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悪魔にだってなってみせる

 「不当な境遇?きっとその人は勘違いしてるんだよ。確かにつらいことはあるけど、だからといってそれを環境のせいにするのは駄目なことだよ。」

 「なるほど……美咲さんがそういうなら仕方ないですね。分かりました。この件はそれまでです。後は最後に……本当なら真っ先に伝えるべきことだったと思うんですが、連絡がいってなかったようなので……。」


 わざと視線を落とし、言いづらそうな表情を浮かべる。彼女は疑問符を浮かべた。


 「実は美咲さんのご両親が先日、事故に遭ってしまい意識不明の重体なんです。今も集中治療室で生死の境を彷徨っています。」

 「ええ!?そ、そんな話聞いていない……!なんで連絡が来なかったの!?」

 「申し訳ないです。ご両親ともに事故に遭ったため連絡先が確認できず……幸いにも先程話した遺産の話がありまして、そこから俺に話が来て事故のことを伝えるよう頼まれたんです。」


 そういってスマホのニュース記事を見せる。交通事故のニュースだった。別に交通事故でも火事でも何でも良かったのだが、今日はこの交通事故がちょうど良かった。


 「で、でもそんなこと突然言われても……。」

 「そろそろですね。警察から口止めされてたんですけど、もう良いでしょう。関係者には事件の捜査状況が説明されていて、事件の目星が付いてるんです。事件のキー人物は西谷連夜。三十六歳独身。トラックドライバーでその日は仕事がうまくいかなく苛つきから泥酔状態で運転。そのまま暴走し交差点で横転。多数の犠牲者を出したという話です。」


 ニュースサイトを更新すると今、話をしたとおりの内容で続報の記事が出てきた。そこには犠牲者の悲痛な叫びも共に載せられていて事件の大きさが伺える。そう、俺は知っているのだ。この事故を最初から。未来の知識があるのだから。

 更にスマホの画面を変える。写真を見せた。集中治療室で全身包帯で巻かれ治療を受けている患者の姿が映っている。


 「ほ、本当だ……大変!は、早くお見舞いにいかないと……お父さんとお母さんが……!」

 「ええ、そうです!集中治療室の面会時間は限られています!今日はもう過ぎてるので駄目ですけど、明日なら……平日の10時から15時の間なら事前に予約をとれば面会できますよ!」


 俺の言葉に、彼女は顔は青ざめた。「あ……。ぁ……。」と声にならない悲鳴をあげている。


 「どうしたんです?美咲さん!早く病院に予約しに行きましょう。乗りかかった船ですし俺も同行しますよ!知らないんですか?集中治療室に入院する患者は生死の境!もしかしたら今生の別れにだってなりうる!精神論かもしれないですけど、美咲さんが来てくれるだけで、きっとご両親の生きる糧になるはずです!!」

 「ぇ……死……?で、でも……あぁ……あぁぁぁぁぁあ!!」


 ついに耐えきれなくなったのか。彼女は脇目も触れず泣き出した。


 「い、いや美咲さん……?ま、まだ亡くなったわけでは……ですが余談ならない状態です。急ぎ面会の予約をしましょう……?」

 「で、できない……できないよぉ!だって……だって仕事があるから!平日の10時から15時は……行けないの!!」

 「え?いやいや休みを取れば良いじゃないですか。今日みたいに。」

 「連休を取る場合は事前に面談をしないと駄目なの!それに……それに……理由が……面会するだけじゃあ……だけ……?どうして……?大事なことなのに、なんで……あぁぁぁ……。」


 彼女の常識と植え付けられた常識に矛盾が生まれ、一時的な錯乱状態に陥ったのか、堰を切ったかのように彼女はただ子供のように喚き散らす。席を立ち隣に座り彼女の肩を抱く。彼女はまるで子供のように俺の胸の中で泣き続けた。

 そんな彼女の耳元で俺は囁く。


 「だったら仕事辞めちゃえばいいじゃないですか。」


 それは彼女にとって悪魔の囁きのようだった。とてつもなく甘い誘惑。流されてしまいそうだった。


 「大体、美咲さんのご両親……結構なご高齢なんですよね?仮に一命を取り留めたとしても、しばらく介護生活待ってますけど……誰がするんです?」


 更に追い打ちをかけるように俺は耳元で残酷な現実を囁き続ける。


 「幸いなことに匿名希望者からの遺産でしばらくの生活は大丈夫、ついてましたよね。」


 突き飛ばされる。思いの外、力が強くてバランスを崩し転倒する。彼女は俺を睨んでいた。目は腫れていて、今にも組み付かんとばかりに握りこぶしに力を入れて。


 「性格の悪い男だね君は!私に……私にそうやって……選択肢を奪って……!」

 「ということはもう答えは出たんですね。」


 憎まれ役なら喜んで買う。怒りだって立派なきっかけだ。今は俺を言い訳に、彼女の洗脳を解くことの方が先なのだから。


 「それじゃあ、話を整理しましょうか美咲さん。まず話を聞く限り、美咲さんの環境は違法行為のオンパレードです。だから罪悪感なんて感じずに辞表を叩きつければ良いんですよ。あ、そこはそうじゃなくて……。」


 俺は一段落ついて彼女に辞表を書かせていた。最初は怒り、嫌悪感を見せていた彼女だったが、少しずつ現実を理解し、ぶつけるべき怒りも嫌悪も相手が違うことを悟り、渋々俺に対して愚痴をこぼしながらも辞表を書いている。


 「うぅ……思ったんだけどもとりあえず明日は無断欠勤して面会に行ったら駄目なの?早くお父さんとお母さんに顔を見せないと。」

 「駄目ですね。無断欠勤みたいな勤務態度が悪いと後々係争なると不利になるんですよ。だから……明日辞表を受理してもらってから面会の予約をしましょう。一日の辛抱です。」


 ため息をつきながら彼女は辞表を書き終えた。連絡先を交換して、その日はこれでお別れとなった。

 辞表を提出するのが一人だとつらいのなら俺も同行しようかと伝えたが彼女に断られた。これは自分のことだから、年下の男の子に頼るわけにはいかないということだ。

 正直信頼されていないというのもあるのだろう。仕方がないが、辞表を提出するだけでそんな大きな問題には普通の企業ではならない。

 まぁ念のため保険はかけておくが。美咲さんと別れた後に電話を取り出す。


 「ココネ、その……やってもらいたいことがあるんだが。」

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