ラーメンが置かれる。
割り箸を取り、割る。
そして、透き通ったスープに箸を入れ、中に入った麺をつかみ、すする。
美味かった。
久しぶりの味だ。
律子も夢中になってラーメンと格闘している。
「どうだ、律子、美味いか?」
見れば分かるのに、正一はそんな質問をした。
まあ、これは社交辞令みたいなものだろう。
「うん、美味しいよ。お兄ちゃん」
「そっか、良かった」
十数分後、スープだけが残った器をその場に残し、二人は立ち上がった。
そして、レジに向かい、支払いを済ませる。
先程の店員が、元気に「またお越し下さいませー!」と、マニュアル通りの挨拶を済ませていた。
そして、二人は店を後にする。
家に着いたのはそれから十分ほど後だった。
「さて、これからどうする?律子、俺は今日は家に居るけど?」
「じゃあ、私も家に居る」
「そうか、じゃあ、一緒にゲームでもしよっか」
「うん」
いつも通りのことだった。だが、これがこの二人にとってかけがえのない日常だ。
一緒にゲームをして、一緒にラーメンを食べて、誰にでも出来ることだが、この二人にしか出来ない特別なのだ。
そこで、二人はテレビのスイッチを入れ、少し古いゲーム機を出した。
最新の機種などは、普通に考えて二人には買えない。
これは正一の友達から譲ってもらったものだった。
ソフトは正拳という格闘ゲーム、例え古くても、楽しむのには十分だ。
律子は結構強い、正一も手加減はしない。
本気の勝負だ。
せわしなく動く手、画面、ゲームのキャラクター達。
そして、正一の技が決まった。
正一の勝ちだ。
律子が悔しそうに画面を見つめる。
そんな中、不意に正一の携帯電話が鳴った。
マスクライダーバルトのオープニングだ。(勝手に律子に設定を変更され、そのままになっている。) どうやらメールのようだった。
「誰からだろ、ちょっと待ってろ律子」
「うん」
正一は、携帯を手に取り、開いた。
そして、画面を見る。そこには、検査結果通知と表示してあった。
「?」
検査結果とは、一体なんだろう?
考えた所で、やっと思い当たった。
魔法科学の属性の適正だ。
少し胸を高鳴らせながら、正一はメールを開いた。
通知には、こう書いてあった。
適正、太陽魔法、月光魔法、以上。
何とも淡白な通知に苦笑いしながら、正一はその結果を噛み締めた。
二つの魔法科学の属性が自分に適正があった。
その事実を。
日曜日を普段と変わらない生活リズムで過ごし、月曜日を迎える正一、朝ごはんを自分で作り、律子の分も用意する。
律子はまだ眠っているが、そろそろ自分で起きてくるだろう。
時間は七時、起きる時間としては少し遅いが、それでも学校には十分間に合う時間帯だ。
「おはよー」
案の定、律子は目を擦りながら居間に歩いてきた。
「顔洗ったら飯食べろよ?」
「ふぁーい」
間の抜けた返事をする寝起き感マックスの妹に苦笑いしながら、正一は自分の食器を片付けていた。
律子が学校の準備を済ませると、二人は同時に家を出た。
晴れた日の朝だった。
七月の陽気、雲ひとつない空、そして、蝉が鳴いている。
「あれ、いつの間に蝉が出たんだっけ?」
「昨日からだよ多分」
夏を感じ、感慨に耽りながら呟いた正一に律子はすぐさま答えた。
多分、というのは、おそらく律子も自信がないからだろう。
ともあれ、蝉の声を聞きながら、二人は小学校に向かった。
律子の通う小学校は、大通りを抜けた先にある。
二人が歩く大通りは、家から出てすぐのところにあり、交通の便があり、自営業の店が立ち並んでいる。大型スーパーなどの台頭により、腐りかけた自営業が多いというのに、この大通りは頑張っている。たゆまぬ経営努力と活気にあふれた売り込み、それがこの大通りに活気を生み出している。
魚屋を通り過ぎ、肉屋を通り過ぎ、八百屋を通り過ぎて、大通りを抜ける。
どの店もまだ本格的な販売時間にはなっていないので、客は来ていない。
それとは対照的に、あらゆる人がこの大通りを通っていた。
何度か顔を会わせた人、(といっても、知り合いではない)とすれ違う。
そして、大通りを抜けた。
するとすぐに、学校が見えた。
この学校には西の入り口と東の入り口があって、今律子が入っていこうとしているのは西の入り口だ。すでに何人かの生徒が登校口から入っていこうとしている。
割と新しいモダンな感じがする学校で、アーティスティックな印象を受ける。
形容し難い形状のモニュメントや、変な模様の刻まれた壁など、何でも有名なアーティストが手がけたらしいが、正一にはよく分からない。
ともあれ、正一は何度かこの光景を見ているのでもう慣れていた。
「じゃあ、律子、帰りは一人で大丈夫だよな?」
うん、と頷き、昇降口に向かう律子を見送り、正一はその場を後にした。