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  作者: ほぐちゃー
1/1

男は知っている。この世の不条理を。

男は知っている。この世の悲しさを。

男は知っている。この世のバグを。

男は知っている。この世の不条理を。

男は知っている。この世の

男には親しき友がいる。長年の付き合いだ。

男は友が無実の罪で牢獄に投げられたのをつてで聞いた。

男はすぐに助ける準備をした。男にとって友は心の拠り所だ。


男は発った。日が1mも動いてないだろう。

道中遠くに道に突っ伏しているように見える人...人?みたいなのが見えた。

なんだろうと寄ると胴の真ん中がキレイにそこだけない不自然をも言える美しい丸穴が開いていた。顔は缶詰缶だ。嫌な銀色だ。

上下黒で覆われている。3Dの境界がない。

その者は地面を掴んで足を掛けるいわばロッククライミングのポーズをとっていた。

いや、何をしている。ここで止まっているわけにはいかない。男は一瞬の戸惑いを捨てた。

缶者(かんしゃ)の前に立ったとき声を聞いた。

「おい、そこのおまえ。おまえだよ。」全方向から聞こえる声にたじろぎ、黒板を引っ搔いた音の悪寒が背中に流れてきた。

だが大体察しは付く。振り返ると照る頭をこちらに向けて訝しげに見やる動作をする。不思議げな声が響く。

「何故この断崖を登れる?」

は?なにをいうこいつ。

「何故風も吹く、雲海が下に見える、か細い導が突き刺さっている崖でそんな悠々と楽々と平然と崖を下にして登れる?」

「なにもただの道だが」

「ならこれを覗いてみろ。」男はないポケットから電球みたいなものを取り出し渡した。

言われたままソケットみたいなところから片目にして覗くと確かにグレーの世界が見えた。

缶者は岩の掴みやすい突起をこれでもかとわが物にしている。

「こんなものから見てるからだぞ。ここは平坦で一本道だぞ。」

「何?そんなわけない。俺は何を見ているという?」

「知らん。その頭で考えろ。」

男はそっけなく言い去った。

「おいちょっと待てい。おぉーい。おーい。おーいぃ...」

命令がきたが無視。黙殺。


行く道行く道、変な奴がいないか気が立っていたがそんなことなく難なく牢獄がある都に着いた。

友がいる牢屋に行こうとするがそれを許さんばかりの人であふれていた。みな楽しそうだ。

しかし不躾に行きかうのでどうも間に入れない。遠回りだが迂回するしかない。急がば回れだ。

幸い、大通りには沢山だが路地には人知れずあるように静かだった。

ちょうどいいと男はこれでもかと走って時間を短縮した。牢屋につながる地下トンネルに入り、友が入っている牢屋を探した。

すると奥の曲がりから怒号が聞こえる。乾いた木を地面にたたきつけんばかりの軽い音がする。

なにしているんだと近寄り覗くと、看守が棒で何かを叩いている。呻き声も聞こえる。

「ぅ...ぁあ...あgうぅ...」

「お前がやったんだろう!?証人がお前が犯人と言っているんドぞ!」

「ちが...私はほんとに...やってませ...」

「ええいまだ否定するか!このっこのっ!はぁ...はぁ...もういい!」

看守は息切れしながらさらに奥の曲がり角に消えてった。あっちは地上のはずだ。

男は人がいないことを確認して誰なのかを見る。

服はうす汚れて元は白の服だったのが何となくわかる程度だ。

服の上からでもわかるほどに浮き出た肋骨からは全て察しがつく。

固いズボンからはみ出る足は骨と皮と松の樹皮でできているようだ。

周辺は赤と透明な液体で一種の現代アートのようだ。

長い間いたそうで頭は伸びきった髪と髭で覆われている。

「大丈夫か?」と問いかけるが聞こえているのかないのか掠れたこえでなにか言っている。

男は持ち前の道具袋から針金を取り出した。いとも容易い作業だ。

突破された扉からは過去の音がする。

再び問おうと顔を覗くと今会いたかった友だった。」

「おい、おい!大丈夫か!平気か!?まってろ今水を出すからな!」

「ぁあ...ぁぁ...」

「気を確かに!ほらゆっくり飲め!」

男は体を支えながら水を飲ませようとする。

「ありがとう...」


友は還った。


今、男の目の前で、痣で紫色の顔で、笑みを湛え、小さく、掬い上げられた。


奥から足音がする。誰だ。


男は体を背中に背負(しょ)い上げ逃げようとする。しかし相手のほうが先に着く。

「nあ!?誰だお前っ!」

「私の友に何をするっ!この男が罪など起こす人間であると知っているだろう!」

嘘である。そんなこと知っているのは男ぐらいだ。

「田舎から一人でやってきて慣れないことに苦難しつつ!それでもなお生きようとする者への仕打ちかっ!」

「黙れ!見ず知らずの部外者がなにを抜かす!殺人をしたのだから当然だ!」

「この男はそんなことはしない!誰にでも優しく、道脇の花にさえ慈悲をかけるのだぞ!そんなことは絶対せぬ!」

男は逃げた。当然追いかけてくる。うろ覚えの脳内地図がヘマしないことを祈るばかりだ。

しかし祈りは潰えた。行き止まりである。

男は必死に頭をフル回転させ蜘蛛の糸口を探した。

そうこうしているうちに追い付かれた。

そこからはもう一瞬だった。手慣れている動作で気絶させられてしまった。


あぁ友を引き離さないでくれ


落ちる意識からは発さぬ言葉が出る。



いたたたたたた!

目が覚めるほうが早かった。看守に左足を持たれて引きずられている。周りは何故か最初に入った出口付近だ。

男の道具袋も看守が持っている。

男は右足で看守の足を薙ぎ転ばせる。その拍子に伸びたようだ。

男は道具袋を持ち来た道を戻る。

時間は少し経ち昼から夕方になっていた。大通りには先ほどより人は少ないが行き通っている。

男は誰にも見つからぬよう路地から門へ行く。

あと少しだ。3分歩きもう少しで門に着く。勝負はそこからだ。

切羽詰まった男の頭に一つの笑い声が突き刺さる。

優しく温かい、談笑だ。おそらく夕飯でも食べているのだろう。

しかし男にはとてもこびりつく笑いだ。

気が付いた時には足は歩いている。

男はやはり濁った思考でだが無意識で勝負に出た。

門番は怪しんだだけで追手は来なかった。

男はとても悲しかった。何故なんだと。

見覚えがある景色。缶者がいたとこだ。

月明りが頼りの帰路に黒い物陰がある。アレだ。

近づくと男は二度驚いた。

缶者は自分の頭の蓋を開け、内容物を取り出した様子で固まってる。

さらに入ってたものは電球のような物がたくさん入っている。

この完全なる無機質を見て男は言った。

「何故...自ら蓋を開けた..」

「何故...電球が入っている...」

「何故...無機物なのに還った...」

「おい...おい...なんとか言えよ...!」

男は言った

男は叱咤する

男は問いかける

男は言った

男は言葉を吐く

男は言った

男は言った

男は言った



















男は知った

その場を後にする

生き物はもういない

あるのは悟りと空虚だけだ

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