四章 天上の星はその動きを止めぬ
「紗 漂姫が、瑛蓮を狙っているだと?また・・・なんで?」
龍斎の言葉に璃光もうなずく。どうやら思ったことは、同じだったようだ。二人の視線が燕姫にむく。
「姫様の、瑛蓮様のお命を狙っているということでしょうか?」
と、璃光。
「そもそも、なぜそれがわかったのですか?あっ・・・・・・・『星読み』ですか。」
燕姫が当たりとでもゆうふうに頬をゆるませた。
「そうじゃ。星の位置、それぞれが表すもの―――――などから現在、過去、未来が知ることができる術。まぁ、全てが分かるわけではないがの。だとしても紗一族の血のせいかそこらの学者共よりはくわしく読めることができる。」
燕姫がバサッと扇をひろげる。そして静かにあおいだ。
「星読みでわかったのは、漂姫姉上が瑛蓮を狙っているとゆうことだけじゃ。なぜ、狙っているのかも今は分からん。それ以上は、星が語らなんだ。狙っているのが命なのか・・・瑛蓮自身か。」
璃光が、それを聞き言う。
「だから・・・お后様は、瑛蓮様を守るためにウィルレイシアに行かせたかったのですね?いくら紗一族でも他国にいる姫には手がだしにくから・・・。」
「納得できん。」
いきなり龍斎が言ったので燕姫と璃光は驚いた。
「いくら紗一族でも、王家の姫に手をだすなど。命を狙っているとして、もしそうなったら・・・紗一族の当主は自分達が後々どうなるかわかっているんだろうな?死罪じゃ済まんぞ。」
それはそうだ。だが、その龍斎の言葉に璃光がコホンとわざとらしく咳をした。そしてまるで『アナタ大丈夫?』というふうな目つきで主を見た。
「主上、もうお忘れですか?紗一族は自分たちの一族の事となると一番容赦がなくて面倒な一族じゃないですか!それは主上が一番わかっておられると思っていましたが?お后様を奪いに―――失礼―――――もらいに帰ってくるまでどれほど大変だったか・・・!!」
璃光の言う通りだった。実際、龍斎と璃光が燕姫を紗家から連れ出すまでそうとう苦労したのは確かだった。あの時ほど自分はもしかして死んでしまうのではないのかと思った事はない。それほど紗一族の者達が持つ能力はすごいのだ。そして厄介・・・。
だから――――――・・・
「忘れた。・・・・・・はい、すみません。ちゃんとよーく覚えてます。だからその扇を下ろしてください。」
龍斎が扇を構えている燕姫に謝った。そんな様子を見て璃光は深くため息をついた。龍斎は二人を見ながら言った。
「・・・厄介な事になりそうだな。私も、我等も対策を考えなければなるまい。向こうはただの一族ではないからな。どっちにしろ油断はならない。まぁ、瑛蓮が明日からウィルレイシアに行ったとしてもだ。このことはあまり他には言いたくはない。もちろん、瑛蓮に言うな。そして・・・燕姫。」
「なんじゃ?」
「紗一族・・・紗 漂姫は瑛蓮を狙っていることに本当に間違いはないな?」
燕姫が龍斎の言葉にうなずく。そして、まっすぐに龍斎を見た。
「間違いない。星は・・・空の星は永遠に動き、そして嘘はつかぬ。人間と違ってな。だから信頼できるのじゃ。星読みの術はな。」
燕姫はそう言い、龍斎と璃光に背を向け部屋から退室した。燕姫が出て行った扉を見て龍斎はポツリとつぶやいた。
「無理はするなよ・・・燕姫。」
燕姫は自分の部屋へと歩いていた。後ろからは、さっきまで王の職務室の前で待っていた二人の侍女を引き連れて。
星は動き続ける。永遠に。そして嘘はつかず未来を教えてくれる。そのことに偽りはない。確かに星読みで姉が瑛蓮を狙っているのは本当だ。だが、・・・燕姫はもう一つ星達が教えてくれた事をあの二人には告げなかった。
もう一人、狙われていることを・・・。
遠く離れたところ・・・。ウィルレイシアでは・・・。
「蒼天国から誰がいらっしゃるのでしょうね、ヴィエナ殿下。」
モノクルをつけた青年が言った。窓から外の景色を眺めている金髪の青年にむかって。そしてその青年は言った。
「・・・・・・誰でもいい。別にな。」