魔法適正検査
彼らの学校そのものは、普通の高校と変わらない平凡な校舎、平凡なグラウンド。
しかし、彼らは、平凡とは言えないカリキュラムをこなしていく。
魔法化学は、適性がある人間にしか使えない。
というわけで、この学校には、魔法化学を使える才能をもった人間が集まっている。
「よ!お二人さん」
昇降口に差し掛かった二人は、クラスメイトの一人から話しかけられていた。
「おはよう、木戸君」
「やあ、木戸君、どうしたの?その腕」
クラスメイト、木戸真は、たくましい体付きの男子で、スポーツ全般が得意。
割とルックスもいいので、女子にはもてるのだが、成績が振るわないのが、たまに傷。
などと、少し失礼な事を正一は考えつつ。
そんなクラスメイトの腕に包帯が巻かれているのに気づいた。
「ああ、これ?途中で猫が轢かれそうになっててさ、何とか一命は取り留めて、助け出すことができたんだが、腕をやっちまった」
「大丈夫なの?」
コロナが心配そうな顔でその腕を見る。
真は、腕を大きくグルンと回し、特に問題ないことを見せると言った。
「まあ、行こうぜ」
「そうだね、話は教室でしよう」
かくして、三人は教室に向かった。
教室には、疎らに生徒たちが来はじめていた。
幾つかのグループを作って、全員が談笑している。
「明日はいよいよ、魔法科学の実技の練習だな。理論ばっか頭に詰め込んできてたからすごく楽しみだ」
「僕はハラハラッて感じだよ」
「私も、ちょっと不安かも。魔法の暴走って怖いらしいし」
そんな声が聞こえた。
これまで、正一たちは実技の練習をしたことがない。
魔法と科学の理論をみっちりと叩き込まれてから、実技に入ることが出来る。
そして、明後日遂に正一達は理論実習を終え、実技訓練、魔法科学を駆使した戦闘などの訓練に入る。
正一は窓際の一番後ろの席に座った、コロナも自分の席に座り、真が正一の席の前に立った。
「正一はどうなんだ?」
「どうって何が?」
「何がって実技だよ、不安じゃないのか?」
いきなりの問いに、正一はしばし考え込んだ。
「うーん、不安と言えば不安だけどさ、どっちかというと実感がないって感じかな・・・」
「ふーん」
正一の回答に、真は概ね納得したように頷いた。
と、そこで授業開始のチャイムが鳴る。
「っと、やべ」
真はいそいそと自分の席に向かった。
他のクラスメイトも急いで自分の席に座った。
そして、数分後、教室の戸を開け、教師が入ってきた。
眼鏡を掛けた細身のいかにもインテリ風な男性教師、粟野先生だ。
「ええ、皆さん、これから魔法科学適正の検査を始めます。体育館に集まってください」
「センセー、適正検査って何ですか?テストみたいなもん?」
クラスの誰かがそんな質問をした。
「いいえ、テストとは違います。皆さんがどの魔法に適しているのかを調べるための調査です。
皆さんもご存知の通り、魔法には属性があります。
火星魔法、土星魔法、水星魔法、などなど、今打ち上げられている衛星から送り込まれるどのパワーの属性に貴方が向いているのかを調べます。それによって、貴方がたがこれからどのようなカリキュラムを受けるのかを決めます。概ね分かりましたか?」
「分かりましたー」
少し間の抜けた声で、質問した生徒が答えた。
それに、何人かの生徒がクスッと笑った。
そして、全員が席を立った。体育館に向かうのだ。
これから、自分の能力を浮き彫りにされるというのに、クラスに悲壮感は無かった。
何故なら、もうすでに、魔法の才能があると認定されている人間しかここにはいない。
少なくとも、一つの属性の魔法が使えることはもう既に確定しているのだった。
そんなわけで、生徒達に悲壮感は無い。ただ、後は自分が望んでいる属性の魔法の才能があるかどうかだった。
体育館は、どこにでもありそうな普通の概観だった。だが、一つだけその景色に似つかわしくない物が置いてあった。
それは、幾何学的な文様、魔方陣のような装飾が施された機械。
青い輝きを放つ魔方陣が、円形に配置され、中央にやはり青い透明な球体がはめ込んであった。
そして、粟野がその前に立ち。説明を始めた。
「はい、皆さん、これからこの機械のこの球体に手を乗せて貰います。それだけで結果は出ます」
ザワザワと、クラスがざわめきたった。簡単なその作業だけで、全てが決まるのが意外だったのだろう。
何はともあれ、選別が開始された。
一人目が透明な球体を触ったとき、その球体が光を放ったように見えた。
一人目の生徒は驚き、手を離してしまう。
だが、選別は問題なく終わったらしく、次の生徒が呼ばれた。
「おいおい、何の属性に決まった。とか、言わないのかよ?」
真がそう愚痴をこぼした。
「結果は後でまとめて皆さんに通知しますので、待っていてください」
粟野がそう答えた。
十分小さな声で言ったつもりだった真は縮み上がった。
粟野先生はかなり地獄耳なようだ。と、正一は心の中のメモ帳に書き込んでおく。
次々と選別は終わり、遂に正一の番が訪れる。
正一が出席番号が一番最後だったので、もう殆どの生徒は教室に帰っていっていた。
正一は、そっと息を吐き、球体を見つめた。
そして、その球体に触れる。
青い球体が一瞬、ほんの一瞬だけ、赤く光を放った。
思わず、正一は手を離した。
そんな正一の後姿を、興味深く見つめる粟野の視線に気付かずに。