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Other two wolrd  作者: 若月 幸仁
物質サイド
10/14

生徒会初仕事

あれから、一週間がたった今も、正一は太陽魔法の制御をすることが出来なかった。

 魔法を発動させる度に、暴走をさせてしまう。

 そんな正一は、ある決断をしていた。

 それは生徒会室に行くこと、執行部に入ることだ。

 この学校の生徒会の活動は、違法に魔法科学を使う生徒を取り締まることで、正一が戦力になると桜井が言っていたのは、その為だろう。

 当然の事ながら、正一も生徒会に入れば、その業務を行わなければならない。

 朝霞は、入らなくてもいいとは言っていたが、太陽魔法の極意を聞く以上、生徒会に入るという形で筋を通さなければいけないと、正一は思っている。

 この学校の生徒会は選挙などを行わない、完全な指名制であり、前期の生徒会役員から指名されるという形で、役員が決まる。

 悪しき風習と言えばそうなのだが、下手に選挙をすると、選挙者の間で、魔法科学を使った喧嘩が起こることがある。そのため、統べては指名制ということになっている。

 このままいけば、正一は生徒会役員に選ばれるだろう。だが、それには障害がある、律子だ。

 帰りが遅くなって、律子の世話を出来ないのは、正一にはきつかった。

 そこで、正一は、律子と相談する時間をとろうと、早めに帰っていた。

 

 家に着き、正一は律子が帰ってきていることを、靴を見て確認した。

「律子ー!」

 そして、名前を呼ぶ。

「何?お兄ちゃん?」

律子が部屋から出てきた。

「ちょっと、話したいことがあるんだ」

「うん・・・」

 律子は、少し不安そうな表情で、頷いた。

 そして、正一と律子は居間に移動し、話し合った。

 と、言うよりは正一が一方的に話す構図になっていたが。

 正一が話し終わると、律子は何度も頷いて、笑顔を作り、答えた。

「うん、いいよ、私は大丈夫!すごいね、お兄ちゃん!生徒会の人から選ばれるなんて!!」

 正一には、律子が無理に笑っているようにしか見えなかった。

「律子、あのな、でも俺が生徒会に入ったら・・・」

「いいんだよ!大丈夫、自分のことぐらい自分でやれるもん!!」

「そうか・・・」

  律子に感謝し、正一は頷いた。

「じゃあ、俺は生徒会に入るよ」


 翌日、正一は生徒会室を訪れていた。

 数名の生徒がそこには居た。

「じゃあ、入ってくれるのね?弥生君!」

 まっさきに嬉しそうな顔で、正一の手を握った桜井は眼を輝かせて、確認をとった。

「ええ、それで、太陽魔法の制御の仕方を会長に教えていただきたいんですが?」

「ああいいよ、弥生君、いつでも見てあげよう」

 朝霞は正一の言葉を承諾し、頷いた。

「その前に、生徒会のメンバーを紹介するわね?弥生君!」

 その直後、桜井が異様に高いテンションで、提案した。

 正一としても、それは願ったりかなったりだ、先輩の名前ぐらいは知っておきたい。

「じゃあ、まずは生徒会長の陽炎朝霞くん!リーダーはこの人しかいないわ!」

「よろしく」

 朝霞が、笑みを浮かべ挨拶する。正一も会釈を返した。

「次は、書記の佐賀義人君!筋肉隆々だけど、時は上手い!」

「よろしく、新入り!」

 桜井の言葉どおり、筋肉が盛り上がった、プロレスラーのような体付きの男子生徒がフレンドリーな挨拶をする。

 またも、正一は会釈を返した。

「次は、庶務の八木原琴美ちゃん、とってもキュートでラブリーでしょ?」

「副会長、一年生の前でそんな事を言うのは止めてください」

 冷静に返す琴美だが、確かにキュートでラブリーというのは否定できない。

 背は正一よりも小さく、小動物のようだ。

「よろしく・・・」

 琴美は表情を変えずに、挨拶した。

 いうまでも無く、正一は会釈を返す。

「そして、副会長の桜井いずみです!よろしくね!」

 そう言って、正一の手を掴み、ブンブンと振り回すように握手すると、笑顔で桜井は自分の席についた。

「さて、正一君は琴美と同じ庶務の仕事をやってもらうよ」

 ひと段落着いたところで、朝霞が業務連絡をした。

 相変わらず、不思議な深みのある声だった。

「具体的には何をすればいいんですか?」

「校内の見回り、違法に魔法を使う生徒を取り締まること」

 朝霞に代わって琴美が答える。

「いきなり、実戦ですか?」

「安心して、戦いにまで事態が進行することは殆どない、それに私がいるから」

 狼狽する正一に、琴美は表情を変えずに言い放った。

「すごい自信ですね?」

「うん、まあ」

 正一は呆れたように、言ったが、琴美は相変わらず表情を変えずにさらりと答えた。

「それじゃあ、行こう」

 その言葉と共に、琴美は部屋を出た。

 正一は慌ててその後についていく。

 こうして、正一の生徒会業務が始まる。


「あの、八木原さん?」

「・・・琴美でいい」

 生徒会室を出て、質問をしようと琴美駆け寄った正一は、琴美の思わぬ言葉に面喰った。

「でも、上級生ですし、呼び捨てっていうのはちょっと」

「そう思うなら・・・いいけど・・・」

 琴美はやや不服そうな顔をしながらも、承諾した。

「・・・それで、何?」

「ああ、はい、どこから回るんですか?」

「・・・・あっちから」

 そう言って、琴美は体育館を指差した。

「大抵、騒ぎが起こるのはあの場所・・・・」

「なるほど」

 どこまでも無表情な琴美に狼狽しながらも、正一は体育館に向かった。

 もちろん、二人でだ。

 

 体育館では、部活動が練習を行っていた。

 しかし、ここでいざこざが起きていた。

「今日の活動は、我がバレーボール部行う予定だったはずだ!」

「そんな予定は知らないね、今日は我がバスケットボール部がこの場所を使うことになってるはずだ!」

バレーボール部の主将と思われる生徒と、バスケットボール部の主将と思われる生徒がいがみ合っていた。

「やるか!バレーボール部主将門脇君!」

「ああ、やってやる!バスケットボール部主将佐渡君!」

 そう言って、二人はブレスレッドを装着した。

 バレーボール部主将が土星魔法のデバイス、バスケットボール部主将が水星魔法のデバイスだ。

 そして、主将を中心に部員達が険悪な雰囲気で向かい合う。

「いけない、止めなきゃ」

「僕が行ってきます!!」

「あ、待っ・・・・」

 正一は琴美の静止も聞かずなりふり構わず走っていった。

 そして、険悪な雰囲気で向かい合う二人の間に割って入った。

「落ち着きましょうよ!体育館は分けて使えばいいじゃないですか、折角全面使えるんですから!」

「うるさい!外野は黙っていろ!」

「そうだそうだ!これは、俺たちの問題だ!!」

 取り付く島も無い、二人は更に険悪な雰囲気を増しただけだった。

「喰らえぇ!土星魔法!」

「喰らえぇ!水星魔法!」

 そして、遂に戦いの火蓋は切られた。

 バレーボール部主将の身体から、円盤のような物が無数に展開される。

 対して、バスケットボール部主将の身体から、青い光が発散される。

 そして、二つの力はぶつかり合った。

 しかも、正一を中心に巻き込んでだ。

 正一は叫び声を上げる間もなく、吹き飛ばされた。

 琴美が息を呑む、更に続けて主将二人の怒声が響いた。

 

 正一は再び、薬品の匂いが漂う部屋で目を覚ました。

「起きた?」

 目の前には心配そうな顔でこちらの顔を覗き込む琴美がいた。

 正一は起き上がろうとしたが、激痛に呻き、起き上がることが出来なかった。

 どうやら思った以上に深く身体を傷つけていたらしい。

「ごめん、私のせいで・・・」

 本当に済まなそうな顔で、琴美は謝罪した。

「いいえ、僕が不用意に割って入っていったから、で、あの二人はどうなったんです?」

「大丈夫、あの二人は、こらしめておいたから」

「そうですか・・・」

 ほっとした正一は、ベッドに身体を預け、息をついた。

「無茶しすぎ・・・」

「いや、出て行っただけなんですけどね」

「それが無茶だって言ってるの、分かる?」

 琴美は初めて表情を崩した。

 少しだけだったが、顔の筋肉が引きつっていた。

「分かる?」

 再び、怒った顔を正一に近づけながら、確認を取るように紡ぎだされる言葉。

「分かる?」

 答えるまで、この質問を止めないつもりらしい。

「分かりました。もう無茶はしませんから、顔が近いです」

 そう指摘された琴美は気付いて、顔を赤らめると、

「ご、ごめん」そう言って、顔を遠ざけた。

「弥生君、とりあえず今日は帰ったほうがいいよ、RPGみたいに便利な回復魔法も無いし、自然に治癒するには時間がかかるから、無理は禁物」

 何故か明後日の方向を見ながら、やや上ずった声で喋る琴美、とりあえず自分の身を心配されているようなので、正一はお言葉に甘えることにした。

「分かりました、今日は帰ります、会長達によろしくお願いします」

「分かった」

 とは言ったものの、正一は起き上がれなかった。

 痛みが残っていたからだ。

「やっぱり、想像以上に傷が深いみたい、高レベルの魔法を二度も受けたんだから当たり前か、先生、やっぱり病院に連絡したほうがいい」

 そう言って、琴美はカーテンをあ開けて、向こう側にいる青山に頼んだ。

「うん、そうだね、でなければ、親御さんに電話をしたほうがいいね」

「すいません、親はいません、ですから家に電話しても無駄です」

「親がいない?それはどういう・・・」

「分かった、とりあえず病院に電話をしよう」

 正一の雰囲気からそれ以上詮索されたくない事情を看破されたのか、青山は琴美の言葉を遮るように言った。

「いえ、大丈夫です。そこまでしていただかなくて」

 正一は、無理矢理立ち上がり、平気なことを見せようとその場で二三回ジャンプしてみた。

 少しだけ痛みがあったが、何とかその動作は行うことが出来た。

「ふむ、大丈夫そうだね、じゃあ、気をつけて帰るんだよ?」

「はい」

「・・・じゃあね、弥生君」

「はい、また明日、八木原さん」

 二人の挨拶を受けて、正一は帰路についた。

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