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殺人鬼の狙い

 ───吐息一つ立てるのにも緊張するような、張り詰めた空気だった。

 俺たちは"敵"……武装した男から身を隠していた。福富たちがクロスボウを手に入れるその時まで。ただ疑問があった。クロスボウを入手するのはいいが、どうやって男を狙い撃つかだ。クロスボウを使用すること自体に訓練はいらないが、狙いをつけるのはやはり難しそうではある。確実に当てるためにはある程度近寄る必要があるのだが、男の装備を見ると厳しい。


 カツン、カツン───。


 何かいい方法はないか……思案していると足音がした。男の足音だ。酷くホテルに響き渡る足音。俺たちの全神経が集中しているからなのか、それとも装備の都合なのか、それは分からない。心臓が高鳴る。少しでも音を立てると奴はやってくる。緊張の瞬間だった。

 ついに敵はすぐ近くまで近寄ってきた。心臓が止まりそうだった。ひたすら物になる気持ちでいた。どうか……気が付かないでくれ……あっちにいってくれ……と神に祈る。

 そんな思いが通じたのか足音は離れていく。助かった───そう思った瞬間だった。


 ピコン!ピコン!緊急通報です!ピコン!ピコン!緊急通報です!


 突然、大きな警報音が鳴り響く。男はこちらに即座に振り向いた。そして駆け出す!一体何が起きたのか、ふと見回すと九条がスマホを操作していた。九条のスマホから鳴り響いたのだ!


 「あの狸……!よもやこのようなことを……!」


 九条は珍しく苛立っていた。奴もまた知らなかったのだ。突然鳴り響く警告音に。

 緊急通報サービス。スマホに搭載されている機能の一つであり、緊急アラートが発令した際に所有者に警報を鳴らしてくれるサービスである。マナーモードであろうとそれは関係なく、最大音量で鳴り響くもの。

 福富無限は、九条のスマホに対して緊急通報を送ったのだ。その目的は明白。男に見つけてもらうためだ。

 銃を構え音がした方向へと確実に九条へと男は向かっていた。あと少し……その瞬間だった。


 「ぐっ……!」


 ヒュンと風を切る音がした。それと同時に男が膝をつく。クロスボウの矢が突き刺さったのだ。福富無限はこれを狙っていた。俺たちを囮にすること。そして男の位置を明らかにし、確実にクロスボウを命中させること。

 その目論見は完全に上手くいき、男は振り返るが福富たちは既に闇に消えていて、どこにいるか見当もつかなかった。


 「なるほど……流石は福富無限。黒い男だ。仲間を犠牲にしてでも助かりたいという精神、その薄汚い魂には、本当に反吐が出る。」


 所詮はクロスボウは模造品。それも足に突き刺さっただけでは致命傷には至らない。俺たちを探すことを止めようとせず、確実に俺たちが潜んでいる部屋の一角へとやってこようとしていた。


 「出てこい。俺の目的は福富家だ。投降しなければ、グレネードをこの部屋で爆破させる。」


 それは死刑宣告に近いものだった。グレネードの威力がどのくらいかは知らない。だがその爆破範囲は確実にこの部屋全体を網羅しているだろう。だが素直に出たところで殺される可能性もある……そんな究極の二択を迫られた中で、俺の身体をココネは掴んだ。

 そして、あろうことか、ココネは俺を更に奥、通気口へと押し込む。そして、両手をあげて、立ち上がった。


 「投降する。私の名前は藤原心音。福富家とは関係ない。今、ここには私を含めて三人潜んでる。」


 ココネのその言葉を受けて、九条もミカもその意図を理解したのか、両手をあげて立ち上がった。


 「女子高生に弁護士、それに外国人か……確かに俺の知っている福富家とは違う。良いだろう、これを使って自分の身体を縛れ。」


 男はココネらにロープを投げる。どうやらなりふり構わず殺して回る殺人狂ではないようだ。狙いは福富家。ココネは敢えて自分が出てくることで投降したことを印象づけさせ、更に他に潜んでいるメンバーがいることも教えた。ただしその人数は偽り。

 理由は明白だった。ココネは女子高生、ミカは外国人、九条は弁護士。どれも一目瞭然であり、福富家の人間でないことを証明できる。世間で知られている福富家とは福富無限とその妻、そして息子であるシロクと小学生になる娘だけだ。

 つまり、シロクと同世代である俺は間違って殺される可能性が高い。故にココネは身を挺して賭けに出たのだ。俺が助かるように。

 そしてハッタリは成功した。男は完全に俺の存在など気づきもせず、ココネたちを縛り上げて、ココネたちを連れて、ここから離れていった。

 どうすれば良い?男の目的は福富家。ならばココネたちに危害は与えられない……はずだ。だが、それならば拘束して連れて行く必要はないのではないだろうか。何か考えがある。嫌な予感がした。ただ捕まったココネたちを助けるには……奴を倒すしかない。


 ───無限たちは走っていた。クロスボウで男の足を貫いた今、機動力は確実に上。後は逃げ回れば勝機があると見たのだ。

 だが無限の目的はそれだけではない。このどさくさに紛れ藤原心音と蒼月天理の殺害。そしてその罪を全て"奴"に擦り付ける。そのためには逃げ回るだけではいけない。殺す動機を"奴"に与えなくてはならなかった


 「父さん……今のは……どういう意味なんですか?」


 シロクは無限のやっていることが理解できなかった。クロスボウを使用した際に、無限は矢に文書を結びつけた。矢文である。その内容がシロクにとってはまるで理解できなかったのだ。


 「毒だ。奴の足を射抜いた今、儂らは逃げ回れば良い。後は藤原心音と蒼月天理を殺す動機を、奴に与えれば良い。大方想像がつく。きっと今頃、儂らよりも蒼月に対する殺意で満ち溢れているだろうよ。フィアンセが殺されたとなれば、藤原心音も逆上し、考えなしに奴に突っかかるだろう。藤原とは、そういう生き物だ。大事な生殖相手が駄目にされたときの怒りは相当なものだ。しかし武器の差はでかい。ショットガンに頭を吹き飛ばされて終わりだ。」


 無限はそう言って嗤い出した。それが酷く不気味で、シロクは実の父親でありながら恐ろしさを感じた。

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