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アリア  作者: 趙世
《アリア》
2/2

哀れな子

 まだ国で起きている戦争について何も理解出来ていない程に幼かったあの日、二人の兄妹は母を国に奪われた。母を溺愛していた夫も、目の前で殺された。

 せめてもの情けか、それとも見せしめの為か分からないが、兵士は子供たちを殺さなかった。


 それ故に、早くに父と母を亡くした二人は自分たちだけの力での生活を強いられる。

 父が死ぬ直前に渡した短剣は妹が所有し、父から教わった家事や料理の方法、お金の正しい使い方を良く聞いていた兄が金銭面を何とか上手く扱い、生活を安定させていた。


 しかし、父から受け取ったお金は無限じゃない。毎日、剣術の鍛錬を怠らない妹の為に働く事を決めた兄は近くの王国へと行き、騎士を目指す事に。

 二人とも女の子供という事もあり、剣術の才能がある。兄はその辺の兵士より圧倒的に強く、着実に成果を上げて昇進を重ねて行った。


 着実とお金を稼ぎ、王国で有名になった兄は妹を連れて王国へと移り住む事を決める。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 その実力を買われ、兄は正式に騎士として、国王直属の騎士団へと所属することになった。

 しかし、光栄に思えたのもほんの一瞬。騎士として誓ったはずのメンバーは全身を黒い鎧で包み、夜な夜な隙を見ては国王の命令通りに貴族を暗殺していた。


 その姿を見て、兄は知ることになった。

 この国の騎士は、騎士としての職務などとうに失っていること。そして………その黒い鎧は、母と父を奪った兵士が着ていた鎧と全く同じだった事に。


 怒りに震えた兄は騎士としての立場を利用し、国王と再び対面する。

 国王は初め、兄からの言葉に聞く耳を持たなかったが『アリア』と言う名を口にした途端、目付きが変わった。


 あの日の事、一体どういう理由で母を連れ出し、父を襲ったのかを知るため、兄は国王に問い詰める。

 兄の言葉を一通り聞き終えた国王は嘲笑し、その真意と母の本当のチカラ、廃墟の能力の全貌を兄は知ることになった。


 そして今現在も母が生き、囚われている事を知った兄は激怒して国王に斬り掛かる感情を押し殺し、騎士の立場を完全に放棄して急いで廃墟へと向かおうとする。

 しかし国王はそれを止め、城中の兵を掻き集めて兄を取り押さえた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 牢屋に囚われてから数年後、兄は『国家反逆罪』として処刑されることになった。

 例え剣術が幾ら優れていようと、法の力には逆らえない。己の無力さと母を救えなかった事を悔やみながら、兄は断罪場へと足を踏み入れた。


 執行の時。兄の首が断頭台に掛けられたと同時に、断罪場へと複数人の男達が登り始め、兵士へと次々に襲いかかった。

 それを見ていた国王は混乱し、直属の騎士を向かわせるが誰一人としてその命令には従う事は無かった。


 複数人の男たちは兄の騎士として着実に成果を上げ続ける姿に、直属の騎士たちは自分たちとは違って悪に染まらなかった兄の姿を認め、手助けを行ったのだった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 助かった兄は急いで帰りを待つ妹の元へ戻り、口頭で全てを説明した後に、廃墟………否、聖域へ入る資格を得る為。

 二人は国王の前へと姿を現す。


 自分がこれからどうなるかを悟った国王は命乞いを試みるが勿論のこと、失敗に終わる。兄妹はこれまで自分たちを騙してきた事、母と父を奪った事に対しての明確な殺意と敵意を持ち、二人で国王を斬り伏せた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 結果的に国王を討ち果たした事で、妹のみが聖域へ足を踏み入れる資格は得られたものの、その聖域に張り巡らされた結界を越える事は出来ず、結界自体を解く方法を持ち合わせていなかった。

 結界を解く方法は一つ、世界のどこにあるのか分からない聖遺物である『聖杯』を探し出す事。


 母が囚われている聖域を解放する、そのために兄妹は『聖杯』を求めて世界中を旅する事になる。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 『聖杯』の探索を始めてある程度の年数が経った頃、妹はある違和感に気付く。

 兄と自分とで、あまりにも歳の取り方が違う。兄に白髪が増える一方で、妹は華麗な大人の姿を維持し続けていた。

 それに気付いた妹は“聖域への資格=長久の命”だと知る。


 そこから更に年月が経ち、94歳を迎えた兄の寿命が尽きる寸前まで共に探し回った後、兄妹は遂に『聖杯』を見つける事に成功する。

 それと同時に、兄は妹に聖域と『聖杯』の事を全て託しその生を終え、妹は単独で王国への帰還を目指す。


 その帰還までに掛かった年は約182年。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 長い年月をかけて王国へと帰還した妹は聖域へと向かい、『聖杯』を使ってその結界を破壊した。

 そして聖域内のあらゆる場所を探し、たった一つの小さな小部屋の扉を見つける。なんの変哲もない部屋の様だが、妹は感じる。


「………この先に、母様がいる」


 扉を開けた先は、つい先程力尽きたであろう女性が笑顔で涙を流して倒れている。

 この人が、母親だ。顔が全く思い出せないはずだと言うのに、妹にはそう直感する何かがあった。


 死に様にしては異様な程に、幸せそうだった。恐らく、父と再開する夢でも見ているだろう。妹は母に声を掛ける。


「………母様、ただいま戻りました。長い長い旅から、私は母様を探して戻ってきました」


 あともう数年、あともう数分だけ早ければ、母を助けれたのかもしれない。既に叶う事のないそんな淡い希望を押し潰し、妹は再び母に問いかける。


「………幸せな夢を見ているのですね。父様と楽しそうに暮らす、幸せな夢を……」


 その問いかけに母が反応する事は無い。訪れるのは聖域内の静けさと、風で小枝が揺れる音のみ。

 聖域の中で起きた小さな悲劇。そのあとに遅れて始まった、小さな再会劇。その全てを知る者は、この世で妹しか存在しない。


 そしてその妹も、長きに渡る旅を終え、その役目を果たすときが来た。

 微笑む母の膝に頭を乗せ、妹は数滴の涙を流しながら、親子共にその生を聖域の中で終えたのであった。



 『眠る女』自体は夢の中で見た通りの内容で、兄妹のお話は『眠る女』の辻褄合わせというか、補足として考えた物語になります。


 そこまで詳しく説明してない理由としては、ただ単に夢で見た内容だから気が乗らない点もあったりはしますが、一番の理由はそうした方が長々と説明するより端的で良いな、と個人的に思ったからです。


 そうです、自己満です。自己満。

 それが一番良いんです。

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