月の魔物
流星の武器を理解した彼らは即座に散開する。一撃でも喰らえば周囲の肉ごと弾け飛ぶ強烈な一撃。だがタイムラグはある。次の一発が勝負の決まり時だと、彼らはそう判断したのだ。
「言ったじゃろうがぁ、最初から本気だと。」
彼らの目論見は容易く打ち砕かれる。流星の左手にはもう一つ、別の銃が握られていた。
サンダルフォンと同様に巨大な銃だがこちらはオートマチック拳銃。リボルバーと呼ばれるものはなく、マガジン式のものだった。外見上の特徴はそれほど見られない。
二挺拳銃。それが流星の戦闘スタイルだとしても、最悪二人やられるだけ。数の利があるこちらに負けはないと、告死天使たちは流星へと突撃を続けた。
同時に鳴り響く銃声。先程のような落雷のような音ではない。嵐を切り裂くような連続の銃声。
───クラスター爆弾と呼ばれるものがある。親子爆弾とも呼ばれたその兵器は爆撃機より投下される爆撃兵器である。投下時は大型のケースだが、目標に向けて落下する際にケースが開き、中に収められた小型の爆弾が目標に向けて発射されるものだ。
現在ではこの小型爆弾は更に進歩を遂げて、爆弾それぞれが電子制御され目標に自動追尾するようコントロールされている。言うならば超小型ミサイルを大量に投下するようなもの。
流星が左手に持った拳銃から射出された弾丸。その数は24発。リボルバーと違いオートマチックはフルオートと呼ばれる機構が存在し、連射することが可能なのだ。
そしてその弾丸は、サンダルフォンとは大きく異なる。先述の小型クラスター爆弾を内包したようなシステムをしており、拳銃というよりは、小型ミサイル発射装置に近い。
その銃の名をメタトロン。『天』に与えられた認証武装はサンダルフォンとメタトロンの二挺拳銃であるのだ。
周囲を覆う閃光。メタトロンは自動追尾エクスプロード弾と呼ばれる他、曳光弾の機能も有している。マグネシウムを弾丸に調合することで、弾丸の軌道上に閃光を描く。着弾した瞬間に爆発と同時に閃光。本来それは、メタトロンにより敵の位置を把握し、サンダルフォンでトドメを刺すという運用が想定されていた。
だが此度は、別の作用が働く。
告死天使たちが突如目を抑えだした。そう、彼らは暗視スコープを身につけている。暗視スコープとは光を増幅させ夜間の視野を確保するもの。即ち、そんな状態でメタトロンの閃光を目の当たりにした場合……一時的な失明状態に至るのだ。
───そしてそれは、本気の流星極道を前にして、致命的な隙だった。
サンダルフォンの銃声が鳴り響く。悲鳴一つあげることすらできず、告死天使たちは絶命した。蓋を開けてみれば、流星による圧勝だった。
「わしは『天』じゃない。相応しくないんじゃ。」
流星はそう呟いた。誰に言うわけでもなく、自分に言い聞かせるように。
パチパチパチ……。
乾いた拍手が聞こえた。森の奥からもう一人男が出てきた。流星は少し戸惑いながらも銃を構える。
───気配をまるで感じなかった。間違いなく告死天使よりも格上の相手。
そう考えたのだ。
「素晴らしい、流石は『天』の流星。告死天使など相手にならないということですか。」
見覚えのない男性だった。夜の嵐の中ということもあってか、よく顔は見えないが、流星の知らない男だ。
「誰か知らんが消えろ。邪魔すんなや、わしはこのアホみたいなことを止めにゃならんけぇ。」
「それはできませんね。あなたがいては良くないことしか起きない。」
「だったら死ねや。」
男の返答を待たずして、流星はメタトロンをフルオートで発射する。すでにマガジンは交換済み。24発の光弾が男へと向かっていく。
だがその一瞬で、男は森の中へと逃げ込んだ。弾丸は見当違いの方向へ向かい樹木に当たった。
「自動追尾弾。生体反応は二酸化炭素濃度か熱源辺りですかね?種がバレれば大したことではない。」
流星は舌打ちを打った。正解だったからだ。熱源反応と二酸化炭素反応でメタトロンの弾丸は向かっていく。故に今回のように森の中に逃げられると機能しない。
木々は呼吸をしている。夜間は微量ではあるが二酸化炭素を放出しているのだ。それは人間が呼吸で排出される二酸化炭素と比べれば微々たるものだが、呼吸を止めれば良いだけだ。
だが……流星はサンダルフォンを男へと向けた。迷わず引き金を引くと、銃声は落雷のように響き渡る。弾丸は森の木々を貫き、粉砕する。木々が崩れ落ちる。メタトロンが通用しないのならばサンダルフォンを効果的に使うまで。極めて冷静だった。
崩れ落ちた木々の中、男の姿が露わになる。だが男は狼狽えた様子を微塵も見せず、ただ夜空を眺めていた。
「あぁ見てください。木々が倒れ空がよく見える……今夜は月が綺麗ですね。」
気がつけば嵐は晴れていた。周囲はまだ強い嵐が吹き荒れているのに何故かここだけ。台風の目のようなものだろうと、流星は思った。空には確かに美しい星の煌めきと月の輝きがあった。そして月明かりの照らされ男の姿が露わとなる。
不思議な男だった。男の目は深い深い海の底のように昏く、全てを見通しているかのような目だった。例えるなら菩薩と対峙したような感覚。
だが奴は菩薩でも何でも無い。一瞬解けかけた緊張感を張り詰める。流星は知っていた。それは男の胸元を彩る刺繍。青薔薇をデザインした刺繍だった。
『青薔薇を基調としたデザインの装飾品を身につけた男と対峙したときは逃げろ。お前では勝てない。アレは俺でなくては殺せない。』
神宮寺の言葉だった。流星はかつて、神宮寺からそう教えられていた。「蒼月くんのことじゃないぞ?」と後に補足したが、彼がその話をするときはいつにも増して真剣だった。
深くは答えてくれない。だが神宮寺の言葉は真に迫っていたのだ。だからだろう、男の持つ奇妙な雰囲気に呑み込まれず、正気でいられたのは。
───間違いない。兄貴が警告していた男は、この男だ。ここは命の瀬戸際。しかし……。
認証武装に弾丸を装填する。神宮寺の言葉を信じないわけではない。だが、引けぬ時がある。青木の暴走を止めるために、この場を引き下がるわけにはいかなかった。
「ここから先には残念ながら行けません。なにせ今は、大切な私の"トモダチ"の晴れ舞台。無粋ではないですか。」
そう言って男は武器を取り出す。何の変哲もないナイフだった。月明かりを反射して鈍く輝く。二挺拳銃に対してナイフ一本、あまりにも無謀な抵抗。だが流星の目に油断は一欠片もない。
流星はメタトロンとサンダルフォンを構え、男に向けてその銃弾を放った。落雷のような音と、削岩機のような音が、響き渡った───。





