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落胤の復讐鬼

 「蒼月くんと合流をしようか。」


 福富無限はそう提案した。先程の男の叫び声。天理が孤立していることが推察できたのだ。


 「父さん、蒼月たちはもう捕まったんじゃないか?他ならぬ父さんのせいで。」

 「なに?どういうことだ?無限さん、あんた蒼月たちに何をした?」


 猛は知らない。蒼月たちが囮に使われたことを。ただシロクは見ていたのだ。スマホを操作して、わざわざ敵に位置を知らせるような手引きをしていたことに。


 「クロスボウを正確に狙うには敵の位置を知る必要があった。仕方のないことだろう?そして今の敵の言葉、蒼月くんは孤立したのだ。恐らく命からがら敵から逃げ出した……といったところかね。」


 白々しい言い方だった。だが、事実として蒼月天理が孤立しているのは想像に容易い。猛は無限の言うことに従う他無かった。


 「父さん、その前にちょっといいですか。」


 深刻な表情を浮かべてシロクが無限に話しかける。


 「なんだシロク。異論があるのか。」


 珍しく反抗的な態度を見せた息子に対して、無限は額に皺を浮かべ問いかける。


 「トイレに行きたいです。ずっと拘束されててさ……行けなかったじゃないですか。それに緊張して。」

 「……生理現象だから仕方ない。だが音は可能な限り立てるなよ。」


 ため息をつく。つくづく自分の息子の出来の悪さに。無限は完全にシロクに対して失望していた。ただあんなでもマシな方。学校の成績は良いし、運動神経も高い。精神の問題なのだが、育て方を間違えた。と、無限は自分で自分を後悔した。


 「こんな状況でトイレって……流石、福富グループの御曹司は大物だなぁ……。」


 猛は猛で完全にシロクの行動を勘違いしていた。無限は軽く目眩がした。蒼月天理があの藤原の娘の婚約者でなければ、やはり連れて来るのは彼の方が良かったと。ただ、使える人間だからこそ藤原の娘が交配相手に選んだと思うと、仕方のないことだと……無限は思った。


 「ともかく、早いところ蒼月くんと合流を……ちっ。」


 無限は猛に話すのを中断し舌打ちをする。両手を上にあげた。突然の謎な行動に猛はキョトンとしている。


 「猛くん、君も両手をあげろ。そしてゆっくりと後ろを振り向くのだ。」


 指示通り猛はゆっくりと両手をあげて後ろを振り向いた。


 「う、うわっ!!」


 そこには男がいた。知らない男だ。そして手には銃を持っている。ただ聞いた話と違う。蒼月たちの話だと軍人のような男だと聞いたが……この男はヨレヨレの使い古した服に拳銃を片手に持っているだけ。

 だが自分たちを睨みつけている。余計なことをすれば今にも発砲しそうなくらい、真に迫った表情を浮かべている。


 「二郎……貴様も噛んでいたのか。愚か者めが、恩義を忘れたか。」

 「うる……さい……うるさい!い、いいから……黙って歩け!」


 無限は銃を持った男を二郎と呼んだ。猛はどういうことなのか分からなかった。知った顔、ということだろうか。ただ関係が険悪なのは明白で、どう言えば良いのか分からなかった。


 「殺せ、猛くん!そいつは凶悪犯だ!我々を殺しに来た『オロチ』の一人、殺人鬼だ!」


 無限は叫ぶ。事実として猛は二郎と呼ばれた男を倒すことは造作もないことだった。何故なら、これまで多くの六道会、告死天使達と戦ってきて、分かっているからだ。手練れであるかどうか、その違いが。

 猛は改めて二郎を見る。小刻みに震えていて、重心は落ち着かない。腰に力も入っていなくて、まるで、まるで怯えた子羊のようだった。彼が『オロチ』と呼ばれる一流暗殺者には見えなかった。本当にここで無限の指示に従うのが正しいのか、疑問だったのだ。


 「い、いや……それは無理だよ。彼は銃を持ってる。大人しく従う……さ。」

 「な……!」


 故に猛は嘘をついた。勝てぬ相手だと偽りの降伏宣言をしたのだ。

 観念した無限は猛とともに二郎の指示に従い歩き始める。二人の後ろで二郎は拳銃を突きつけながら、どこかに連絡を取っていた。無線機のようなものを使っている。『了解』という返答が聞こえた。ココネたちがいる中央広場へと。


 「お疲れだったな二郎。クク、まさか無限が先に捕まるとはな。」


 中央広場では軍服の男が待っていた。二郎が連絡を取っていた相手が彼なのは明白。この一連の惨劇の犯人は最低でも二人いたということだ。

 ミカの悪い予感は的中した。二郎の姿を見たミカは思わず舌打ちをする。状況が極めてまずいということに、いよいよ焦燥感が溢れ出す。


 「あいつは……どこかで見たような……。」


 ココネは二郎の姿を見てデジャブを感じる。だが思い出せない。ものすごく記憶に留める程度の人間でもないことは記憶している。それこそ、クラスメイトどころか、通行人と同じくらい希薄なもの。ただ……見かけた場所が重要な気がする。そんな気がしたのだ。


 「貴様は……やはりそうか。貴様、愛夢あいむだな。兄弟揃って、愚かなことを。」

 「そうだ無限。息子の顔を忘れてないなんて意外だな。血も涙もない男だと思っていた。」


 ───兄弟。福富愛夢と福富二郎。それが此度の襲撃者の名前。『オロチ』の正体。その会話を聞いて、ココネはようやく出かかっていた記憶が蘇る。


 「そうだ……二郎とかいったか、キミは……福富屋敷で働いていた使用人じゃないか。」


 天理と一緒に福富屋敷に来たとき、他の使用人に蔑ろにされていた男。それが彼だ。福富二郎だ。


 「兄弟ということは彼も無限の実子なのか?なぜ、息子を使用人に……?」

 「それは……」

 「それは、俺たちの存在を隠したかったからだ。俺たちは無限の落胤らくいん。まさか実の息子を使用人として蔑ろにするなど、誰もが思わないだろう?これは復讐だ。俺たちの人生への。」


 愛夢は忌々しげにそう答える。落胤、落とし子とも呼ぶ。望まれぬ子どもたち。それが『オロチ』の正体。いいや、そもそも暗殺者など存在しなかった。いるのは、ただ憎悪に燃えた、復讐鬼。


 「馬鹿なことを言うな。儂はお前らも愛している。二郎を使い人として雇ったのは、周りの連中に悟られぬため。財界の魑魅魍魎どもに利用されぬように保護していたのだ。それに愛夢、貴様とてそうだ。養育費を送っていたはずだろう。」

 「愛している……だと?囀るなよ無限……すぐにでも殺してやりたいが、チャンスをやろう。今から尋ねる質問に……答えろ。母から聞いた、母と貴様の出会いと別れについてだ。」


 愛夢は銃口を向けながら語りだす。自分の出生を。

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