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全ての黒幕

 「なによそれ……宗田先生の話を聞いてなかったの?馬鹿じゃないの?」

 「私からも知りたいです。天理さん。何か考えがあるんですか?」


 宗田先生は俺の言葉に興味を示したのか身を乗り出す。先生は本当に善人だ。可能であるならば依頼人が不幸になることは避けたい。そのためならばたかが学生の俺の意見にも耳を傾ける。だから、俺はそんな先生だからこそ、何度も怒られはしたけれども、最後まで嫌いにはなれなかった。


 「神道政策連合を使います。」

 「神道政策連合……あっ。」


 やはり宗田先生は優れた弁護士だ。俺の考えをたった一言で理解したようだった。


 「いや……しかし、懸念があります。奉条さんの神社は大丈夫なのですか?」

 「はい、彼女には既に確認しています。豊奉神社は由緒正しい神社で品格も高い。歴史も深く、象徴としては十分です。」

 「素晴らしい。既に想定していたということですか。」


 宗田先生は興奮した様子で次々と俺に質問してくる。このパターンはどうするか、手続きはどうするべきか、アプローチはどうするのか……既に法律相談という枠組みは超えていて、会議のようなやり取りを交わしていた。

 そんな俺たちの会話に司もココネもまるでついて来れなかった。意味の分からない言葉が飛び交い、先程まで冷静沈着さを見せた宗田先生が喜々として話をしているのに、呆気にとられていた。


 「ちょっと良いかな天理?フィアンセを無視して楽しそうに目の前で話をするのは流石に気分が良くないんだが説明してくれないか?なぁ奉条さん、こういう男は許せないだろ?」


 流石に業を煮やしたのか、ヒートアップする俺たちの会話に割り込むようにココネが声を上げた。


 「え、あ、はい。いや、そうじゃなくて。あ、あの……ど、どういうことなんですか……?先程は嫌がらせを受けるとか……天理くんの話はどういうことなんですか……?」


 恐る恐る司は俺たちに質問をする。先程の様子とはうってかわりしおらしい態度を見せる。


 「あ、ああ、すいません。私としたことが……奉条さん。私はあなたに謝らなくてはなりません。確かに嫌がらせを受けるのは事実としてあるのですが……その対抗策まで本気で考えていなかった。いや……言い訳です。思いつかなかった。」


 そして宗田先生は俺の企みを話についていけない二人に説明した。


 司は唖然としていた。そんなことがあるのか?と。確かに古い神社で歴史は深いが……先程の説明にあった人たちは見たことがない。しかし、宗田先生と天理くんが真剣に話し合っているのを見ると、ファンタジーではなく本当のことなのだと思ってしまう。


 「しかしこう考えると不思議ですね。相続の遺産整理は弁護士が関与するようなものですが……宗教法人が絡んでいるのなら尚更です。奉条さん、ご家庭では既に誰かに遺産整理を頼んでいるのでは?」

 「そういえば……お父さんやお母さんは先生がって言ってました。あれが弁護士のことなんですか?」


 初耳だった。いや確かに宗田先生の言うとおり遺産整理、宗教法人が絡む話に弁護士が出てこないのはおかしい。巨額の債務整理が絡むのならなおさらで、弁護士でなくとも司法書士に任せないと話にならない。宗教法人ならその辺りの関係は知っているに決まっているのに……どうして今までこんな話が出なかったのか。

 考えられるのは……弁護士がポンコツだという点だろうか。


 「弁護士の名前は分かりますか?正直な話を申し上げますと、相続のことについてあまりにも遺族に対して説明不足だと感じました。もし差し支えなければ私から断りを入れて弁護を代わりたいのですが。」

 「えっと……確か……最近、神社によく出入りしていた先生……じゃなくて弁護士さんが変わったって聞きました。確か名前は……そう九条!九条先生だって呼んでました!」


 ───なるほど。

 俺は全てを察した。そして同時に強い怒りが湧いた。司は罠にはめられたのは確実だ。狙いは司ではない。それはおまけ。本当の狙いは豊奉神社の土地。そう考えると、福富がそもそも司に対して言っていた「一年間だけ何でも言うことを聞けば借金をなしにする」という言葉も眉唾だった。下衆な想像が湧いて反吐が出る。あの男は、この頃からこんなことを平然と……!


 「おいおい、どうしたんだ天理?随分と私好みな表情浮かべてるじゃないか。」


 表情に出ていたようだ。ココネは俺の態度に敏感に反応してからかうように話しかける。俺は「悪い」と軽く謝り話を整理する。

 九条の目的は都心一等地にある豊奉神社の土地。それを司の祖父に抱えさせた莫大な借金を理由に奪おうとしていた。だがミスがあった。借金をさせたのは司の祖父個人で宗教法人相手にではないということ。もしもこれが宗教法人に対する借金で、担保として土地を設定していた場合、抵当権が発生し、宗教法人法の保護から外れ、売却されていた。

 そこが救いだった。本当に間一髪の救いだったのだ。


 「九条先生ですか……なるほど。少し待って下さい。」


 宗田先生は九条の名前を聞くとパソコンを操作し始める。それはすぐに終わり、モニターを俺たちに見せた。モニターには九条の顔と名前が載っていた。


 「あ!そうですこの人です!でもどうして先生、この人の顔と名前が出てるんですか?弁護士ってそういう横の繋がりもあるんです?」


 純粋に司は宗田先生に尋ねる。自分が罠にはめられていたことに気がつかず、ただ純な瞳を向ける。


 「良いですか、落ち着いて聞いて下さい。」


 宗田先生は苦々しい表情を浮かべ、静かに口を開いた。


 「これは福富グループのホームページです。彼は福富グループの顧問弁護士です。」


 全ての企てが明るみに出た時だった。

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