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エイラ~瞬きしたら花嫁衣裳だったので、逃亡しました~  作者: ヒトミ


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4/5

王国全土へのお触れ

遠くから波の音が聴こえてくる。鼻をかすめる潮の香り。


私──エイラは、急速に覚醒していく意識に身を任せた。


ぼんやりと目を開けると、窓越しに海辺の街が広がっていた。馬車の窓に頭を押し付けて寝ていたらしい。寝相(ねぞう)どうなってんの……。


痛む首に手を当てて揉みながら姿勢を整える。


膝の上に猫か何かが乗ってる重さに今さら気付き視線を向けると、アナベルの体が丸くなって覆い被さっていた。


気持ちよさそうな寝息が服越しに触れてくる。


無意識に少女の背中を撫でながら、ゆっくりと周囲を見回す。


「エイラ、起きたのね。アナベルがごめんなさい。(たしな)めても貴女の上からどかなくて……申し訳ないわ」


斜め前に座っていたロザリナが、困り眉でこちらを見ていた。


ステファンの姿は見当たらず、首を傾げて口を開く。


「いえ、それは全然構わないんですが、アナベルちゃんの髪や服の方が汚れそうで、すみません……。ところで伯爵様はどちらに?」

「帝国行きの船と今日の宿屋を確保しに行ったのよ。それから、貴女の着替えも用意するために。いつまでもその服だと、着心地が悪いでしょう? 着替える時にその髪も綺麗に整えましょうね」


何でもない事のように伝えられ、絶句する。


至れり尽くせりじゃん……。私、そんなに気を遣って貰えるようなことした? 迷惑しかかけてない気がするんだけど。現在進行形でアナベルちゃんの服汚してるし。


「なぜ、そこまでしてくれるんですか……?」

「なぜって。嫌ね。貴女はもうトゥルー家の一員なのよ。身なりを整えて、満ち足りた生活をして貰うのも、わたくしたちの責任の一部なの。だから遠慮しなくていいのよ」


ロザリナが口元から扇を離して優雅に閉じた。柔らかな微笑が向けられ、心が暖かくなる。


この人たちが悪い人に騙されることがないよう守りたい。


胸元に手を当て、ジャラリとした感覚を肌に感じて目を見開く。


やっば……ドレスから剥ぎ取ってきた宝石だ。え、着替えるときバラバラと宝石が零れ落ちたら、今の私に対する信頼なんて、木っ端微塵に吹き飛ぶんじゃない? ……いっそ正直に話ちゃう? 着ていたドレスから剥ぎ取りましたって。そのときに兵士を二人ほど行動不能にさせて、身ぐるみ剥がしましたって? 私だったらそんな人間、警察に突き出すんだけど。


宝石の冷たさが肌を突き刺す。首筋から嫌な汗が伝い始めた。


そもそも、この宝石、どのくらい価値がある物? 見せただけで身分が分かるくらいに高価な物だったら……駄目だ見せられない! ちょっと待って、ここは異世界。異世界と言ったら魔法……宝石に魔法がかかってることも無きにしも非ずで……あの時、ルシアスが逃げる私を余裕の表情で眺めていたのは、何かで追跡できるからとかだったら……。宝石イコールGPS的な!?


小首を傾げているロザリナが見える。ぐるぐると目を回しながら、唇を震わせる。


「あ、ありがとうございます、助かります」


エレノアの記憶にまほう、魔法は……? 漁りたくない。だけど、漁らないことには……ない、無いよね……ないと思う。


幼少期の頃からの記憶が、実感を持って襲い掛かってくる。しかし、その中には両親を殺された瞬間の記憶が出てくることはなく、幸せだった頃の記憶しか思い出せなかった。


エレノアが嫌な記憶、隠したんだろうか……。分かんないな……。


冷や汗をかきながら下を向き、アナベルの髪を撫でて気分を落ち着けた。撫でながら顔を上げて窓の外を眺める。自身の心境と対照的に外の風景は、明るく穏やかだった。


そうこうしていると、馬車の扉がノックされて外側に開き、ステファンが顔を覗かせてきた。


落ち着いていた心臓が音を立てて飛び跳ねる。


「あらステファン。早かったわね。もう全ての手配が済んだの?」

「待たせたかと思ったが、そうでもなかったのかな? 問題なく済んだよ。ただ、検問が強化されていたのが、少し気掛かりだ」

「検問が?」

「なんでも、旧王家の王女殿下が乱心して、保護地から行方不明になってしまったらしい。カスティアの実権を握った新国王が、王国全土にお触れを出したそうだ」


ステファンが馬車に乗り、馭者に合図を出しながらロザリナの質問に答えている。その会話を聞き、心臓が嫌な音を立てる。顔から血の気が引いていく。


馬車が動き出すのを感じながら、下を向き唇を噛み締めた。アナベルの髪を撫でる手が止まり、髪の中で拳を握り締めてしまう。


腰に差したままの細剣が、無機質な音を立てて存在を主張してくる。持ち物は全て処分してしまった方がいいのかもしれない。でも、剣は手放したくない。せめて短剣だけでも所持してたいよ……。


ルシアスの不気味な微笑が頭の中に広がり、舌打ちが出そうになる。


蛇みたいな男だ! 本当に気持ち悪い……ッ。というか、マジで宝石どうしよう。魔法は無いと思うけど確実じゃないから、どこかで処分しないと。だけど換金するのは足がつきそうだし、今はどうやって隠すかだ。何か……何かないか……。


アナベルの寝顔を見つめ、手元を見つめ……そこにあるお菓子の袋を見て閃いた。


そうだ、小袋! なんか、巾着袋みたいなの用意して貰えたりしないかな……。自分で用意できたらそれが一番なんだけど、今はトゥルー夫妻に甘えるしかない。


「あのっ。お話中すみません。後で一枚小袋を頂けませんか? 身の回りの細々とした物を入れておきたくて……わがままですみません」


細々とした物って何? 言い訳が苦しすぎる……。


「あら? そう、そうよね。わたくしったらそんなことも思い浮かばなかったなんてごめんなさい。エイラくらいの年ごろの()なら、小物入れの一つや二つは必要よね! アナベルだって沢山持っているというのに。分かったわ。後で用意させるわね」


ロザリナはすんなりと承諾してくれた。ほっとしながら前を見ると、にこやかなステファンと視線が合う。


一瞬、鋭い視線を感じたんだけど、気のせい……?


「エイラ。苦しいときは私たちを頼りなさい。迷惑をかけるとか考えなくても大丈夫だ。これでも伯爵家で滅多なことでは揺らがない家だからね」

「そうよ。遠慮なく頼ってちょうだい。小袋と言わず、必要な物なら何でも用意してあげられるわ!」


トゥルー夫妻が暖かな表情で見てくる。


ステファンさんの言ってること、壮大過ぎでは? いったいどういう意味なんだろ。ロザリナさんはロザリナさんで、なんか返しが独特な気がする……。ぁぁぁ、いい人たちを騙してる罪悪感、半端ないっ。


「ありがとうございます。今は小袋を頂ければそれで……あ、立て続けに少しご相談が……。この剣なんですけど。できたら、違う物に替えたいなと思ってまして……」


腰に差した細剣と短剣を手で指し示す。


言ってて顔から火が出そう。でも、だけど、剣だけは手放したくない! 身を守る手段はこれしかないし。そもそも、私の特技は西洋剣術を扱えることくらいなんだから、剣を手放してどうするっ。手放してなるものか!


「剣は検問で引っかかるかもしれないね……その剣がいらない物なら、私が処分することもできるが。検問が終わったら、ひとまずは私の物で悪いが、その剣と同じような細剣と短剣を渡そう。その後、トゥルー家の領地に着いたとき、貴女に合う剣を新調するというのは、どうだろうか?」


ステファンが拳を顎に当てて目を細めた後、そう提案してきた。


あ……検問。本当に、マジでふざけてる。あの男、本気で許さない。この剣は塔に置かれてた物だから、替わりの剣を渡して貰えるなら喜んで処分するけど……。検問さえなければ、ステファンさんたちの手を煩わせることも少なくて済んだのに! トゥルー一家には頭が上がらない。


「ステファン様のご提案通りにさせて頂きたいです。何から何までありがとうございます」


深々とお辞儀をして、トゥルー夫妻の好意を噛み締めた。

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