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和菓子を食べたらコーヒーが飲みたくなりました。

作者: 小波
掲載日:2026/07/13

あの時確かそう、私は歳の離れた父を見送って喪主を務めた。何にも知らなかったのでただの木箱じゃなくて下から一個上の刺繍の入った水色の棺を選んだ。父に申し訳ない気がして。家族から、こんなの選んだのかと仕方ないなの顔でため息が届いた。

いくらか体調を整える為に休んだ。そして軽い仕事から始めた。個人で現地に向かう清掃業だ。とりあえずは作業時間も短めに。けれどその現場は裏寂しくて逆に不審者でも出そうで怖かったりした。辞めた直後には何故か辞めた社員から電話が来た。私の電話番号を持って辞めたのか、と怖かった。私はその旨を会社で一応聞いてもらった。事務員さんは私の気持ちを聞いてくれた。その後すぐに、私の知り合いの店を手伝わない?と紹介された。背の高い男性がひとりでコーヒーを作っていた。優しい笑顔で向かえてもらった。男性は親子ほど離れた歳で、けれど私の親はもっともっと歳が離れていた。周囲の方は少しからかってきた。こんな歳が離れているのにーとか。親子みたいな年齢でしよ?とマスターが言うたびに「でも私の親とは違いますよ」と返す。洗い物をする時はカウンター越しのお客様に失礼にならない様にと手袋を付けなかった。マスターは手荒れがひどかった。洗浄力があり手に優しいのは無いかなあ?お値段も優しくて‥そんな会話をした。界面活性剤のパーセントがね、と裏返して成分表を見せてくれる。界面活性剤?私はそんなの興味持ったことなかった。痩せたマスターはいつも長袖を着ていた。洗い物の間に袖が落ちてくる。すると、◯◯ちゃん、まくってくれない?と言う。私はいいですよ、と袖をまくる。カウンターからはマスターの同級生の女性が「甘やかさなくていいっ」と突っ込む。

私はここで数ヶ月アルバイトをした。その間にカウンターにはマスターの同級生の人たちが代わるがわる来て色んな話をしていて。マスターは大抵、「いいんじゃないのお。僕はわかんないよぉ。知らなぁい。」と親身に聞いてた割にはさっぱりと突き放す。すると、冷たいなぁとそちらも笑って返す。

マスターは独身だったが、お客さんにもてもてでカウンター席には色んな人が座った。年に一度集まる同級生のパーティになぜか私も呼んでもらう。お酒が入るので送迎はマスターの友達だ。

決まった休憩時間は無く、ノーゲストになると二人で饅頭を割って食べたりした。手入れのコーヒーを飲みながら。

そして、そろそろひとりで回せそうだ。お客様の数とか、誰かを雇うほどではないかも、申し訳ないけど。とそのアルバイトは終わりを迎えた。

マスターは別の場所で全く接客と関係のない仕事をしていた。体を壊して地元へ戻り療養した。たくさん歩いて体を整えた。そののち、コーヒーを学んでカフェを建てて経営していた人だった。父が亡くなり、ゆっくり起動し始めた私を雇ってくれた。

あれから20年経って、私は子供を育てるおばちゃんになっていた。

やっとあの時間は貴重なものだったと気づいた。離婚して地元へ帰ってきた私は中々カフェに行けなくて。なんとかして3回ほどは会えたのだろうか。少し昔話して、初めて会う隣の席の人は心地よくて。玄関は木の香りがして懐かしかった。マスターは手袋してカップを洗っていた。子を育てていた私は車を所有おらず、自転車で行くには少しきつかったので、春になったら、また余裕のある時に、と一年ほど行かなかった。

◯◯ちゃんが働いてたお店のマスター亡くなったみたいだよ、とメッセージが届く。唯一繋がりのある私の同級生から。寒くて雪があった。子供達はインフルエンザをうつしあっていた。

私はそうなんだ、と少し思い出していた。調べたらお葬式は終わっていた。せめてお店の前まで行きたいなと行けたのが亡くなったと聞いた2ヶ月後だ。

そこにはマスターらしい文面の張り紙があった。長い間お世話になりました。とあった。そんなに長かったんだっけ?と実感が伴わない。このお店がいつもきれいで、マスターの見た目もあまり変わっていなくて、ここを離れた後何回も引っ越して‥

20年も経っていた。


私は離婚後に希望してではなくて地元へ戻った。その時家族が歓迎してくれたわけではない。けれど子供を通して出会いがたくさんあった。マスターを見送ったわけではないけど一年前になんとか元気だよとコーヒーを飲みに行けた。

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