P3-52 騰点C
絶望。
絶望がどうして、こんなにも絶対的に足りない?
「なんで?」
苦しみ悲しみもがいている。
終わらぬ不幸に嘆いて崩折れる。
鏡の中に映るのは、彼の望んだ通りの人間たちの姿だ。
彼という絶対の強者の前に、為す術もなく敗北するだけの弱すぎる者たち、憐れな低俗の積もる山。
その、はずだ。
それだけが満ちていっている、はずだ。
ただの人間風情にこれが見抜けるわけがない。襲いかかる絶対的な不幸に相対して究明し、ましてや解決するなど、誰にも、できるはずもない。
なのに、わかっているはずなのにいつまでも気が晴れない。すべて、なにも、計画は変わっていないはずなのに。人間風情が彼を相手に、変えられるはずもない、はずなのに。
なのに。
「――――随分イラってンじゃねぇか、なんだぁ、いつものキモい悪い顔はどうしたよ? コルト」
ぐるりと室内の空気が揺らぎ、さらに彼のいら立ちを助長する傲岸な声がする。
一切隠そうともしない、はっきりと彼を己の下と見下しきっているがゆえの騒々しく軽薄な調子。鬱陶しい以外の何でもないそれに、フンと彼は鼻を鳴らした。
「……うるさいな、何でアンタがここにいるんだよ」
「ッハ、お兄サマがご心配だぜ? コルト、テメエ一人じゃ本当にやり切れるかどうか、ってな」
「はあ? そのためにアンタまで来たわけ? キモ。いつの間にあんなのの下僕に成り下がったの、ヴィーお兄様?」
あえてにっこりと笑ってやる。
瞬間、男はゲェッと潰される蛙のような声を立てて後さずった。ひどくわざとらしく、両腕をさすりながら――そいつもまた、彼の前でわらう。
「キっメぇ、っはは、どんだけ溜まってんだよ。仮にもお兄様、ブッフ、に、っアッハハ、なぁに余裕無くしてんだ? ククッ」
うるさい。うるさい。
うるさい!!
「あんたに分かるわけない」
「あぁ、そりゃあ分かりたくもねえなあ。たかが人間、俺に滅ぼされるだけのクッソ弱ぇ馬鹿な間抜けに、何そんなにイラついてんだよ?」
「……っうるさい……っ」
根源が同じ存在は、互いを煽り上げることにあまりに優れている。
立場さえ逆であれば、彼も全く同様にこの男を嘲り煽っていたことだろう――わかるからこそ、苛立ちはいや増す一方だ。
さらには男は手を差し出し、
「次の一手を寄越せ、コルト」
「はぁ!? なんで」
「それがオニーサマの命令だ。っつーか最近つまんねぇからよ、少しでも何かあるなら噛んでおけって、よ」
「だからなんでアンタ、あの下僕になってるわけ」
「はっ、決まってる。退屈だからだ」
コルトの何も鼻で笑い、ただただ男は笑うばかり。
かけらの動揺もない、ただ常の通りに倦怠で膿んだつまらない顔で笑い、男は肩をすくめる。
「つまんねぇ人間を、ただつまんねぇまま潰してって何が楽しいってんだ?」




