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未来は見果てぬ旅路の先  作者: 彩守るせろ
第二節 転機の出現/見霽の青年
86/189

P2-41 やみゆきのひ 7




「なぁ、ヘイ」

「あ?」


 まだ何も知らぬ、日常の続きを生きる二人の魔具師は視線を合わせる。

 彼の目の前で楽しげに、彼女は時計を見やって笑う。


「そろそろ何か腹に入れないと、リョウ君が後で怒るんじゃないのか?」





「うん、美味しいな。リョウ君は本当にまめだ」


 (リョウ)の背負い込んだ面倒事を、今日もまた眺めてやれやれとヘイは息を吐いた。

 何とは流す視線の先に、存在する時計の示す時刻は十一(シュミン)の刻。昨日と今日が同じならば、あと一ネーレ(一時間)ほどで奴が家へと帰ってくるだろう時間だ。

 常と何も変わらぬそれを見やりながら、しかしどうもヘイは気分が上がりきらないままでいた。それは二日連続でこの刺青女なぞと顔をつき合わせ続けねばならなかったせいか、或いは朝っぱらからどこまでもずっと降り続いている、止む様子を全く見せない今も屋根窓打つ雨のせいか。

 雨は、嫌いだ。好きなのは酔狂でバカで何も知らないガキくらいものだろうと思うし、雨なんぞというのは基本的にその程度でいい。

 かといって晴天が好きかと言われれば、それはそれでまた首をかしげずにはいられないのがある意味、ヘイの魔具師としての残念な部分であるのかもしれない。


「ヘイ?」

「……めんっどくっせェ」


 テーブルに載った料理のすべてを、リーに取られてしまう前にそれぞれ適当に口内へ放りこんでいきつつぼそりと呟く。口の中にもの入れたまま喋るなよと、苦笑しつつ茶を入れに行ったりする存在はここにはいない。

 リーと止まない雨の下、思い返すのは過去のことだ。鬱々と暗い室内。錆びついた空気と関係性に独断専行、妨害工作。下らぬことばかり山積みで、それでもこの手は真っ当な方向にしか動かさない、動かしてなんぞやらない、選択肢は確かに自分にある、この追究の先には光があると、バカの一つ覚えのように突っ走っていたころの記憶だ。

 清算なぞとっくに終えてしまったはずのソレをどうもボロボロ思い出すのは、リーとの関係性で言えば、昔とはある意味状況が真逆であるからなのかもしれない。

 良いのか悪いのか知らないが、リーはどうやら何一つとして、まだ自分の身に纏わりつくうざったいモヤを取り払えていないのだから。


「そうだな、面倒だな」


 果たしてヘイの言葉のどこにどう共感したというのか、ふわりと目を細めてリーが言う。

 まずテメェの存在それ自体が面倒だっつーンだ。何となくヘイは言いかけて、しかしそれはあまりに誰にとっても自明すぎるので口にするのはやめておいた。どうせリョウとリーが出会ってしまった時点で、こいつにリョウが巻き込まれたのかそれともリョウのほうがリーという異端をまたひとつ自分へ巻き込んだのか、歯車は無茶苦茶な噛み合い方をした揚句にだれにとっても奇想天外の方向へと動きだしてしまっている。

 ひと、もの、国、大陸、世界。

 それらに須らく破滅しか与えはしないレジュナリア【傀儡師】が、わざわざこの国くんだりなぞに現れた理由など知らない。リーが自ら語るとも思えない。

 ただ楽しそうに腕を創る、彼女がその笑顔の裏で一体何を造りどこに誰にその完成品を放り投げているのかなぞ、

 ……ある意味さっさと全てバレて、リョウから絶望でも蔑まれでも罵倒でも何でもすればいいのではないか、とも思う。


「……ん?」


 雨音と、薄暗い思考と沈黙。

 それらを破ったのは、少なくともこの家においては至極異質な音の連続だった。一度はただの聞き間違いかと思った音は、しかし二度三度四度とさらに続けてヘイの鼓膜を打ってくる。

 ダンダンと、ずいぶんと乱暴な叩打音(こうだおん)

 雨にも負けず容赦なしに拳を打ちつける音、それが響いてくる方向に思わずヘイは眉をひそめた。


「なんだ、君の客か?」

「テメエなんぞと一緒にすんな」


 一方平然とした顔でしれっとそんなことをのたまうリーに、さらに眉間のしわを深いものにしてヘイは返す。非常に残念なことに、現在のヘイはごくごく平凡な善良な一市民である。

 しかし無視しようとしても、ただごとではない、さっさと開けろとでも言わんとばかりに叩打音は消えるどころか増える始末だ。確実に叩く拳の数すら増えているような気がする、いつまでもそれを聞き続けるのにもイライラしてきて、先ほどまでの何とも言えない気分の悪さもないまぜに、乱暴にヘイはその場から立ち上がった。

 少し面白そうにひょいと片眉をあげるリーの表情に余計に苛立ちめいたものを煽られつつ、先ほどから叩かれ続ける、騒音発生器と化したドアを殊更大きな音を立ててヘイは全開した。


「ンっだっつーンだよ、店なら絶賛休業中だッつってんだろが、うっせぇ!」


 そんな乱暴な言葉とともに開いたドアの向こう、そこに集った人数の多さと誰もが一様に浮かべた非常に厳しく硬い表情に、ヘイは次の瞬間、目を見開いた。

 彼の目の前にいたのは、身なりも年齢も男女もぐちゃごちゃな一団だった。

 見慣れない顔が随分多い。しかしとりあえずヘイからして一番手前にいたのは、リョウを放りこんだあの店、クラリオンの店主であるむさくるしくデカい親父だった。

 それこそ随分な過去ならともかく、この国に来てからというもの一度として、ヘイは一人でこんな大人数を相手取ったことなどない。そもそもそんな理由がひと欠けたりとも存在していなかったのだから、当然といえば当然だった。

 ただの享楽主義者、道楽で軽い、ヘイ当人にとっては非常にどうでもいいもの、家においておけばいつかは役に立つかもしれないもの、その程度の下らない玩具めいたものを細々売って日銭を稼ぐ、ただの一介の下らない魔具師(カワリモノ)

 少なくともリョウが現れるまでは、この国におけるヘイというものはただそれだけの存在でしか、なかったのだ。


「……何だ、この数。しかもテメエら、その顔何だっつーンだ」


 予想外かつ異様に真剣な全員の表情や雰囲気、気迫と形容した方が相応しいのかもしれないものに毒気を抜かれた。中途半端にぷすんと抜けた気のまま問えば、やれやれとどこかひどく面倒そうにクラリオンの親父がため息を吐いた。

 ため息を吐きたいのはこちらの方だというのに、である。一体何のことやら何をヘイたちに吹っかけに来たのやら、訳の分からない一群をとりあえず腕組みをし眺めていれば、割合すぐさまそちら側が口を開いてきた。


「俺たちだって用もねぇのにここまで来たりはしねぇよ。そもそもまだウチはいつもなら営業時間だ、リョウも含めてな」


 耳朶を打つのは、非常にまっとうかつ当然の言葉だとは思うがわざわざこの家に大勢で押し掛けてまでヘイにかけるようなものではない。

 やはり訳が分からないまま、一度組んだ腕を解くこともできないままヘイはさらに問いかけた。


「あンだよ。今更アイツが何か致命的なバカでもやっちまったとか言うか? 俺に?」


 有り得ないことを確信しつつ問う。なにしろリョウは既に山のように、あの店独自の珍味を作るという意味以外にも、あの場に自身がいる意味を作ってしまっているのだから。

 そもそもあの、どうしようもないほどに暢気な男のことである。それこそ一度何かそれなりにデカい失敗をしたとしても、まずこんな大人数をキレさせるような大事にはなろうはずもない。よくある怒りとそれに続くお説教が一通りあって、後には盛大に笑われて終わりだろう。

 思考しつつ結局首をひねるしかできないヘイに、ややあって返ってきた言葉は、そして。


「リョウが、王宮の騎士に連行された」

「……ア?」


 つるり、と。

 棘と苦みに溢れたそれは、見事なまでにヘイの中で上滑った。

 今、何つった? リョウが、……ヤツが何に何だって?

 口にはせずとも表情にありありと表れていたのだろう、さらに面倒そうにクラリオンの親父はため息をもう一つ重ねた。


「リョウが、宮廷騎士団の騎士に強制連行されたんだよ」


 二度目も上滑りしかけた言葉に、なんとか今度は取りすがることにぎりぎり成功する。しかし正面から取りすがってみても、やはり意味不明な言葉であり理解ができないことには残念なことに何の変わりもなかった。

 リョウが、騎士に捕まった?

 いったい何がどうなって、そもそも何故に、今なのだ?


「……は、?」


 リーの存在が、ヤツがレジュナリア【傀儡師】であることがバレた?

 リョウは未だ知るよしもないが、誘滅の狂踊師などという物騒な通り名を持つリーは基本的に、関われば誰も無事ではすまない危険人物である。しかし、いや、もしもしそうだとするならば、今このドアの前に群れをなすのはこの親父らのような一般人ではなく、レッキとした、それこそ宮廷の騎士たちの一群であるはずだ。

 意味が分からない。そもそもそんな事態になることがありえたというならなぜ、あのバカを気に入っている貴族の奴らがみすみす、可能性を看過したのかの予測がつかない。

 ひたすらに混乱だけをあおられながら、深々と一つヘイは息を吐いた。


「何したってンだ、あいつがよ」

「俺たちが知るか。……騎士(ヤロウ)らはあいつが人を殺しただの、貴族がどうだの何だのと言ってたがな」

「ハあァ? あいつが、よりにもよってあのリョウが人を殺した、だァ? いつ。どこで。なんのために」

「っだから、俺たちだって何も知らねぇんだよ! 確かなのはひとつだけ、リョウがろくでもねぇことに確実に巻き込まれたって、そんだけだ!」

「……」


 若干キレ気味な親父の言葉に、続けようとした言葉をヘイはひょいと呑み込んだ。わずかに口をへの字に曲げる、急に叫んだりしたからかそもそもあまりおいそれと接触したくなどない分からないもの/ヘイを目の前にしてであるからか、目前の親父の肩は盛大に上下していた。

 まだまだ言いたいことなどそれこそヘイにも山のようにあったが、どうやらそんな状況は今、彼の目の前にいるこの大勢の誰にしても同じことらしいと察するくらいの思考と洞察力くらいは持ち合わせている。

 バカバカしい、と思った。心底からくだらないと思った。

 なんで、リョウが。自分や親兄弟どころか、知り合いですらないような他人の命すら必死で守り、救う方法を、一度折れた指針を再度立て直す方法まで模索するようなあの底抜けの無茶苦茶が、いったいどこでどう転べば誰かを殺すなどという方向に突然走ったりなどするというのだ。あんな温室育ちのぬくぬく野郎に、人を生かすことはできてもその逆が一度だってできようはずもない。

 そしておそらくそんな思考は、この男らにしても同じこと。

 この王都東区画に定住する人間、平民で、いまやリョウを知らぬ人間はほとんどいないと言ってもおかしくはないのだ。


「……はッ」


 おかしくも何ともないのに笑いが口をつく。リョウが自身の力で結果的にこいつらから得た信頼。それはリョウが、「病気」ではなく「患者」を診ようとしていたことに起因するものだ。

 カイシンと呼ぶものから帰って来たリョウはいつも足りない足りないと自分の「無学」に苦笑し苦しんでいるが、そもそもそのカイシンを、「すべて終わって」しまった病気のために続けるなど、少なくとも今のこの国の人間ならほぼ確実に誰も考えない。ガキどもがこぞってリョウになつく理由についても、ヤツはもう少しよく考えるべきなのだ。実際に言ってやる気はさらさらないが。

 治癒というものは貴賎にかかわらず、ただ一方的に傷病を得てしまったものが「求め」結果として「施される」「こともある」程度のものでしかないはずだった。

 リョウはそして「そうでない」からこそ。

 ふヌケた面も多々多々ありつつもこうして、人がわざわざヘイのような人間のもとにまで押しかけてくるような結果を、作りだすまでに至ったのだ。


「とりあえず、状況については伝えたからな。どうせ俺たちにはあんたの思考は分からねぇ。あんたはあんたで勝手にやるだろ、ヘイス・レイター」

「……アー」


 どろりとした思考に割り込むように、かけられた声に非常にやる気なくひらひらと手を振る。

 今現在ヘイが分かっていることは目の前のこいつらと同じ、いや、それ以下だ。あまりに少ない。情報がない、得る伝手に関してもいちいちがひどく面倒そうに思える。

 そもそもそれなりにデカい図体をしたリョウが何がしかの「罪」に問われたからといってはいそうですかとおとなしく従ったとはあまりに考えづらく、どうせろくでもねェ脅しかコナかハッタリか暴力か、あのお人よしが前に出ずにはいられないような仕掛けを喰らわされたのだろうとひどくげんなりとヘイは考えた。

 話は終わりだとばかりに、目の前の全員がこちらに背を向ける。

 別にそれでよかった。むしろそれでこそ良かった。基本的に他人は邪魔だ。こちらを理解どころか突き進んでくる気概すら見せはしないし、そもそも適度に丁寧に逐一説明をしてやるというのも非常に面倒くさい。

 全くもって、ほんとうに面倒くさい。

 いっこうに降り止まないこのドス暗い土砂降りの雨も含めて、どこまでもどうしようもなく、ただただひたすらに、鬱陶しい。


「……ったく、次ッから次へと片っ端から面倒事ばっか見事に全部拾い上げやがって、あンのバカ」


 去りゆく背すら見えなくなった、がらんどうになった開かれたドアの先にある暗い夜曇天を見上げてヘイは呟いた。一体何がどう転べば、リーという超級爆弾の露呈もなしに何の理由かも知れないようなムチャクチャに巻き込まれることができるというのやら。

 まあしかし、リーという存在自体が無関係というわけではもしかすれば、ない、のかもしれない。

 何しろ今日一度だけ、リーはひどく、奇怪な表情と動きをわずかながら確かに、ヘイに見せていたのだ。


「……私の、せいか」


 ぽつりと後ろからそんな声が落とされたのは、まるでヘイの思考を呼んだかのようなタイミングだった。

 今更自身の後方など、振り返る必要などこれっぽちも感じないので空を見上げたままヘイは小さく哂う。やはりまったくおかしくなどないせいか、喉奥が若干引きつって奇妙な音と感覚を立てた。

 彼の見上げる空と同じく、ずんと沈んだ女の声。

 違和感を飲み込まないまま、ヘイはもう一度哂った。


「殺人、だとよ。人が、ひとり死んだとさァ」

「……」

「アレか。午前中に一回、テメエがミョーな動きしやがった、アレか」

「……は、気づいていたのか。さすがだな」


 自嘲だらけの声が、そこで返った。全く嬉しくなぞない賛辞に、むしろ当たらないほうがどれだけ良かったかと思うそれに、またもヘイは哂うしかない。

 後悔なんぞするくらいなら、さっさとすべて捨てりゃァよかったモンを。

 それが決して容易などという言葉からは程遠い苦難の連続であることを身をもって知っているからこそ、ひどく残酷なことをヘイは平然と思う。


「今日、私のレジュナ【傀儡】がひとつ、こわれた」


 自身が起点となる災厄の輪から、未だ抜けられないにもかかわらずあんな黒と出会ってしまった哀れな女が呟く。今更の夢追いに浸ることもできない、がんじがらめの鎖を切れないまま夢を見せつけられた弱く狡い特殊な魔具師が言う。

 今更ながら、確かにちったァ俺も変わったのかねェ、としみじみヘイは思った。なにしろまさかこの女を哀れなどと思う日が来るとは、過去には全く予想だにしなかったのだ。

 だからこそ、ただヘイはひどく酷薄に哂って後ろなど振り向かない。

 降りしきる雨を睨みながら、夜の曇天を見上げ続ける。


「あーァーこれだから嫌だねェ、レジュナリア【傀儡師】ってのはよォ」


 どこに行くかも分かンねェテメエの武器は、今度はアイツ巻き込んでどこでどう踊りやがった?

 慰めの言葉など不要だ。ヘイはそんなガラではないし、そもそも今更の慰めが必要なほどにリーはお綺麗潔白な人間などではない。

 吐き出す言葉を叩きつければ、確実にトーンの低くなった、リーの声が後方から返ってきた。


「君こそ本当に良い御身分だな、ヘイ。さすがに私も軽く殺してやりたくなるよ」

「ハッ。生憎俺は、テメエの錆は全部削り落としちまってるモンでな。せいぜい盛大に羨ましがりやがれ」

「……嫌な奴だよ、しみじみ、君は」


 どんな言葉を投げつけたところで、それは八つ当たりであり同族嫌悪であり、結局は互いに自身に対して思考していることの反映でしかないとどちらもよく分かっている。

 だからこの女と長々一緒にいるのは嫌なのだ。何も分からないのではなく、どうしようもない程度に色々と分かってしまうからこそ、近づくことなど必要最低限に留めることしか考えたくはない。

 ぽつりとまたひとつ、リーが後方で呟いた。


「確かめなければ、何も始まらない、か」


 仮定と実証、反復と考察、その上での更なる仮定、そして正否の証明。

 それらを自身の大原則とする魔具師らしいといえば非常にらしい、それは言葉であるとはとりあえず思う。


「いい加減そのドアを閉めろ、ヘイ」

「あァ? ここは俺の家だ、文句あンならテメエが出てけ、リー」

「今日起きたその「殺」人を、これから君に見せると言ってもか?」

「……へェ?」


 肌寒さを感じつつそれでも閉じず放置していた、空を見上げるためだけに開き続けていたドアを閉じろとリーは言う。適当に反論してやれば、それは幾分ヘイにとっても興味深い言葉へと姿を変えて戻ってきた。

 ゆっくりと後方を、振り返る。

 先ほどまでこの家へと押しかけていた人間たちからは姿を隠していた、おぞましいまでにびっしりとした藍色の刺青に右半身を覆い尽くされた、おそらく現存するレジュナリア【傀儡師】の中では確実に指折りの才を持つのだろう女は笑った。


「ああ、君にも見せてやろうじゃないか。ぜひとも見てもらいたいものだね」


 その笑顔はどこか、泣き顔に似ていた。ヘイの知ったことではなかった。

 同情の代わりにどこまでも酷薄にニヤリと口許をつり上げて返してやれば、ヘイを睨みつけるようにして黄緑の左目と、刺青に色彩まで完全に奪われた藍色の刺激受容器であったものをつい、とリーは細めた。


「君とは違って私のものが、どんなに無残な結末を誰に、そしてあれ自身に与えることになったのかを」


 そう、レジュナ【傀儡】などというものは破滅しか生み出さない。

 ひとのような、決してひとでないもの。たとえその一部であろうと結局、導くのはひとの、ものの、一族の土地のひいては国の滅亡だけだ。

 それは決して揺らぐことの無い、ひどく残酷でどうしようもない世界の因果律だった。

 確かにそうである、――はずだった。




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