眠る女
多数の都市との貿易などを行い発展してきたとある国の城に住まう『アリア』という女性が居た。アリアは剣術に優れ、次期剣王として国王を護る人物と国民から賞賛される毎日。
しかし、アリアには剣術の他に、特別な力がもう一つあった。それが『幸福』の力。
アリアはこの世に存在するだけで多大な幸福をばら撒き、この国の発展に大きく関わった第一人者となっていた。
本来ならばアリアが城内を歩き回る事は禁止され、国が用意した土地で支援を受けながら暮らすはずだったのだが、「アリアが何者かに襲われたり攫われても自力で解決する事が出来るだろう」とソレを許していた。
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そして時が経ち、他国との戦争が終結し始めた頃。国王が病に倒れ、その妻も同じく自室で亡くなった事が国中に知れ渡った。
次の国王として選ばれるはずだった17歳の第一王子は毒殺、9歳の第二王女は何者かに攫われて死亡。まだ産まれたばかりの第二王子は行方不明となっていた。
次の国王として選ばれた男は、アリアを自身の妻として迎えると言い出し、未遂に終わったがアリアを襲って子を成そうとした。
自身の身に危険を感じ、この国に嫌気がさしたアリアは、城内から抜け出して街を駆け回った。
その時、偶然出会ったごく普通の一般男性に助けられ、二人は互いに恋に落ち、国から抜け出す事を誓った。
アリアは髪色を変え、衣服を庶民と同じ物を着て、国を出た。そして外の世界で暮らし始めたアリアは『人並みの生活』と言うものを知る。
兄妹の子も産まれ、男とアリアは仲睦まじく、ごく普通の生活をし続けていた。
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元いた国の戦争が激化し始めた頃、幸せに暮らしているアリアは、国の兵士に居場所が特定され、居るだけで周囲に利益を齎す存在としての能力を利用するために国王の命令で連れていかれた。
まだ幼い兄妹を連れて外出した夫を残して。
国に連れ戻され、二度と抜け出す事が出来ない様にと、用意された土地に建つ廃墟で一人剣術を磨き続ける。その廃墟には特別な力があり、本来の寿命の倍を生き長らえる事が出来た。
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廃墟に幽閉され、誰からの助けも無く、支援も何も貰えなかったアリアは廃墟で倒れていた。飢え死に寸前だった。
アリアは決死の覚悟で立ち上がり、死ぬ直前の力を振り絞って目の前の扉を開ける。その先はただの小部屋、家具も道具もひとつ無い、ただの部屋。
しかしアリアには、別の空間に見えていた。その先には何故か愛する男とアリアとの子供が居る。
暖かく明るい我が家に足を踏み入れ、アリアは二人に向かって手を伸ばす。
「おかえり、お疲れ様」
男のその声を聞いたアリアは、これまでの楽しかった思い出が全てフラッシュバックして泣き崩れる。
男と離れ離れになって267年。アリアはその役目を終え、永遠に愛を誓った男の元へと戻る。
「ただいま」
しかしそれはただの幻。扉の向こうでは、一人の女が笑顔で涙を流しながら、力尽きていた。