P3-03 翼を拾い、羽が落ち 3
セルク。
椋の知らない名前で呼ばれた目の前の給仕は、咎めるような響きも帯びたフェイオスの声にもしれっとただ言った。
「心外だな兄上。僕だけではありませんよ」
――え。
言葉を理解し損ねた一瞬で、ばさりと彼はかつらを取り去り、いたずらが成功した子供のように後ろに笑った。笑ったと思えばべろりと何もなかったはずの空間がちょうど人間一人分くらいの大きさで剥ける。彼とまったく同じ類の表情をした深い青色の目と、ばっちり次には視線が合った。
それが誰か分かることに、驚くより先に呆れた。
「……何してんだよアノイ」
室内光でも存在を主張する見事なプラチナブロンドの頭。そしてそれ以上にきらきらしい、男前に嫌味なほど端正な顔立ちの男を呼ぶ。
にやりと笑みを深くするその人物は、アノイロクス・フォセラアーヴァ・ドライツ・エクストリー。
椋を「劒」にしてこの国に連れてきた張本人で、一応椋の上司で、そしてエクストリー王国の現国王陛下サマだ。それこそ表面的には、このレニティアス王国の現国王即位十五周年の記念式典に参加すべく、きょう、レニティアスの第二の首都とも呼ばれているらしい都、ニティスベルクにあるグラティアード離宮に到着する予定、だったはずの人である。
きっと今頃、エクストリーの一行は大騒ぎだろう。なにしろ王様がいないのである。確実に誰にも知らせずに、いきなりいなくなったのである。
いちおう当初の予定では、大きな問題がなければ夕食はカリアと一緒にとることになっていたのだが、この一瞬でちょっと遠ざかった気がした椋だった。そもそも今日の昼飯がまともに食べられる気がしない。
椋の内心など知らぬアノイは楽しそうである。
「リョウ、早速やらかしたらしいな。何をした?」
「何もしてない。なんだよその言い方」
「こんなところで謙遜は不要だぞ? そのためのおまえだ。まあとりあえずは、そこのレニティアス国王陛下の度肝をさっさと抜いてやれ。まったく、俺が意思を変えたと、ここに来る前からあちこちが煩くてかなわん」
「いや、だから、」
「ああ、カリアがたいそう心配していたぞ。あとで何か甘いものでも持っていって安心させてやれ」
「とりあえず会話してくれよ」
確実に、今現在のカリアの心配の中心はこの男であろう。げんなりしながら、ここにはいない金と銀の少女の心労を思いやった。
どこまでもこいつは、椋で今日も遊ぶのである。しみじみいつものことで、そしておそらくその「いつも」を、もうひとりの「彼」――今回の慶事のまさにその方、セルクレイド・ラディエル・ヴィエ・レニティアス国王陛下に、アノイは見せたかったのだろう。
アノイのきらきらしさの横では凡庸平穏に思えてしまうつるりとした顔立ちの青年は、しかし表情に、目に、立ち居振る舞い、挙措の一つ一つに、アノイと同じ種類のものを感じさせた。当たり前のように、彼は王様で、アノイと、「対等」のもので、……そして「異質」の椋を観察している。
凝、と。効果音でもつきそうな勢いだ。
「ふむ。まるで怖気づかないんだな」
「必要以上に、ビビることに疲れてしまったもので」
「なるほど。いかにもアノイのヴァルマス【劒】らしい言い分だな」
見据えられる、椋は目を逸らさない。アノイの意のままテンパってしまうのが癪だ、というのもあった。
これで相手がもし気分を害したとしても、とりあえずアノイが悪い。完全に椋は責任転嫁していた。ただでさえ出ばなで新患にぶち当たってしまっているのである。そこまで丁寧に回せるような気合も気力も、椋にはないのであった。
同時に恐らく、求められてもいないのであった。
それが正解と示すように、アノイは椋にもセルクレイドにも楽しげに、どこか不敵にも見える笑みを浮かべているだけだ。対するセルクレイドは何をどれだけ思ったのだろう、椋を探る眼の光は全く弱めずに彼はさらに問いかけてきた。
「それで? ヴァルマス【劒】、きみは状況をどう見る?」
「セルク」
いきなり、非常に困る質問だった。咎めるような響きを込めてフェイオスが彼を呼ぶ。何とも言い難い表情で、ヘイル夫妻が椋を見る。
状況。病の、ひとの、この場所の、ぜんぶの状況。
まだ、落ち着いてあのひとの診察もできていないし、仲間の人たちから話を聞けてもいない。病気のいろいろについて、フェイオスたちに聞きたいこともたくさんあった。書ける限りのことはきっと手紙に書いてくれていたと思うのだが、それでも、書面上では分からないことが多すぎた。
情報が、時間が圧倒的に不足していた。
よそものの椋は、まだまともなコメントができる状況ではなかった。だが、沈黙はこの場に相応しい答えではないことも、こわい目前の目を見ればおのずと知れた。
何か言わねばならないなら、それこそ、分からなかったことをそのまま今ここで口に出してもいいんだろうか。
ぐるりと考え出してしまった椋を何と思ってか、ややあって、ふっとセルクレイドは眼光を緩めた。
「まあせっかく持ってきたんだ、まずは一服するか。きみはいいかもしれんが、兄上がお疲れだしな」
後半のセリフが若干残念な気がしたのは、とりあえず放置することにした。
それこそ「この国ではいつものこと」なんだろう、誰も突っ込もうとするような様子もない。そんなことはないよと、セルクレイドに応じるフェイオスの表情もなんら変化はない。……まあうん、兄弟仲がいいのは良いことだ。きっと。
最終的にはアルセラが用意してくれたカップに口をつけながら(最初は当然のようにアノイとセルクレイドのふたりが給仕を始めようとして、三人が泡を食っていた)、気づかぬうちに渇いていたのどを潤す。
思考が覚める黒いコーヒーの苦さが、ほどほどに甘すぎないクッキーやスコーンもあいまって身に染みる。
空腹もまともに感じられないくらいに緊張していたらしいと、ここにきてようやく、椋は悟った。ひとつ息を吐く。
「美味しい」
「うん、きみはコーヒーの方が好きなんだったな。聞いているぞ」
「ありがとうございます。わざわざ」
「この程度、なんということもないさ」
さらりと当然のようにセルクレイドが笑う。
どこからそんなちまちました情報が漏れているのか、もしかしなくてもアノイなのか。椋を自慢でもするかのように見せようとするアノイの様子からしても、彼らふたりは「ただの隣の国の王様同士」ではないだろう、ことは、分かる、が。
椋がコーヒーをほぼ空にしたくらいの頃合いで、笑いたいのか疲れているのか、あいまいな表情で椋を見ているアルセラと目があった。名前を呼ばれる。
「リョウ」
「はい?」
「そんなに、あたしたちは疲れてるように見えるかい?」
そして唐突に尋ねられた。
質問がアノイたちが乱入する前、椋がふたりへ向けた言葉、「ちゃんと三食食べて寝ているか」の対応になっていることに気づくのに少しかかった。
以前より明らかにやつれたふたりと、同じように椋の答えを待っているフェイオスを見る。同時に、何も一切が変わらないような錯覚にとらわれそうな、静かすぎて動かない、大病室の光景が、椋の頭の中にはよみがえった。
思い返せばまた違和感があふれる。
だって本当に、あそこはあまりにも静かで、おだやかで、
「アルセラさんたちが、というより、……ここの空気、全体が停滞して、動かないみたいに感じます」
「ほう」
「たぶん、全員が、今日が一番最低であってくれって思いながら過ごしてるんだろうな、って。……なんとなく、の印象でしかなくて申し訳ないんですけど」
驚いたように、フェイオスが、ヨルドが、アルセラが目をひらいた。
改めて、自分で言葉にして椋はようやく違和感のすべてに納得がいった。
そう、変なのだ、明らかに。何もかもがきれいなあかるいあの場所に沈んでいるみたいで、まるで、全部をあきらめてただ「終わり」だけを、そこで待っているような感じがしたのだ。
未知の重病人たちが多く入っている部屋のはずなのに。それこそ椋の感覚で言えば、あの場所は今、ICU(Intensive Care Unit:いわゆる「集中治療室」のこと)に最も近いところであるはずなのに。
なのにあそこは、まるで終わりを待っているみたいだった。空気も人の表情も動かなさもなにもかも、蔓延している停滞に、息が詰まりそうだった。
気持ちが悪かった。背筋を逆撫でられるみたいな不快感だらけになりそうだった。だって着々と、死に近づいている人たちがいるのに。事前にそうと知らされていなければ、わからないくらいの不変の空気を、感じざるを得なかった。
無理もない、とは、思うけれど。
まずこの世界には、治癒魔術の絶対性ゆえに「病気が長期化する」という概念そのものがないに等しいのだから。
「フェスさんたちにお会いできたら、確認したいと思っていたことがいくつかあるんです」
「なんだい? 何でも聞いてくれ」
もうこの際だ、続けてしまおう。
あの空気が、停滞が、三人が疲れているのにつながっているのは間違いなさそうだから。
ポケットから、椋は質問用のメモを取り出した。ここに来る前に、事前にまとめておいたものだ。
「まず確認からさせてください。ヴォーネッタ・ベルパス病は、呪いが原因で起こるものなんですよね?」
「ああ。今日彼女にも施したあの術、テル・ラジュニの光析術式に反応して呪刻印が浮かび上がることからも、確かだよ」
「呪いって、呪いの「核」を相手に埋め込んで、それを発動させることで、相手になにがしかの悪影響を及ぼすための魔術全般を指すんですよね」
「勉強してきたな。そうだ」
「で、核には、呪いの効果がどんなものであっても「共通部分」があるんですよね?」
「そうだね」
「でも、ヴォーネッタ・ベルパス病は、その共通部分を感知して、まずそれが呪いかどうかっていうのを示せる魔術だと「呪いではない」っていう判定になった。これ、原因は何なのかなって思って」
そう。ヴォーネッタ・ベルパス病は、またしても「呪いではない」と、発見当初には言われていた病気だったのだ。椋にとってのこの世界でのすべての始まり、アイネミア病と同様に、である。
結局その暫定的な結論は、特殊な呪いの解析術式、らしい「テル・ラジュニの光析術式」を、かれら三人が発見したことによって覆されたわけだが。
事前知識を反芻しながらふと椋は思った。「原因がわかった」のに、呪いなら、それこそ呪いを解けばいい、はずなのに、なんで、おっさんたちの顔色は今も悪いままなんだ?
「……きみの考えは?」
「たとえばその共通部分が、こういう矢印型をしていて、判定の魔術は、例えばこっちの三角の部分とか、こっちの四角い部分に特異的に反応するものだとして。ここに何か別のものがくっついたら、この型ではこれが矢印だって感知できなくなりますよね。それこそこれが「普通の呪いじゃない」なら、そういうことがあったりしないのかな、と」
メモを裏返し、図を描きながら説明する。
イメージは、いわゆる「抗原抗体反応」だ。人間の体内で作られる抗体、ざっくり言うなら細菌やウイルスなどと戦うための物質は、その材料の配列を変化させることによって、ある一定のものにだけ反応するようにできている。
そしてこの仕組みが異常暴走して起こるのが、自己免疫性疾患、の一部。だからこの、抗体が関連する病気の治療には、異常反応するものにだけピンポイントでくっつく薬を投与することで、反応を抑え込むという方法があったりする。
呪いには「共通部分」があって、けれど、ヴォーネッタ・ベルパス病は、その共通部分をまず感知する魔術では「呪い」と判定されなかった。
この情報を最初に聞いたときに椋の頭に浮かんだのは、細菌・ウイルス学の講義のプリントで見た沢山の図だった。それは違う、こういうことだと正解を教えてもらえるなら、それはそれでいいと思って口にした。
だが。
「……あれ?」
かえってきたのは沈黙だった。
その沈黙は、それこそアイネミア病騒ぎのときに椋が夫妻に起こした無言に非常によく似ていた。呆れたようにアノイが笑う。
「リョウ、黙り込んだ三人に代わって俺が質問してやろう。そもそも、どうして呪いの核なんていう、だれも肉眼的な実在を確認できないものを具体的な形にたとえた」
「え?」
「あのね、リョウ。あたしたちが呪いの関与を疑って解析術式を使用するのは、騎士や魔術師のいうところの殺気っていうのと同じような感覚なんだ。敵の気配を探るのと同じような感覚なんだよ。感じ取る分の「ひと」の気配自体は基本は同一だけど、襲撃してくる人間の顔や体つき、利き手や利き足はそれぞれで異なっていて、それが、違うことの証拠になるだろう?」
「い、いや、そんな同意求められても、俺、逆にわかりません」
「え?」
「気配探るとか、できませんよ。俺、基本的に一般人なんですから」
さらに言うなら、ヘイのおかげで魔術が使えるみたいな感じにはなっているが、実際にはまったくもって無魔である。
さすがにこの場でそこまで言っていいのかわからず口にはしなかったが、事実だ。事実なのに、少なくともアノイとヘイル夫妻は知っているはずなのに、今目の前の五人の目は揃って、「マジかよ冗談だろ」と何より流暢に言っていた。どういうことだ。椋こそ非常に納得がいかない。
しかも呆れたように、セルクレイドには笑われた。
「こんな一般人がいてたまるか」
「そうだろう?」
「つまりおまえの論理によれば、フェアリーダの透呪式ではその不要な部分が邪魔をして呪いと判断できず、それこそテル・ラジュニの光析術式のような、特殊な術式をもって装飾の一切を排除したうえで解析を行わなければ、まず呪いを呪いと判断することも、今回の例に関してはできない、と。そういうことだな?」
「い、いやあの、そういうこともあるのかって考えただけで」
「実際に、テル・ラジュニの光析術式に追加で組み込まれているのは、排除や析出、核出といった、不純を取り除く系統の魔術が主だ。……あーあー、ったく、それこそ、おまえがいると空気が動くなあ、リョウ」
「はあ、……ありがとう、ございます……?」
どうやらまた、特大級に変なことを椋は口にしたらしい。
疲れ切っているヨルドたちが笑っているから、たぶんまあ「自分の役割」としては、まずは悪くないのだろう、か。いまいちうれしくないのが難点だが、仕方がない。
ためいきひとつで、早々に椋は諦めることにする。それこそこの話をしたら、カリアにも全く同じ調子で「さすがね」と「諦めときなさい」なんて言葉をもらうような気がした。
ぽそりと、拾い上げたクッキーを一枚噛み砕く。
甘さのないココアの味がした。
「リョウ・ミナセ」
「はい」
空腹のまま、隣のスコーンに手を伸ばしたタイミングで名前を呼ばれる。
手を止めて見返すと、また、随分と真剣な表情で、セルクレイドが椋を見ていた。
「おまえは僕を、どうにかするつもりはあるか?」
そうして向けられるのは、またしても随分と曖昧な問いだ。
王様をどうにかする。なんとも様々な意味に取れる言葉だが、そもそも椋はついさっきまで、彼こそがセルクレイド陛下であることもよく知らなかった。
それに椋は「医療人」である。政治に、ひいては世界情勢かかわるような人間ではない。
アノイの部下でヴァルマス【劔】などという肩書はもらっているが、それは椋が自由に動くことで、結果的に異変を探らせアノイに伝えるようにするための方便だ。水瀬椋はただ医療者でありたいだけだし、それ以外の理由で、こんな大々的に誰かと喋って意見を交わして行動して、期待されるような「何か」を一手として創り出せないか頭を悩ませて、なんてこと、やりたいとも思えない。
何を考えたか、アノイが鼻で笑った。
「あるはずないだろ。治癒以外のことはほとんど何も考えてない男だぞ、こいつは」
「おまえには聞いてない、アノイ。どうなんだ?」
笑われた声をばっさり、セルクレイドは切り捨てた。どこまでもその目は椋だけにしか向かない。
面白がるような揺らぎも見える瞳に、椋は正直を口にする。
「無理です」
「無理?」
「あの患者さんたちをどうにかする、しようとするだけでも俺には精一杯です。他に回せるような余裕なんて、どこにもありません」
笑って言った。驚いたようにわずかにセルクレイドは目をひらき、どこか楽しげに、ヨルドとアルセラが微笑う。
だってそうじゃないか、余裕なんてどこに他に作れるっていうんだ。目の前で、本当に人が倒れてそのまま起きなくなった。自分がそうと仮定して、実際に「検査」で診断を下した。説明はまだフェイオスたちに任せた状態で、よく考えればそのあとの、全身管理のなにもかもだって任せきり。どうやってこの世界では、彼らは治療期間が長期にわたる患者の全身管理をするのか、栄養、清潔、そのほかにも色々。まだ、何もちゃんと椋は聞けていない。
だが、それでもあの少女が、椋の患者になったのは間違いない。
誰も分からない病気に向き合う。治せなければ、決して遠くない未来で誰かが死ぬ。
「だから」何をすればいい。何を考えて何を想定して、そのための方法として、どう自分が、カーゼットが動いていけばいい――答えは、多分、全部が終わって、振り返ったときにしか言えない。
見据えてくるセルクレイドから、椋は目をそらさなかった。
先に視線を外したのは、相手の方だった。
「ひとまずはその言と、今ここで見せた異質とを信じるしかない、か」
言って、それなりに温くなっているであろうカップの中身を、セルクレイドは優雅に干す。
なんとなく同時に空気も緩んだ。それまでほとんど黙って展開を聞いていたフェイオスが、弟に向かって、口を開く。
「セルク、忙しい中会いに来てくれたのはうれしいが、そろそろおまえも戻りなさい。祝われるべき王が、いつまでも座を開け続けているわけにもいかないだろう」
「そうですね。もう少しヴァルマス【劒】とは話をしたいところだが、まあ、それは次の機会にするか」
「やらんぞ」
「ふむ、もらい受けるなら相応に手段を踏まなければならなそうだな」
そもそも水瀬椋はモノではないわけだが。
椋の反応を楽しんでいる王様たち相手に、言っても意味のないセリフだろう。フェイオスに促されるまま、セルクレイドが立ち上がる。いきなり始まったこの奇妙な時間は、これにて終わりらしい。
六人だけに閉ざされていたドアが開く。王様ふたりの、ご帰還である。
ドアが開いた瞬間、こちらを向いたクレイたちは愕然とかれらの姿に目を見開いた。あたりまえだ、一体だれが予想できただろう。きっとそれなりの騒ぎになっていた王様たちの消失先が、まさかのこんな場所だとは。
アノイはクレイたちを連れて、セルクレイドはフェイオスの護衛を借り受けて、本来いるべき場所へと戻っていく。
最後に扉から出ていきざま、ちらりとこちらをアノイが振り返る。
目が合った瞬間ぞわりと寒気がした。なぜならアノイは、あからさまになにか企む顔をしていた。
「なあ、リョウ」
「はい?」
「おまえやっぱ、うちの養子になっとくか。今のうちに」
今更親が欲しい歳でも別にないんだけど、とは。
ぽつりとつぶやかれたそのときのヨルドの言葉には、なんとも言いづらかった椋であった。




