逆行転生の真実
ココネにとって、理段は優しい兄だった。
父の言いつけを破り外で勝手なことをしても真っ先に庇ってくれるのは兄だったし、庭で遊んでいる時に嫌な虫を追い払ってくれるのも兄だった。勉強や紳士淑女の礼儀作法……そういったことも、兄は優しく教えてくれた。
「よく分からないけどココネは藤原家で特別だって大人は言うけどさ……ココネはココネの好きに生きなよ。特別だとか家とか関係ない。お兄ちゃんも応援するからさ!」
よく笑顔でココネにそう語っていた。そんな兄が、ココネにとっては誇りだったし、大好きだった。
「う、うぅ……と、父さん……!」
理段は頭を抱えていた。突如、頭の中に紛れ込む意味のわからない感情。まるで、澄み切った水に、墨を入れたような感覚。少しずつ、染まっていく。
「大丈夫か理段?誰かいないか!医者を呼べ!」
不人は理段のただならぬ様子を察し使用人を呼び出す。その声はココネの耳にも届いた。
「パパ?どうしたの?おいしゃさんが必要なの?」
ココネは執務室の前に駆けつける。閉じた扉越しに、心配そうに声をかけた。
理段はその声を聞いて、少しだけ正気を取り戻した。今も少しずつ侵食していく"ナニカ"。その正体を探らなければならない。
心落ち着かせて、この感情を、探り寄せる───。
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───────!!!!!
本能が、否定した。
"これ"はもう無理だ。
自分は助からない。
"これ"は……"こいつ"は……!!
「逃げろココネ!!父さんも!!"こいつ"は……化け物だッ!!殺されるぞ!!!!」
"乗っ取り"だ。
自分の中に得体のしれない"ナニカ"が生まれた。それは明らかに意思を持っていて、明らかに理段の自我を奪おうとしている。
理段の今までの、そしてこれからの未来全てが、奪われる。
それだけではない。自分の大切な家族が、自分ではなく、自分の姿をした"ナニカ"と接することになる。
想像に容易いことだった。もしも乗っ取られた自分に、皆が気づかず接する未来。そこにいる自分は自分ではなく、自分の姿をしているだけの別物。
許せないことだった。父が、妹が、家のみんなへの裏切り以外のなにものでもなかった。この"ナニカ"は、そんな身の毛もよだつ所業を、いともたやすく行われるえげつない行為を、犯そうとしている。
故にそれは人生の乗っ取り。パラサイト。そこに善性の余地など微塵もない。他者の人生を乗っ取る存在など、どう好意的に解釈しても"絶対悪"であること他にないのだ。
扉越しに聞こえた幼き妹の声。兄として、助けなくてはならない。それが兄にできる、"最後"の務めだと、確信した。
ペンを掴む。迷い一つなかった。そのペン先を自身の喉に向けて突き立てた。自分が死ねば、最悪は回避できる。
父の叫び声が聞こえた。
───ごめんなさい父さん。僕は、あなたに何一つ孝行できなかった。
涙すら零れる余韻もなく、勢いに任せ突き刺す……!
「あ、ぁ、あぁ…………。」
だが、既に手が動かない。直前で、まるで自分の意思に逆らうかのように手が勝手に動いている。
不気味だった。意識はあるのに、身体の主導権は"ナニカ"に囚われている。
理段の目から大粒の涙が溢れる。
それは何もかもが終わることの絶望。そして───
「理段!?突然どうしたんだそんなものを持って!?」
何も知らない不人は、息子を心配して駆けつける。
駄目なんだ、それは絶対に、してはならないんだ。
握りしめたペンに力をこめようとするがまるで言うことを聞かない。
恐ろしかった。自分が自分でない何者かに変貌していくのが。自分が溶けてなくなってしまい、別の何かに成り果てるのがとても怖かった。
自己の喪失。死よりも恐ろしい恐怖。何よりも許せないのが、"コレ"は父や娘を傷つける存在だと、確信できるナニカがあったからだ。
それは、奇しくも藤原家の神秘を体現している藤原理段だからこそ、わかる直感だった。
「理段!しっかりしろ!!」
不人は明らかに様子のおかしい理段の両肩を掴み声をかける。
「あぁ……"久しぶり"ですね、父さん。」
突然大人しくなった理段は、不人を見てそう答える。
───誰だこいつは。
不人の目に映るのは間違いなく"息子"の理段のはずである。その姿は間違いないし、つい先ほどまで話していた理段は紛れもないものだった。
だが、今は違う。同じ姿をしているのに、何かが違う。思わず距離をとる。それと同時に、理段が手に持っていたペンが振り下ろされていた。
もしも一歩引くのが遅ければ、そのペンで首を切断されていただろう。
「お前は……誰だ……?」
「誰?ダレ?ダレダレ?ダレとはどういう意味ですか?私はあなたの愛息子の……藤原理段じゃないですか。」
"理段だったモノ"の口角が歪に綻ぶ。まるで、割れた陶器のようだった。





