P3-12 落下点 A
「第2日目」前哨戦
その場所は、今日も変わらずうす暗く停滞してただそこに空間として在った。
内側には、きょうはひとりだけの姿があった。あかりというものを必要としない中で、少年は鏡像と向き合っていた。
暗い中彼を映すのは、彼の背丈より大きな姿見だった。照明のない陰鬱の中でも、鏡面をおさめる周囲の装飾の端整で見事なことがうかがえる。刻まれた文様は真実を映すための透かしであり、随所に嵌め込まれた宝玉は、偽りを阻むための魔除けであった。
彼は、しばらく動かないままでいた。鏡でありながら彼を映さない内側を、次々に彼の指先の動きの通りに移り変わる光景を、ほとんど瞬きもせずに凝視していた。
変わる、変わる、また変わる。
変化は時間、もの、ひと。不変は、それらすべてのものが、抗えない絶望に塗りつぶされ「無」へと転ずること。
変わる/変わらない。
見えるすべては、彼が意図したその通りに動きとまり続けていた。
「うん、」
満足げに彼は頷く。彼には力があった。それらから、さらに吸い上げるものがあった。今日も至極順調に、数えていない命が彼へ絶望を差し出した。
何も狂いはなかった。
だというのに、ふいに脳裏には温度のない「相手」の目が過ってしまった。
――何が起きた。何が変えられた。
――あれとおまえと、そう大層な差があるとも俺には思えないんだがな。
ぎゅぎ、と、ひどく耳障りな音とともに光景がひび割れた。
長く鋭い彼の爪が、鏡面に食い込み映るものを引き裂いていた。いやなものを思い出した。思い出したくもない相手の、不快しか呼ばない捨て台詞。彼には何ら、関係のないことだというのに。
勝手に失敗したのは、光を滅せないままのうのうと今も生きながらえさせているのは彼ではないというのに。
「くるしめなきゃ」
ただ一瞬だけ、彼の意に添わずに映ったものに向かって彼は言った。
薄笑った。彼ではないものの失策だった。その結果の残る光であった。「彼ら」の満願成就を阻むものだった。この先、「彼ら」が未来のために、決して残してはならない禍根であった。
物語を紡ぐために。
すべてを「彼ら」のために、とじるために。
「しんでもらわないと」
歌うように彼は呪った。屈託のない笑みですべての穢れを願った。
呪者を、まだ誰も知る由もないときの話だった。
誰もが、首を落とすよりほかないと彼が信じていた時分での話だった。
かなり短くて申し訳ありません。明日も更新予定です。
のんびりお待ちいただければ…!




