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未来は見果てぬ旅路の先  作者: 彩守るせろ
間奏B Vivace
113/189

 つなぎ結びの細糸は 4



 何から話そう。なにをどう言おうか。

 ぼんやりと、湯沸かし中の小鍋を眺めながら椋は考える。どんなにうろたえていても、意表を突かれても、美少女っぷりの失われないカリアの姿を思い返しながら、考える。

 まあ、考えていると言っても正直な話、自分たちの状況を考えてみれば結論など見え透いている。

 カリアの表情と必死な様子、そして今椋がキッチンでお湯を沸かしているというこの状況。

 つなげてみれば見える絵は、何を考えるまでもなくひとつしかありはしないのだろう。


「やれやれ」


 その言葉は椋自身もしくはカリア、どちらに向けたものなのか、椋にも分からなかった。

 何しろ先ほどの挙動不審になりまくっているカリアを見て、椋は確信してしまったのだ。というより、それまで肩ひじ張っていろいろ考えていたはずが、がくっと気が抜けてしまったのだ。

 こちらの言動に逐一ビビりまくりつつ、それでもただ椋のためだけに、決して場から逃げることはしない。

 あまりに馬鹿正直に感情がダダ漏れなカリアは、やはりどこか珍妙に抜けてはいながらも非常に、ただただ椋にとっては可愛らしかったのだった。


「……」


 自分の甘さなど分かり切っている、つもりではある。今回の一連の理不尽や不快に関して、だから全面的に水に流す、というまではさすがにいかないことも、知っている。

 きっと「ただの友人」同士であれば、話す必要など全くないはずのものもこれから二、三、彼女とは交わして行かねばならないのだろう。カリアがカリアであり椋が椋であり続けようとする限り、何の取り決めもないままでは、また今回と同じようなことが起こってしまうであろうから。

 めんどくさいよなあ、逃げたくもなるよなあ。

 思わず正面切ってこちらと向かい合うことから逃げた、カリアの感情も決して、理解できないわけではない。

 しかしそれでもつまるところ、最後には彼女は、決めたのだろう。

 底知れない可能性を一から百まで椋と一緒に数え、渋い顔を突き合わせてつまらない話をする、そんな時間をいくつか越えてでも、カリアは――


「……ンなド夜中にクソ甘ェモン、頼まれたって要んねェぞ、俺ァ」

「うぉっ!?」


 一人の思考を前触れ一切なしにぶった切った声に、大げさなまでに椋の肩は跳ねた。

 自身の後方を振り向けば、そこにはおおよそ予想通り、半眼で壁に半ば体を預けるような体勢で椋を見ているヘイの姿がある。彼という人間に慣れてしまった今となってはその半眼が眠いだけだろうこともわかるが、ここに来た当初はそれこそ、なぜ睨まれているのか、とりあえずなんか怖いムダに迫力がありすぎる……そんな類のことをしょっちゅう考えていたのを、なぜか思い出した。

 椋の手元にある準備品たちと湯沸かし途中の小鍋と椋の顔とをさも意味ありげに見比べ、フッとヘイは口の端をつり上げて笑う。


「ま、別にテメエが何に入れ込もうが何タラしこんで誰を連れ込もうが、俺の邪魔ァしねえってンなら基本的にゃアどーでもいいんだけどよ」


 あっさり、平坦に言い切られる。カリアが今椋の部屋にいることを、確実に知っている、としか思えない言である。

 椋とて別に、隠そうと思っていたわけではない。が、あまりに早すぎる彼への情報伝達にはさすがにため息が出た。監視カメラでも設置しているとしか思えない、迅速すぎる反応である。

 というか何だ、その明らかに不純異性交遊を全力推奨する以外の何でもないような言いぶんは。

 椋で遊ぶことに過剰な生きがいを見出している気がしてならない家主に、やや肩を落として椋は口を開いた。


「一応言っておくけど、俺、タラしこんでないし連れ込んでもないからな」

「はァ? なに甲斐性の欠片もねェこと言ってやがンだテメエは。つーか形だけでもまず否定しやがれ、慌てやがれ。ンッだよその反応、つッまんねェな」

「いや、だってどうせ天下の何様オレ様ヘイ様には、見通せないもんとかないんだろ? 少なくともこの家の中には」

「んッとにつまんねェうえに可愛くねェなァ、オイ」

「はいはい、勝手に言っててくれ」


 適当に言葉をいなしてしまうと、やってられんとでも言わんばかりの、呆れはてた表情でヘイがため息を吐く。

 それが実際はポーズでしかなく、まだまだ椋で楽しむべくヘイが野次馬になっていることは改めて言うまでもない。でなければまだ椋と会話を続ける意思満々でこの場に留まっている意味がまるで理解できない。

 しかし現時点のカリアに対する評価が、「基本的に優秀なはずがどこか妙に残念な身内」というところになんとなく落ち着いてきつつある椋である。

 椋の言動のひとつひとつに可哀想なほどにビビりまくっているカリアの様子に、嗜虐心やなにかといった類のものが全く刺激されなかったといえば嘘だ。そもそも、家主の許可なしに年頃の女性を部屋にあげているという事実には変わりがない。

 だが今すぐにカリアをどうこうとは、諸々の結果としてなかなか考えられない椋なのであった。そもそもカリアにはそういう意味でなら、もっと彼女にふさわしい相手など山のようにいるはずであるのだし。

 無関心を装いつつも、実はかなり野次馬めいているヘイの視線に椋もまたため息を吐く。


「なあ、ヘイ」

「ンだよ」

「おまえの分の飲み物とか、ないぞ」

「そりゃァそうだろうよ」

「じゃあなんでおまえ、まだそこにいるんだ?」

「さァねェ。テメエの胸に手ェ当てて考えてみりゃァいいんじゃねェの?」


 さらりとそんな言葉を言ってのけるヘイ。まったくもって、ひどい野次馬がいるものである。

 思わず椋は苦笑した。本当にいついかなるときも、自分の興味と探究心だけを世界の中心に置いている、ような素振りをしつつ、ヘイなりに椋を心配してくれてもいる、のか。それとも本当にただの下世話な好奇心によるものなのか、にわかには判断しがたい。

 そんなことを考えたところで、心配、という単語でふと、連続的に椋は思い出した。

 目の前の男に対しても、訊ねようと思いつつ、口にしないままになっていたことがあったのを。


「ヘイさぁ」

「ん? ちったァ何かやる気になったか」


 相変わらず野次馬な視線を変えようとしないヘイには、苦笑を重ねるほかにない。

 椋を取り巻く状況は、先日の事件を経てまた変わった。状況が変わったというならこのヘイにしても同じことで、この男は「リョウ・ミナセの協力者」として、問答無用にカーゼットの組織構成員としてその名を組み込まれてしまった。

 嫌ならはっきり拒絶してくれ、と、名簿の事実を知って即座にヘイへ言ってはみたが。

 そのときの彼はただ椋を眺め、面白がるのと馬鹿にしたのとをないまぜにしたような目で、ひとつ笑ってみせただけだった。


「おまえ、さ」


 そしてその後、ヘイは何も言わない。

 それが事実であることすら忘れてしまったかのように、かけらもおくびにも何も出そうとはしないまま、ただ当然のように相変わらずに椋をこの家に住まわせ続けている。


「このまんま、俺に絡まれ続けてて、いいのか?」


 だからこそ敢えて今、椋は改めて彼へと訊ねた。

 沸騰を始めた鍋の火を止め、続いて別の鍋で牛乳を火にかけながら世間話のような口調で言葉を発する。わずかの沈黙の後、ヘイから返ってきたのは怪訝という文字をそのまま音にしたような声だった。


「はァ?」

「正直、ものすごく今更な質問なのは自覚してる。でもおまえ、あれから何も言わないし、なんか改めて聞くにもタイミング掴めなかったんだよ」

「あァ? 俺がテメエにここで何言えってンだ」


 言い訳じみた言葉には、いかにも心外、かつ不快そうな視線を向けられる。無言と無関心こそがヘイの答え。分かりやすいのか分かりづらいのか、何かにつけ判断に苦しむこの男の常である。

 身を縮めるしかない椋に、更にヘイは続けてきた。


「つーか今更にも今更過ぎて、俺にゃァテメエの質問の意味がサッパリだぞ、リョウ。バカかテメエは? ったく。……あー、いや、バカだったな。致命的なお人よしと治癒バカだ、テメエなんぞ」

「……はいはい」


 致命的な「研究発明」のバカであるのはヘイにしても同じであるし、自分が後悔したくないからという理由で動き出した椋を、お人よしなどと言って良いのかについてはかなり疑問の余地があるのだが。

 言ったところで何かと一蹴されそうなので、敢えて椋はそれらを口にはしなかった。肩をすくめて言葉をいなそうとすると、また妙に思わせぶりに大きくヘイが息を吐く。


「ったく、どこの誰が俺のビョーキ、再燃させやがったと思ってンだかなァ」

「……」

「リーの野郎にしても同じこったろォな、これは。ンとにテメエも好きモンだよなァ、あんなん、わざわざ自分の懐に思いっきり囲い込ンじまうなんてよ」


 既にどちらも何回か、言われたことのある言葉だ。そしてまたこの男の口から彼女の名前が出れば、当然のように無造作に捨てるかのような、彼女への貶しがひっついてくる。

 ヘイがリーを語るとき、彼女を褒めたためしがない。

 彼女の技術は確実に認めているはずなのに、何かにつけて彼女のことを、悪し様に言わなかったことがない。

 それは逆の場合においても、全く同じことだった。遠慮がないにもほどがある、ともすれば喧嘩の一節かとでも思うような暴言の数々が、結構な確率でふたりの間には、ナチュラルに飛び交っていたりする。

 しかし喧嘩するほど仲がいい、とも、二人のお互いに対する立ち位置は片付けづらい。

 同時にまだ初めて会ってから、互いに一ヶ月も経たぬ浅い仲であるとも、到底思えるはずもない。何を聞いておらずとも、さすがに。

 そもそも一度は「何かを創造することを止めた」という部分まで、浅く短い付き合いで互いに知れるはずもないのだ。ヘイは自分自身のこと、過去を、基本的に話したがらない。椋ですらいまだに、ヘイがこの国に居ついている理由を知らないのだ。

 だからこそ彼女とこの男との、何らかの過去の関係性の想像はできる。恋人などという色恋沙汰では、到底なさそうな気もする。

 ふつりと小さな泡をたてた鍋の牛乳を眺めながら、淡く苦笑して椋は言葉を落とした。


「……おまえとリーさんって、仲悪いよなあ」

「あァ?」

「これについてもそういえば、聞き忘れてたな、って思ってさ。おまえとリーさんって、何なんだって」


 疑念に思いつつも、結局口にはしないままになっていた言葉がまた外に出る。どうも何に対しても、後手後手どころか数十周遅れになっているような気分しかしてこない椋である。

 そんな彼の言葉に、一瞬の沈黙の後にもはや、呆れ果てたようにヘイは鼻で笑った。


「テメエの間の外し具合にゃあ正直、時々感心するしかなくなンな、リョウよォ」

「まったくだな。ここまで来ると俺も自分が悲しくなってくるよ」

「しかし俺とアイツ、ねェ。気になるってンなら話してやらんでもねェがな、別に今すぐの必要はねェだろ。オキゾクサマってなァ皆々揃って、待たされンのが嫌いなモンだしな」


 ヘイが続けてきた言葉は、前半には明らかに気乗りしない感が、後半には、なぜか妙にしみじみとした実感が込められていた。何でそんな? 口をつきそうになった疑念の言葉は、しかしそろそろ止めておくことにする。

 それこそ今、話すようなことではないと思ったからだ。カリアがヘイの言うような「典型的」なお貴族様であるとは思っていないが、いつまでも彼女を一人、部屋に待たせておくわけにもいかないというのもまた事実である。

 時計を見やる。時間は確かに過ぎている。

 だからこそ椋は、改めてまた相手を呼んだ。


「なあ、ヘイ」

「ンだよ。グダってっと冷めンぞソレ」


 また若干面倒そうな顔をしつつ、律儀にヘイは応じてくる。

 時間も、ヘイの許してくる感覚的な「会話」の刻限も、既に残りは少ない。だからこそ、この場で訊ねておかなければならないことがあった。

 茶葉を放り込んだポットに湯をそそぎ、沸騰近くなってきた牛乳の火を止める。改めて、ヘイへと視線を向ける。

 そうして椋は続けた。今を逃せば絶対に、もう告げられることはないだろう言葉を。確信を。


「多分俺はこれから、今よりもっと罰当たりなことだって山のようにおまえに持ちかけることになる。そうならないのが一番いいんだろうけど、たぶん、そんな温くてやさしい話はないよな」


 「公」の人間となることを肯定してしまった以上、これから椋が見るものは今以上に彼にとって「異常」と映る事もあるだろう。

 覚悟はむろん、している、つもりだ。しかしおそらく椋の想像する範囲内にあるようなちっぽけなモノらなど、現実の前には容易く膝を折ってもしまうのだろうとも、思っている。

 だからこそ椋の呈することになりうる疑問は、可否を問いうる思考は、どこまでも自分のものとはしきれない異世界は、いつ、どこで誰に対して牙をむく結果になるのか分からない。

 だからこそ椋は考える。想像することはできる。異端を示した相手に応じ、その異端を現実にする技術力を持つ人間。

 椋以外に何かから目をつけられるとするなら、それはまずこの男であり、この家にいるもう一人の魔具師であることだろう、と。


「……ンで?」

「おまえ、それこそ、もう「創りたくなかった」んじゃないのか。おまえがこんなところにひっそり暮らしてんのも、誰の前にだって、「制作者として」立ちたくなかったから、じゃないのか?」


 わずかに目を細めて問うてくる相手に対し、おそらく大きく外れてはいないだろう推論を、椋は口にした。

 ヘイ自身以前言っていたように、このエクストリー王国には魔具というものが本当に「基本的」なものしか浸透しておらず、魔術師の数が多いが故に、それでも不便は少ない。ちなみに「基本的」な魔具というのは、コンロや水道、洗濯といった簡単な用途のみに使用される、安価な代わり定期的に魔術師による魔力の補給が必要なものを指す。

 確かに椋も、この家のみならずクラリオンでも、どこでも、さしたる不便を感じた試しはなかった。華々しく冒険者として生計を立てるまでには行かずとも、人々の生活に密着する形で魔術を使い日々を暮らす魔術師たちを、何人も椋は知っていた。

 満ち足りている状況下には、新たなものは生まれない。

 研究者の数は少ないまま、魔具師を目指すものの数も増えることはない。

 魔具師というものに対して、需要も供給も、理解も資産提供も投資もほとんど何もないだろう、この国。

 そんな場所に敢えてヘイが居を構えている理由など、何の理由かは知らない「隠遁」以外に、椋には思い浮かばなかったのだ。


「……ヘイ、」


 口許を一文字に引き結んでしまった、相手の名を呼ぶ。

 それにヘイの隠遁説は、本人が知っているかどうかは分からないが椋だけが考えているものでもないのだ。

 椋がこの家に転がり込むまでは、ヘイは姿を目にすれば、常に目というよりまとう雰囲気からして何もかも死んでいた、という。クラリオンで最も強い酒を、大したつまみもなしにさめ切った眼で酔いもしないまま何杯もあけ、申し訳のように持っている店では、子供だましのようなものばかり置いて、売って、酔狂の道楽者のような、おおよそ誰にも意味不明な生活を送っていたらしい。

 椋のムチャ振りに文句を言いつつ、瞳をぎらつかせて放っておけば平気で何十時間単位で作業に没頭しはじめる現在のヘイからは、なんとも考えられない姿だ。

 しばしじっと椋を凝視していたヘイは、不意にやれやれ、とばかりに大きく息を吐き、笑った。

 

「……んっとに今更すぎる質問だな、オイ」


 ニヤリと、楽しげに彼の口の端が吊りあがる。

 腕を組みなおしたヘイは、続けてきた。


「むしろその言葉、そのまンまテメエに返してやろうか? リョウ。無魔のテメエが魔具師(オレら)ナシで、祈道士、治癒術師、それにテメエの部屋んのみてェなオ貴族サマがたか。そういうワケのわからんモンと、マトモに渡り合えると思ってンのか?」

「……いや、うん。返す言葉もない」


 まったくもっての正論に、椋は苦笑するしかなかった。

 何しろ半分以上といわず、九割がたヘイの否定を前提とした上での質問だったのだ。口先だけでいくら偉そうなもっともらしい言葉を吐き続けたところで、その実行、行動が伴わないことには説得力など生まれはしないのだから。

 そして無魔であり、臨床的な技術を何も持っていない椋は、魔具なしには何もすることはできない。

 要するにこんな質問を、今更ヘイに向けていること自体がただの甘えなのだ。なんとも情けない限りである。

 しょうもない椋の内心などお見通しだとでも言いたげに、ヘイはハッと鼻で笑った。


「あンなァ。特別に言っといてやるが俺ァな、興味もねェモンを延々とウチで飼っとくような、ンなお人よしになった覚えなんぞ欠片もねェぞ」

「なんだ、それ」

「気にすンじゃねェっつってンだよ。俺もテメエも結局ンとこ、やりてェことしかやってねェだろうが? 互いによ」

「……はは」


 投げつけられるような飾りない言葉に、やはり苦笑しか出てこない。改めて、椋は自分の卑小さを自覚せざるを得なかった。

 人をお人よしだなんだとののしり、自分は違うと口では言っておきながら、その実本当にお人よしなのはヘイのほうだろうと椋は思う。でなければ、それこそバカだ。バカ以外の何でもない。

 過去から何かを重ね、結果として自分で選んできたはずのものを、ヘイは数ヶ月で、椋という異邦人に壊されつつあるというのに。

 なのにヘイは、当たり前のように気にするなと言う。おそらくこれ以上彼を慮るようなイイコチャンぶったような言葉を続ければ、今度は彼は本気で怒り出すかもしれない。

 だからこそ椋は、一つ息をついた後、笑った。

 確かに互いに互いの欲望しか見てはいない、愚か者の同志に向かって苦笑ではない、ただの笑みを形作って見せた。


「変なヤツだよな、ホント、おまえ」


 そうして相手に向ける言葉は、この数ヶ月で既に何度口にしたかも知れないありふれたもの。

 したがってヘイもまた、椋に返してくるのは同種の笑みと言葉でしかない。


「テメエにだきゃ言われたくねェよ、リョウ」

「あとで後悔されても何言われても、もう俺責任とか一切取らないからな」

「あーァーぁーアー安心しろ。テメエみてェな甘ッチャンにンな超高度なモノなんざ、端ッからこれッぽちも求めちゃいねェからよ」


 ひどく大げさに肩をすくめ、椋をバカにするような言葉を彼は向けてきた。

 そういうことばかり言っているから、他人にも誤解されるんだろうと思う椋である。なんだかんだと椋のようなモノの世話を、根本的には甲斐甲斐しく焼いてくれてしまうくらいには実は情に篤いヤツなのに。

 どうもいろいろ残念な同志を、改めて椋はしみじみ眺める。そんな彼の視線をなんと思ったのか、しっしっとばかりにヘイは手のひらをひらひらと椋へ向かって振ってみせた。


「つーかテメエら、まどろっこしいんだよ。さっさと行け。ンでもってお互い、とっとと何とでもしやがれってンだ」

「はいはい。んじゃ、これからもよろしくな、ヘイ」

「はッ。ま、ひとまず飽きるまでは付き合ってやんよ」


 酷薄に笑って、ヘイはくるりと椋に背を向けた。本当に、キッチンへは椋と会話をするためだけに来たらしい。世話焼きなのか、野次馬なのか。おそらくどっちもなのだろう。

 さて、部屋にいる彼女には、俺はどこまで何を許して、どこまでを許されるんだろうか。

 お互い、どこまで、何をどうしたいと思ってるんだろうか。これから向かっていかなければならなくなるそれぞれのものに、俺は、カリアは、それぞれとお互いのために、なにをしてやることができるんだろう?

 のぼる湯気に目を細めながら、改めて椋は考えた。

 


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