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第一話

 私立の名門お嬢様学校、桜楼閣学園は女子校であった。しかし、一部の生徒は個人的に男性用の制服を所持、又着用していた。彼女らの振る舞いに他生徒は浮き足立ち、教師陣は手の施しようを探していた。最終的に二者が出した結論はとある教室で部活動として他生徒と過ごしてもらうことであった。

「はーい、いらっしゃい。今日はどうしたのかな。僕のお嬢様?」

 視聴覚室にやってきた彼女にとって悍ましさ感じないようなその声にその身を震わせる。彼女は勇気を振り絞って声を出す。

「すみません、先生にここへ行けって言われたんですけど」

「「あれ、神楽かぐらじゃん」」「どした」「どしたの」

 彼女の内心を言葉に表すなら「うげ、神々(みわ)姉妹だ」と言う感じだろう。

 そもそも何で彼女がここにいるのかと言うと、その美貌が女生徒をたらし込んでしまったが故である。

 要はこの教室に体良く押し付けられている現状である。

「彼女はお客様ではなく今日からウチの部員ですよ」

 彼女にとって想定外の言葉が聞こえてくる。

「部員?ここは部活なのですか?」

「本人も理解できていないようだが?」

 お出迎えをしてくれた男性がツッコミを入れる。

「全くここの教師陣は説明が下手なようですね」

 今、説明してくれている生徒は長身に眼鏡をかけ、白い手袋をつけている男装の麗人であった。

 いや、その生徒だけでなく神楽の前にいる生徒五人は全員が男装した麗人と呼ぶべき存在に仕上がっている。

「ここは神宴ホスト倶楽部。我々、男装を趣味にしている者が女生徒の放課後のお相手をしている部活ですよ」

「趣味ってなんだ⁉︎私は女性を愛でたいだけだ」

「なお悪いでしょ!それ」

 神楽は突飛に大きな声をあげる。

「わお、そんな大きな声出たんだ」

「教室じゃ静かなのに」

 姉妹がこちらに語りかける。

「まぁとりあえず自己紹介といきましょうか」

 部活の紹介をしてくれた女性が喋り出す。

「私は神代鼓子かみしろここです。この部の副部長をしております」

「僕は神田雪羅かんだせつら、二年生さ。部長を務めている。さっきのことは気にしないでくれ」

 私を出迎えてくれた先輩が名乗ってくれた。さっきのことと言うのは女性を愛でたいと言う例のあれだろうか?そんなこと気にしないのに。

「僕らは知っているだろうけど、一応ね。神々表花みわひょうかと」

裏理りりだよ、よろしくね」

 神々姉妹も続けて名乗る。

「…。すぅすぅ」

 寝ている。

 この人は一体?

「この人は神水叶かんみかなえ。こう見えて三年生で我々の先輩にあたる方だ。ただ、精神面はまだまだ幼い部分も多く、よく寝ている」

「ここ、要は接客店ですよね?寝ていて良いんですか?」

 ここに疑問が一つ。

「彼女はそれが仕事なんですよ。寝ている子供は無防備で可愛いでしょう?」

 そうして、彼女らの自己紹介が終幕し、次談として、こちらの自己紹介を始めようとしていたところで待ったがかかる。

「私は」

「存じ上げておりますよ。神楽真姫かぐらまきさん。この学校初めての給付型奨学金特待生に選ばれた女学生は多分全生徒が君を知っているはずだよ」

「さっき、神田先輩、私のことを知らなかったみたいですけど」

 そう口答えると神代先輩は微笑んで

「ええ、だから多分って言ったんですよ」

 先輩は本当に優しそうな顔をしているが、その言葉の端々から冬の鉄棒のような冷たさを感じる。かといって、サウナの後の冷風呂のような爽快感は存在しない。

「ちなみに君はここのことを理解していないと言うことで良いのかな?」

「あ、はい。この学校には高等部から編入しているのでシステムもわかっていないので教えていただけるとありがたいです」

「なら説明しようか」

 この学園で女の子が女の子を可愛がる場所である神宴ホスト倶楽部では世界中から集めた茶葉やコーヒー豆を使ってまたしても世界中から揃えたティーカップに注ぎ、美味しくいただきながらお菓子をつまんで麗しい方々と綺麗な女生徒たちが団欒に耽ると言った時間を過ごすことをしていた。

 麗人側は神田先輩の僕っ子的王子様キャラ、神代先輩のクールドS系キャラ、神々姉妹の異法BLスタイル、神水先輩の癒し系ショタキャラの五人による癒しをサービスしている状況である。こちら女生徒側は地位と名誉と家柄と、ついでに金も持っているような家に生まれた淑女たちがその贅沢を持っているが故の怠惰を潤す時間にこのホスト部を使っている始末であった。

 そして、今回入部希望(教師による推薦という名の強制)の神楽はどこの立場に置かれるのかというと、優等生というバカの集まり(一部例外あり)の中では珍しいジャンルと王子様系という感じではないが中性的な顔の良さを売りにしていくことで教師陣と神代先輩の間で取引が成立していたようだった。

「というわけで、今日はとりあえず体験して行ってみるといい。何、制服はお貸ししよう。大丈夫、君の胸は小さいから入ることだろう」

 その神田先輩のデリカシーの無いジョークに神楽は笑って見過ごしている。

 神楽は女性用の制服から何故か女学院に存在している男性用の制服へと着替える。そのために個室を一つ空けたこの部活は、いやこの学園は素晴らしくお嬢様学校であることがよくわかる。


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