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二人の誕生日


 投資家たちを集める会合の段取りと日取りが決まった。司はすぐに動いてくれて副業に執心な宗教法人に対して声をかけたという。予想以上に反響が大きく、神社ではなくホテルの会議室を借りることになった。投資の話に乗り気な数人を神社に呼んで軽く話をするつもりだったが、その規模は最早パーティーのようで、神社の負担が大きすぎるという判断だ。


 「あ、あわわ……ごめんね天理くん。こういう話を豊奉神社がするのは珍しいって何か噂がどんどん広がって、神社やお寺の人だけじゃなくて、彼らの知り合いの実業家の人とかも来ることになっちゃって……うぅ……会議室の使用料金高いなぁ……。」


 ホテルの料金表を見ながら司は狼狽えていた。できるだけ安くしたいのが本音だが、招く以上は失礼のない、彼らに見合った場所でなくてはならない。


 「当然さ、奉条さんは豊奉神社の価値を過小評価しがちだよ。都心一等地に広大な敷地を持つんだ。なのに今までろくに資産活用してなかったのが、突然の金儲けの話。皆、乗りたがるさ。いやぁ前々から思ってたけど奉条さん、中々の腹黒だねぇ。参加者は皆、そういう目当てだよ。」


 そんな様子をココネは意地悪な笑みを浮かべて眺めていた。手元にはいくつかのホテルのパンフレット。会場選びは彼女主導で行うようだった。俺も司も慣れていないので、その点は任せきりだ。


 「ち、違うの!ちゃんと説明したもの!知り合いが投資の話をしたいって……なのに、何でか話が飛躍していって……うぅ~、怒られるのかな……。」

 「まぁその辺は俺たちが何とかするよ。投資してくれる人がたくさん集まってくれるのは良いことだしね。ありがとう司。」

 「そ、そういってくれると私も頑張った甲斐があるかな……えへへ……。」


 頬を染めながら、司は微笑む。恐らくは不慣れながらも彼女は色々と各方面に連絡をしたのだろう。礼を言うのは当然だ。今までまるで関わらなかった相手に、慣れない話をしてもらったのだから。

 突然、腕を掴まれる。ココネだった。ホテルのカタログを俺に見せる。


 「奉条さん、ただ間違いはあるよ。節約は大事だけど、今回は派手にするのが一番さ。無論、ただ無駄に金を使うようなセンスの悪いのも駄目だ。問われるのは主催者の金の使い方。投資を決める際に、彼らがまず最初に見るのはそこさ。したがって……プランとしてはこの辺が妥当かな。」


 ホテルは誰もが知る一流ホテルだった。場所は会議室ではなく宴会場。更に食事提供のおまけ付き。ホテルシェフによるビュッフェスタイルだ。


 「場所もそうだがね、本物の金持ち連中は飲食に一番うるさいんだ。彼らが普段食べているものより不味いものを出してみろ、その時点で好感度はマイナスまっしぐらさ。その点、ここは信頼できる。ホテルの格式も十分。細かな打ち合わせもあとでする必要があるね。」

 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ藤原さん!む、無理無理!こんな大金うちは出せないから!」


 基本料金を見ると、とてつもない額だった。あまりの金額に司も物申したくなる気持ちは分かる。


 「何を言ってるんだ?奉条さんは支払う必要ないよ。言っただろ?これは私たちのためなんだから、支払いは私たちがするさ。な?そうだろ天理。」

 「そりゃあそうだろう。司にはこうして招待してもらっただけで十分だよ。その上、会場準備にかかる費用まで負担してもらうなんて虫が良すぎる。」

 「天理くん……でもでも、そんな大金支払えるの?」


 そういえば司には俺たちが大金を投資で稼いでいることを伝えていなかった。なるほど、それで先ほどから話が食い違っていたのだ。この際なので、俺たちは司に説明した。


 「そうなんだ……それなら甘えちゃおうかな。でも凄いなぁ、私と同じ年なのにまるで別世界の人みたい。」


 事実として、別世界というか未来の知識を使ってのことなので、その感想は的を射ている。もっともそんなことを司は知るよしもないので、純粋に尊敬の眼差しを俺に向けていた。嘘をついているようで申し訳ない気持ちになるが、本当のことを話したところで頭のおかしい人にしか見られないのが辛いところだった。


 パーティー当日。俺は控室にいた。学生ではあるが此度は投資を求める意味合いもある。本来ならば学生服でもドレスコードは問題ないのだが、ここは敢えて対等な立場という意味合いを込めてブランドジャケットをレンタルした。

 ノック音がする。「入ってもいいかい?」と声がした。ココネだ。俺は返事をしてドアを開けた。


 「お、似合ってるじゃないか。いやしかし久しぶりだね、こうしてドレス姿を披露するのも。どうだい?あの時とは立場が違う、そう考えるとまた見方が違うんじゃないか?」


 ココネはあの日、俺たちが初めて出会った福富の誕生パーティーで出会った時と同じ格好をしていた。淡いピンク色にシルクのドレス。左手の薬指には指輪が輝いている。あの時とまるで変わりないスラリとした体型を上品に引き立てていて、彼女の気品さを表していた。


 「確かに……あの時はお互い何も知らなかったものな。普段と違う格好だから新鮮さも感じるな。」

 「違う違う、そういうことじゃなくてだな……フィアンセとして!だよ。天理、少し自覚が足りないんじゃないか?投資家たちは私たちに投資するんだ。当然、どういう関係か知りたいものさ。ほらもう一度、フィアンセの私のドレス姿を見て、かけるべき言葉はそれかな?」

 「な、なるほど……相変わらず、あの時と変わらず似合ってると思うよ。可愛らしくて、婚約者として鼻が高い。」


 俺の答えに満足したのか、ココネは鼻を鳴らして胸を張り「当然だとも」と答える。


 「ん……袖にもちゃんと付けてるね。えらいえらい。しかし二つしか付けていないようだけど……。」


 ココネは俺の服装を眺めて、袖に注目する。このパーティーでココネからしつこく言われていたのだ。この間、プレゼントした青薔薇のカフスは絶対につけろと。俺としてはあの男を思い浮かべるのであまり気乗りはしないが、青薔薇のカフス自体に罪があるわけではないし、ココネの心情からしてもプレゼントしたものをつけてくれないのは確かに面白くないはずだ。

 だからこうして袖につけてきたのだが、ココネは不満げだった。


 「え?青薔薇のカフスのことだよな?両袖に二つ……間違ってるか?」

 「間違ってるね。まさか三つ目を失くしたなんてことは……。」


 その言葉には若干の怒りを感じた。勿論失くしてなどいない。俺は慌ててポケットに入れていた三つ目の青薔薇のカフスを見せる。


 「失くすわけないだろ!ほら、ちゃんと持ってるよ!」


 手のひらにのせたカフスを見せるとココネはそれを取ってジャケットの胸元にとりつけた。


 「えぇ……いいのかココネ?婚約者が間違った位置にカフスボタン付けてたら恥ずかしいだろ。」

 「良いんだよそれで。今日は私たちの誕生日でもあるんだ。二人でいよいよ財界に乗り込む、そんな記念日。私たちの関係をたくさんの財界連中に知らしめなくてはならないからね!」


 大げさな言い回しだ。単に芸能事務所を立ち上げるために投資を求めるだけだというのに。それともココネは本気でこれを足がかりに、大きな事業を計画しているのだろうか。正直なところ難しいと思う。あくまで配信業をしている先輩一人のためであって、大掛かりな事業を進めるなら、所属タレントを用意しなくてはならない。しかしそんな人材を用意する時間などない。

 そんな俺の懸念とは裏腹に、ココネは乗り気で気分よく、パーティー会場へと向かった。

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