表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/313

毒の矢

 ココネ達は拘束されて中央広場に連れてこられた。周囲一体が見えるここは監視するのに最適な場所だからだろう。

 男は突き刺さった矢を抜き取り、途中ドラッグストアから盗った包帯を足に巻き付けていた。その時、矢文の存在に気がつき、矢文を広げた。


 『我々は降伏する。要求を教えてほしい。もしも我々の命が欲しいのならば喜んで差し出そう。ただし天理の無事が条件だ。天理がいなければ交渉の意味はない。福富無限』


 それは、福富無限直筆のメッセージだった。奇妙な内容だった。男は知っていた。福富無限の家族構成。ここにはいないが、福富家には小学生の妹がいることも。ただ、福富グループの未来の為には、跡取りは福富シロクが必要だ。だと言うのにこの矢文は、無限はおろか、シロクの命すら差し出すという内容。天理という人物さえ生きていればそれでいいという内容。


 「おい、天理とは誰だ。九条……といったか。答えろ。」


 男は九条に銃口を向けて尋ねる。黙秘は許されない様子だった。


 「天理とは、蒼月天理くんのことですか。私が知っているのはそこの藤原心音さんの婚約者で、彼女と同じ高校生。福富グループとは過去一悶着もありました。」

 「なるほど、ではお前は蒼月天理という男に対してどういう印象を持っている?」

 「印象ですか……優秀な男だと思っています。彼は何の背景もなしにゼロから資産を積み重ね、会社を立ち上げて、今は福富グループにも噛み付いています。私たちの競合相手ですが、敬意を抱いていますし、同時に脅威と見ています。」

 「福富連中に噛みつくとは……どういうことだ?」

 「要約すると総帥の息子、シロク様が由緒正しき神社に手を出そうとしたのが発端です。蒼月くんの手によりシロク様の計画は崩れ、総帥はその尻拭いをしました。そこから芸能界にも進出し、本格的に福富グループの芸能部門と競合するようになりました。」


 九条の説明を聞いて男は銃口を下ろす。心なしか肩が震えているような気がした。


 「そいつは今、どこにいる。婚約者はここにいる。何をしているんだ。逃げているのか?婚約者を置いて?捨てられたのか、お前は。道理だな、そういう奴だろう。我が身かわいさに愛した女を見捨てる。屑野郎だ。」


 矢継ぎ早にココネに視線を向けて男は話しかけた。まるで恨み節。天理のことも知らないのに、酷く感情的だった。


 「知らないね。ただ見捨てる?それはありえない。私は天理を信じている。必ず助けに来てくれる。哀れだね、他人を信用したことがないからそんな発想になるのかい?」


 ココネの挑発的な物言い。それにカチンと来たのか男は手に持ったショットガンでココネの頬を殴りつけた。縛られたココネは無抵抗に転がる。口から血が流れた。


 「大層な信頼だ。ならきっと、お前は人質としての価値があるんだろうな。蒼月天理、決めたぞ。絶対に殺す。ただでは殺さない。婚約者のお前の前で、福富無限の前で、惨たらしく殺してやる。何もかも失い、絶望に堕ちた表情に変わるまで。」


 それは明白な憎悪だった。なぜ天理にそこまで執着するのかココネは理解できなかった。自分の知らない天理の過去があるのかとココネは推察したが何か違う。

 当初、男は福富家でなければ殺さないという態度をとっていたのに、福富家と関係のない天理に対して何故か殺意を露わにしている。きっかけはあの手紙。矢文を見て、男の態度は急変した。

 ───無限が何かをした。

 ココネはそう結論づけた。あの男はこの緊迫した事態を利用して何かを企んでいる。少なくとも、天理を殺害しようとしているのは明白だと。ココネはそう結論づけたのだ。

 ただ、手紙の内容が分からない。男の凶行の動機も分からない今、交渉の余地はない。それが悔しくて、ココネは下唇を噛んだ。


 「蒼月天理!!どこにいるか分からんが、愛しの婚約者はここにいるぞ!出てこないようなら、少しずつ拷問を始める!!」


 男は叫ぶ。拡声器はない。故に蒼月の居場所が分からない彼は、叫びながらフロアを徘徊するしかなかった。


 「……行っちゃったよ。俺が言うのも何だけど人質を放っといて良いのか?」

 「まぁ助けに来たところでここは位置的に丸見えです。すぐにバレてショットガンで蜂の巣。それに彼の目的はどうやら福富家と蒼月くんのようなので、大した問題ではないのでしょう。せいぜい邪魔にならないように、こうして縛り上げて、監視しやすいところに置いておきたかったのでは。」


 事実としてミカと九条に対して男はほとんど関心がないようだった。関心を見せたのは福富家と蒼月天理、そしてその婚約者であるココネ。

 単独犯である彼は人質の傍にずっといるわけにはいかない。故にこうして徘徊し、本命を見つけ出さなくてはならないのだ。計画が杜撰……という印象もあった。ホテルをジャックする周到さがありながら、多人数を相手にし、皆殺しにするつもりもなく、こうして人質にする。非効率的だ。


 「なんかよ……素人くせぇんだよなぁ……いや、あるいは……。」


 現況だけを分析すると杜撰な計画。だがそれまでの状況は極めて計画的。そこから導き出される答えは一つ───。


 「単独犯じゃねぇな、これ……多分このフロアに……別の敵が潜んでる。あ、やべぇな俺たち。詰んでるかもしれねぇぞ。」


 そんな最悪の想定が、頭によぎった───。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価、感想、レビューなどを頂けると作者の私は大変うれしいです。
更新報告用Twitterアカウントです。たまに作品の内容についても呟きます。
https://twitter.com/WHITEMoca_2
過去作品(完結済み)
追放令嬢は王の道を行く
メンヘラ転生
未来の記憶と謎のチートスキル


小説家になろう 勝手にランキング
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ