社畜召還される
初投稿です。
拙い文章ですがよろしくお願いいたします。
「私と結婚し、この国のために尽くせ聖女よ」
突然目の前に現れた男は、舐め回すように私を見た後ニヤリと笑ってそう言った。
「あー、死にたい」
終わりの見えない仕事の書類が積まれたデスクに顔を埋めながらそう呟いた。
事務所内には、誰もいない。
そりゃそうだ。すでに23時55分。ちなみに今日は土曜日で会社は休みだ。
私だけが休日出勤し、残業している。残業代は出ない。
新卒で努めて5年。最初は、普通の待遇だったと思う。
土日は休めたし、繁忙期には残業はあるがそれは他の社員もだし残業代もでていた。
「君とは特に仲良くなりたいものだね」
3年目会社に社長の息子が入社した。
同業種で修行していたたのだが社長の後継者として呼び寄せられたらしい。
どこかうさんくさい笑顔だなというのが第一印象。同僚は「イケメン」「優しい」「エリート」と騒いでいた。
歓迎会で彼女がいない事がわかると独身女性社員の目つきがかわって怖かった。
私は、とある事情で恋愛、ましてや結婚などするつもりもなく。彼自身にも同僚としてしか興味もなかった。
自分に興味をもたない女が珍しかったのだろうか。
徐々に関わってくるようになってきた。
その度に他の女性社員から叱咤され、彼に困っているから関わらないでほしいと伝えてもさらに目立って関わってくる。
「僕のものになりなよ」
「そうすれば守ってあげるよ」
嫌悪しかなかった。
拒絶し、距離をおき、仕事に没頭した。
すると次は山のように仕事を押しつけられた。
小さな粗探しをされ、その度に仕事を増やされていく。
そのころには、徐々に精神は蝕まれていたのだろう。
退職という道さえ見えていなかった。それでも彼の手を取るのだけは受け入れられなかった。まもなく終電だ。持ち帰れる仕事の書類を鞄につめ、オフィスの出入り口へ向かう。
すでに表の玄関は閉められているため裏口へ向かった。
そこには彼がいた。裏口へ向かう通路の壁にもたれかかり、スマホをいじっている。
最悪だ。土曜なのに何でいるんだよ。スーツじゃないから休みのくせに。
仕事続きでぼんやりした思考を巡らせるが帰路へつくにはそこを通るしかないのだ。
「お疲れ様です」
会釈して横を通り過ぎようとした。
「いつまでだ」
彼の目の前を通り過ぎようとした瞬間言われた。
「え?」
「いつまでそうやって意地をはるんだ」
まっすぐ私へ睨みつけあきれたように。
「・・・私はあなたとどうなる気もありません」
最初からそう言ってるだろ。
「何が不満なんだよ」
「キャッ」
油断した。右腕をつかまれた。
「離してください」
振りほどこうとしたがより強く掴まれた。正直痛い。
「答えろよ、どうしらお前は「離して!!!!」
彼に腕ごと体当たり瞬間ぶつかるはずだった体は彼をすり抜け光の穴へ落ちていく。
そうして現在へともどる。
光が消えると私は全く知らない場所にいた。
かなり広い場所だ。見渡すと壁際には扇で顔を隠したドレスを着た女性や一昔前のヨーロッパの貴族を思わせるようなひらひらとした服に身を包む男性。
その人間たちの手前には鎧を身につけるガタイのいい男性たちが等間隔に並んでいた。
混乱しつつも周りから少しでも情報を得ようとしていた。
そのとき私の前方から声があがる。
そこは先ほどまではただの壁だったはずなのに壇上が現れ、その上には玉座のようなものとそこに座るこちらを見下ろす男性がいた。
嫌な笑みでこちらをみてくる。
金髪に碧眼の見た目はまるで作り物のように美しかった。
だが鳥肌と悪寒がする。
「我が名はレイクレン王国 ゲイル・レイクレン国王なり」
ドヤ顔でそう告げられた。
「レイクレン?」
聞き覚えのない国名。
「かの異世界より我が国を救うために召喚したのだ聖女よ」
聖女・・・?
「む?神官長よ、聖女とは言語は統一されているのではなかったのか?」
国王は壇上の下の端に立つ白いローブに身を包んだ老人に問いかけた。
老人はジッと私を見た。
「間違いなくそうでありますが過去の聖女達は育ちに差がある事が伝書に残されております」
「つまりは言葉は分かるがものを知らぬということか」
国王が残念なものを見る目をしてくる。
「そこは私どもにお任せくだされば」
老人はニヤリと笑った。
「そうだな、いくらお飾りといえど最低限は覚えさせよ」
国王がそう言うと老人がそばにいた騎士らしき人へ耳打ちし私に向かってきた。
これは、捕まってはいけない。
そう直感が働いた。
向かってくる人とは、反対に走り出した。
パンプスは脱げてストッキングだけだったがかまうものか。分からないがとにかく逃げなければ。
「捕まえろ!」
老人のがなり声が背中に浴びせられる。
怖い。必死に扉へ走ったがそこへたどり着く前に腕を掴まれた。
「やめて!!」
恐怖に頭が染まった瞬間目の前が再び光に包まれた。
「我らの娘を怖がらせるでない」
先程まで掴んでいた騎士は光によりはじけ飛ばされたかのように私から離された。
そしてその騎士から床にへたり込んだ私を守るかの様に目の前にたつ白い女性がいた。
白い、そう表現するしかないほど全身が白く美しい女性でどこか懐かしい気持ちを覚える。彼女は王や騎士を睨みつけていた。
「何者だ!!」
騎士が女性に剣をむけた。
「・・・我は貴様らが神と呼び、創造主、時には悪魔とよぶもの」
ため息をはくように紡がれた言葉に神官長と呼ばれていた老人が顔を青くしてこちらに飛び出してきた。
「ラヴァルズール様なのですか」
「この娘は我らの愛し子、連れて行かせてもらう」
老人の言葉に彼女は何もいわなかった。彼女は振り返り手を差し出してくれた。
「私と一緒に行きましょう」
何も分からなかったがここよりも懐かしさを覚える彼女とともにいたいとその手を掴んだ。