婚約者が真実の愛に目覚めたようで
「君には申し訳ないが、私は真実の愛に目覚めたのだ」
もう結婚も間近に迫っている婚約者は、お茶会の席で突如そう言ってのけたのだ。悪びれもなく、翌週の予定を伝えるのと同じ抑揚で。驚いたけれど、ショックは受けていない。
だから、私も同じように優雅にお茶を飲み終えた後に婚約者に返した。
「それは……そうね。おめでとうございますと言うべきかしら?それとも、御愁傷様と?」
私たちの結婚は言わば政略結婚だった。貴族の努め。真実の愛に目覚めようが、何しようが家同士の繁栄と盟約の為に反故にすることはできない。だから、こう返す他ない。
愛を知らなければ、この後の行為も苦痛ではなかったのに。可哀想な人。
ケーキを食べながらも同情しているが、本人は幸せそうに微笑んでいる。昔から知っているが、この表情は知らない。この人は、こんな顔が出来たのかと思わずフォークを動かす手が止まった。
そんな私に気がつくと彼は涼やかな笑みを浮かべて、「そこはおめでとうと言って欲しいな。これからの人生を共に歩む君に祝って欲しいんだ」と返してきた。
なるほど。この男は、どうやら貴族の矜持を忘れたわけではなさそうだ。それなら、私はこれから人生を共にする男に祝福の言葉を返して。
その愛の犠牲になる相手に同情の矛先を変えた。
(婚約破棄?物語の見過ぎではないかしら?そんな簡単に行われるものではなくてよ)
私、アナタには感謝と同情をしているの。本当よ?アナタが相手をしてくれるから、私、結婚後も変わらずに優雅な毎日を過ごせているの。まぁ、子を成すのは家の為ですもの。仕方がないわ。それ以外を全てアナタが引き受けてくれるんですから、有り難いわ。……そうそう。アナタがあまりにも帰りたいと零すものだから、可哀想に……。アナタの家は取り潰しになってしまいましたの。彼を真実の愛に目覚めさせたのだから、きちんとその責任を果たさなくてはダメよ?それと、もう窓から飛び降りることが出来ない様に新しい部屋は地下に作っているみたい。彼、張り切っていたわ。必要な物があったら、メイドに伝えなさいな。それでは、ご機嫌よう。真実の愛のアナタ。




