P2-61 そして終劇に何を見る 2
「どうやってここまで、入り込んだの」
空白を最初に切り裂いたのは、カリアのひどく冷たい声だった。
ひやりと温度のないナイフのようなそれに、わずかに椋は目を開いた。先ほどまで彼女が椋に向けてくれていたものとは、随分と色々なものが当然のように違っていた。
不法侵入者への警戒に満ちたカリアのそれに、しかし当然とも言うべきかヘイが引き下がるはずもない。
ケッと相変わらずひどくつまらなそうに、酷薄にヘイはこちら側――カリアに向かってひとつ笑い捨てた。
「なァに今更、自分たちが被害者みてェな顔してやがんだ」
「……なんですって?」
「平気でえげつねェこと俺らなんぞに強いやがっていちいちタマァ賭けさせやがって、なァ、オイ」
カリアの存在を半ば無視するような、笑っているようでまったく笑っていないその言葉には、欠片も隠そうともしない憎々しげ忌々しげな響きが込められていた。篭められた感情の密度は、神経の細い人間であれば確実に動悸と息切れを覚えるだろうほどに、濃い。
なんでだ。思わず考えた。
状況を見、言葉を聞いていれば確かに椋とて、推測はできる。ニースが「何か」をヘイたちに持ちかけ、その結果として二人がキレたのだろうことは何となくわかる。
しかしいくら推測したところで、分からない。説明されない時系列に沿ったそれぞれにとっての現実は、相変わらずに見えないままだった。
ヘイの言葉に対するカリアは、何を発することもなかった。
その無言がつまらなかったのか何なのか、フンと鼻を鳴らして何かをぽいと、ゴミでも放るかのような調子で無造作に中空に放り投げる。
反射的に腕を出したのだろうカリアの手のひらに、パシンと場違いに小気味よい音を立ててそれは、当たった。
「……これ」
ヘイが投げ寄越したのは、何かぐしゃぐしゃに丸まった紙切れのようなものだった。そっと、紙を破らないようカリアがそれを広げた先にはひどく、細かい文字の羅列があった。
わずかに眉を寄せそれらに目を通し始めたカリアの表情が、見る間に驚愕へと塗り替えられていく。
角度も場所も悪いせいで、至極微妙にしか見えないそれに、書いてあるのは山のような人名、そして「目的」、か。
逐一増えていくのが疑問ばかりな現状に心底からげんなりしつつ、ヘイへと椋が視線をやれば、ひどく酷薄に彼はこちらへと笑ってくる。
「ま、とりあえずは喜んどけや、リョウ。ソレでテメエの囚人生活は終わりだ」
「……おまえ…」
過程を何もかもすっ飛ばして最終結果だけを伝えられても、どこまでもただただ意味が分からない。しかも今までの状況を総合して考えるなら、「これ」をどこかからとってくるためにヘイたちはぼろぼろになり、ついでにニースはぶっ飛ばされたことになる。
この人名の羅列と俺に、何の関係があるっていうんだ。ていうかあの眼、義眼なのは知ってるけどそれでも何か治療しなくても大丈夫なのか。
思いかけた椋の思考をつなぎとめようとでもするかのように、そのとき不意に目前にいるもうひとりが、――リーが、笑った。
「取引を持ちかけられたんだよ、私たちは。リョウ君」
思わず視線をやった先で、若葉色の隻眼と交錯する。なぜか奇妙に久々に、彼女の声を聞き表情を目にしたような気がした。
半ば反射的に合わせた視線は、初めて彼女と会ったときと同じように静かに凪いでいる。
あんたは誰を何をどうしようとしてた、あんたは誰で、何で、……何が、結局したかった?
問うべきことなら数多くあり、到底一言では終わらない。
だからこそ怪訝だけを声にのせ、目前の人物へと椋は問いかける。
「取引?」
「ああ」
ふわりとほんの少しだけ、瞳の光を緩めてリーは頷いた。
穏やかな目に揺らぐのは、どこか、ひどく干からびた諦念のようにも見えた。
「リーさん、それ、」
「“リョウ君の命の保証と引き換えに、あなたたちでは決して引き出せない情報をそちらへ提示せよ”」
静かに揺らがぬ淡々とした声は、椋の言葉をその半ばでばさりと切って捨てる。
ただ相手の言葉を聞くしかできないこちら側に、薄く笑って彼女は続けてきた。
「取引の内容は、おおまかにはそんなものだ。……随分ととんでもない部下を持っているのだね、あなたは。よりにもよって「この」魔具師とレジュナリア【傀儡師】なぞに、取引などというものを持ちかけるとは」
続いた言葉は途中からは、椋ではなくカリアへ向いていた。
奇妙な空っ風が胸の内に吹いたような感覚を覚えたのは、言葉のうちに当然のように発された、リー自身を示す名詞のせいだ。レジュナリア【傀儡師】。その名称を、市井の人間であればおおよそは知らないであろう存在の名を、当然のように、自分のこととしてリーが口にしたからだ。
さらに言うならもうひとつ、奇妙な引っ掛かりはあった。どうして今ヘイのことをリーは、あえて「この」魔具師、なんて言った?
何となくヘイの方へ視線をやれば、完全に状況の静観を決め込んだらしい、腕組みをして半眼で場を眺めているヘイと目が合った。銀か青かいまだに色が良く分からない目は、つい、とリーのほうへと視線を戻すよう促す。
分からないまま従うしかない椋は、その促しに応じながらも考える。ていうか、そういえばヘイは、今回の色んなことについて何をどこまで知ってたんだ?
今のリーの言葉にもまったく何も動揺が見えないところからすると、元からある程度リーのことをヘイは、……知っていた?
「しかしまあ、結果的にはこの取引は、受けておいて正解だったのかもしれないな」
「……なんですって?」
「この国に放たれたレジュナ【傀儡】のすべてが、こんな短期間に潰された例など聞いたこともない。清々したよ、正直なところな」
訳の分からなさはカリアもまた、椋に負けず劣らずであろう。思わずといった様子で聞き返した彼女の言葉に、なぜかどこか、嬉しそうにも見えるやわらかい表情でリーはカリアへと笑ってみせた。
それが嘘偽りであるとは、とてもではないが思えないような顔だった。
今目の前にするリーは、初めて会ったときと変わらずひたすらに凪いで、静かだ。何に飢えるでも凶暴に何を壊そうとするでもなく、他の誰とも同じように自然に、落ち着いた挙措で口ぶりで、静かに言葉を投げかけてくる。
やはり、とでも言うべきなのか、実録として書面に示されていた、過去にこの世界に実在したという彼女の「同職」の人間たちとは、どうしてもリーは椋の中でどこまでも噛みあわない。
ただ人を、ものを、すべてを堕落させ破滅させるだけの方向にしか働かないどうしようもないモノを創り出しそれにより生きる、闇の内側にしか生きることをしないものたち。他人の不幸を笑い、嗤い、誰かの苦悶と滂沱の涙の上で、金と強欲に塗れてその一生を費やす――。
それと彼女が同一だとは、所詮甘っちょろい椋にはどうしても考えられなかった。相変わらずリーという人間がどうしても分からず、ただ椋は目を眇めて目前の相手を見据えることしかできない。
ふと、今度は少し困ったような色をにじませてリーが微笑する。
「ついでに言っておこうかな。こんな感覚を今更私が抱く原因になったのは、すべて、リョウ君、君のせいだよ」
「え?」
「勿論私に、君を糾弾する資格などありはしないんだがな。今回君が陥った窮地は、結局は私という存在がすべての原因であるのだから」
「……リーさん?」
ざらりと、無数の砂粒が胸の裏側を撫でるような不快感がそのとき、過った。
そうでなければいいと思っていた、今回の全てを引き起こしたのが、リーでない誰かほかの人間であればいいとどこかで考えていた。
「先ほどの私の言葉に対して、さしたる反応を見せなかったことからしても。もう君もおおよそのところは分かってしまっているのだろう? リョウ君」
しかし先ほどの、そして今の言葉、この場における彼女の態度。
椋の希望的観測を当然のように、彼女の声は静かな笑顔とともにひっくり返していく。
「君を窮地に追いやったのは私だよ、リョウ君。――私のこの手が、この手の造り出したレジュナ【傀儡】が、君が「殺した」と言われる相手をはじめとする複数人を殺害した真犯人なんだ」
しん、とひどく耳に痛い、奇妙な空白が一瞬、鼓膜を打った。
それはあまりに静かすぎて、ただ事実を並べているようにしか聞こえない告白だった。
一体何から何をどう返したらいいのか全く分からない、しかし可能性としては確かに濃厚であるのだと、既に客観的な視点から紙面上でも示されていた、事柄だった。
「私のレジュナ【傀儡】は、あらゆるものを完全に瞬時に模倣することが可能だ。それにアレは主の命一つで、容易く世界に向かって融け、消える」
リーは笑う。だからと言う。
だから人形の主はただ、一言命じさえすればよい。
ヤツを殺せ。巧妙に自殺或いは自然死と見せかけることができるよういくつものトリックを張り巡らせろ。
そして殺した暁には、即座におまえは、消えされ、と。
「君のような人間に、ひとが殺せるわけなどないのにな。……だが、そんな偽りすら事実と入れ替えてしまい得るのが、レジュナ【傀儡】。私が命じられるがまま造り、この国へと放り続けていたものだ」
そんな異様な「事実」を連ねるリーの言葉には、どこか笑いめいてすらいる奇妙な響きがあった。
いつの間にか椋のすぐ後ろにまで近づいてきていたらしいカリアが、こちらの表情を窺うように見上げてくるのが分かる。
彼女の金色の視界が今、どれくらい椋と違う世界を眺めているのかは知らない。だからこそ椋は彼女の視線には今は応じなかった。
カリアにもまた、尋ねなければならないことがある。何の理由がどうあって、リーの言う「取引」をリーと、そしてヘイに持ちかけたのか。椋と関係があるからこそ二人を利用しようとしたというなら、ただはいそうですかと聞き流してやる訳にも行かないし、椋からも何かしらのアクションは起こさなければならない。
しかしそれを実行するのは、残念ながら今ではない。だからこそ椋は今、リーの眼から目をそらさないまま、ただ、その場に立っていた。
虚しいやら悲しいやら悔しいやら、騙されていた、というよりも色々なことを隠されていた。さらにはあちこちに潜む様々な引き手に、もはや感情だけでも目が回りそうだ。
種々の感情がごっちゃに混ぜ合わされ、生じるのはどこにも方向性のない憤り。
それらは最後には渦になって、胸中では既に色々と無茶苦茶な色彩を呈してくれ始めている。
「……思ったよりも驚かないんだな、リョウ君」
結果として生じた椋の表情を、「無反応」をどう取ったのか。
少し意外そうな顔をして、ひょいとリーは眉をあげた。
「怒らないのか? 私を詰ろうとはしないのか。私は君に真実を伝えなかった。本来ならば伝えるべきであろういくつもの事柄を伝えぬまま、君との接触を続けた。結果的に君は身に覚えもない罪を着せられ、あまつさえ死にかけたのだろう?」
「……っ」
不思議そうな声に、それこそが当たり前とでも言いたげな口調に瞬間、さすがにいらっときた。
違う、とも同時に、椋は思った。今この場で一番椋が彼女に対して問いたいことは、そんな誰でも知ることのできるような表面上の「事実」だけではない。
敢えてすべてをただ第三者的、かつ偽悪的にリーが語ろうとしているのが何故かなど椋は知らない。知るもんか、とも同時に思う。今更どうしようもないまでに巻き込んでおいて、ただそれだけを伝えて勝手にどこかに消えてでも行くつもりなのか、この人は。
ああでも、確かにそんなやり方は椋の知る限りのリーらしいものであるのかもしれない、とも思った。
ぐっと拳を握りしめ、うまく動いてくれない口の端をふと、椋はつり上げる。
「……リーさん、俺が聞きたいのは」
「君は愚かだよ、リョウ君。どこまでも、どうしようもないまでに」
みなまで言わせぬリーの斬り込み方に、むしろ椋は確信した。
リーは彼女自身の事情など何一つ語らず、ただ自分がやった事象だけを抱えてこちらの感情も同時に切り捨て、そうしてこの場から、どんな手段を取ろうとしているのか知らないが消え失せるつもりだ。
どこか諭すような口調は、これからの椋に対する警告、とでも取ったらいいのか?
またひとつ、ふつりと椋の腹の底で怒り、憤りめいた感情が彼女へと沸く。そんなことを知らない彼女は、そして言葉をさらにと続けてくる。
「レジュナリア【傀儡師】などというものは、本当に一概にろくなものではない。君とは永久に交われぬ意味で、どこまでもどうしようもなく救いようもない、決してどこにも行くことなどできぬ最下層の流民でしかない」
このエクストリー王国も含めた全世界的な認識としては、確かにレジュナリア【傀儡師】というものはそうなのだろう。リーが口にするのは椋も資料として既に目にした「事実」。その紙面に目を通すまでは知る由もなかった、「この場」における事実だ。
でも、そんなもの俺が知るか。そもそもリーの口調や表情、目の色からして、彼女はそうであるという事実をただひたすらに卑下し嫌悪し憎悪する様子しか見えない。
ジュペスの腕を、もう一度創ってやれるようなとんでもない、他の誰にもできないような技術を持っているのに。
それを心底からリーは楽しんでいたというのに、客観的にもそうだというのは見ていればとても簡単に分かったのに、それなのに。
――なのに今更、そんな一般論だけで俺に、……何だって?
「本当に君はどうしようもないよ、リョウ君。レジュナリア【傀儡師】にゆめを与えようとする人間など、正気の沙汰ではないんだよ?」
「……」
「私は、絶望と破滅しか齎すことのないレジュナ【傀儡】を造り売り歩くだけの、ひどくくだらない人間だ。誰に感謝されることもなく、誰に愛されることもなく、誰の笑顔を望むべくもなく、ただ奪うためだけにモノを造る、本当にそれだけの人間でしかない」
ゆめ。ひどく曖昧で誰にでも口にすることはできる言葉だ。
しっかりと正面から見据え、そのための段階を自分で立てようとしはじめれば「目標」という形に変わる、それ。それがリーの中ではおそらく、相当に遙かどうしようもないくらいに遠く、普通ならどうあがいたところで、手の届かないものであったのだろうと空想することは椋にもできる。
そしてそんな「破滅」だけであったリーに、何も知らない椋が「再生」というものを結果的に創らせたのだという、ことも。
けれど。
「……それで?」
積もる感情の熱、そして波とは裏腹に、発した椋の声はひどく冷たく感情がないもののように場に響いた。
それこそ予想外だったのだろう椋の言葉に、リーが驚いたように若葉色の目を見開いた。椋自身多少なりとも感情のさじ加減を間違えたような感覚はあったが、今更何をどう取りつくろい言いなおしてやるような優しさも余裕もない。
ただ「事実」を羅列していくだけのリーの言葉に、何を隠そうともしていないが、椋の最も知りたいと思う部分には直接には決して触れない彼女の様子に。
さらに苛立ちめいたものは現在進行形で椋の腹に、確実に着実に折り重なり淀み溜まっていっているのだから。
「リーさん。俺に言わせたいことがあるなら、やらせたいことがあるならはっきり、しっかりそのまま言いなよ。俺は回りくどいのは嫌いだし、逐一色んなものをくみ取って誰にでもいい顔ができるような器用さもない」
「……リョウ君?」
「リーさんがレジュナリア【傀儡師】で、しかも今回、カリアたちが色々動くことになった色々の原因になったモノを造った人なのは分かった。多分、それなりに今までも、相当どうしようもないようなひどいことだって、リーさんがやってきたんだろうことも」
「……リョウ君、」
「だからそれは、もう、いいよ。そんなの、一回言ってくれれば俺も分かる」
いつになく言葉が乱暴になっているのは、椋にも自覚があった。今しがたライゼルにぶつけてきた、数々の言葉の熱の切れはしがまだ何となく、身体の中に残っているからなのかもしれない。
だからこそ椋は、思った。だから何だ。椋はリーの一部しか知らない。本当に楽しそうに、生き生きして義手の作成に取り組んでいた、実際にジュペスが装着し動かして見せた、その瞬間のひどく嬉しそうな顔と、こちらの依頼に対する真摯な、少し行き過ぎなまでの曲がらない熱意しか知らない。
そしてたとえばそんな彼女に、彼女一人の命程度では償いきれなどしない罪があるとして。いや、彼女の言を真に受けるなら確実に山のようにあるのだろうそれに対し、何らかの罰を誰かが、どこかで必ず与えなければならないとするなら。
結果が誰でもできるような、ただ、ひとりの死「だけ」で、果たしてそれは、足りるのか?
「……君こそ私に、今更何を望むというんだ? 私は、」
「俺が聞きたいのは、リーさん自身の気持ちだけだ」
先ほど切り取られた言葉を逆に切り返すように、困惑しきりなリーの声をその途中で椋はぶった切った。
少なくともこのひどく中途半端な状態のまま、リーを消息不明にさせるわけにはいかない。そもそもレジュナ【傀儡】が造りたくないというなら、これ以上リーに造らせなければ良いだけの話ではないか。それがリーひとりだけでは不可能だというなら、手でも枷でも錠でも何でも、彼女へ向かって差し出してやればいい。
性能をただ聞くだけなら絶対に他にも使い道があるはずの破滅の道具を、本心からリーが造り続けたい、ひとを、すべてを滅亡に持っていきたいと心底から願っているというなら話はまた別かもしれないが。
彼女という個人を見る限り、どうしても椋にはそうとは絶対に、思えないのだから。
「ていうかリーさん、分かってる? 俺、怒ってるんだけど」
「……それは、」
「今まで、何かを壊すためにしかリーさんを使わなかった色々なものにも、理由はどうあれ、結果としてはそういう方向にしか、自分の技術を使おうとしなかったリーさん自身にも正直、かなりね」
ほぼ感情そのままに乱雑にぶつけた椋の言葉に、これ以上ないまでにリーはその目を見開いた。どうやら相当、予想外だったらしい。
しかしそんな「差異」など今更だ。なぜならここはあちこちに不条理の満ちている、動いても動かずとも思い通りに何もかもが動くことなどない世界。本来椋のいるべき、椋にとっての現実があり事実が存在する世界とは異なる理によって流転していく場所だ。
けれどそんな場所において、本来なら存在せずともよいはずの抗いを続けると、もう決めてしまったのは椋自身。
それに彼女が椋の無茶に、たとえば一時だけでも「ゆめ」を見たというなら、それなら――
「――――成程」
さらに続けようとした椋の言葉の直前、場へと後方から差し込まれたのは今、目の前或いはすぐ後ろにいる他の誰でもない声だった。
しかしひどく楽しげな響きを含んだその声もまた、椋にとってはそれなりの耳馴染みというものが存在しているもので、
「それで? おまえは、おまえ自身はこれから、その怒りを以てその女をどうするつもりだ? リョウ」
思わず振り向いた先で、かち合う視線は蒼色。
ニヤリとその口の端がつり上げられるのを目にした瞬間、半ば反射的に椋はその場から走り出していた。




