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リゾートアイランド

 ───バスに乗り込んでから数分。バスの中ではクラスメイトたちが島の話題で盛り上がっている。何といっても彼らにとって一番の目玉は愛華のライブだ。

 愛華は国民的アイドルということもあってか、折角同じタイミングで島に行くのに、そのライブが見れないのは残酷すぎると、生徒たちは学校に抗議をしたのだ。生徒会まで動き出す始末で、学校は異例の措置としてライブが開催される時間帯が露骨に自由時間とされていた。

 本来愛華のライブチケットは抽選で低確率で入手できるようなものなのだが、此度は島である。島で開催される以上、そもそも船の問題もあって来れる人数に上限があり、転売対策もあってかチケットの購入は島内ホテル宿泊者に限られるという条件付きであるため、俺たちは容易に確保することが可能だった。


 「というかほとんど自由時間じゃないか。課外学習とは一体……。」


 結果として課外学習の大半が自由時間となったのだ。一応二日目に申し訳ない程度に島内の史料館やら遺跡やらを巡るらしい。


 「中学の修学旅行とか遊園地なかったっスかぁ?そんなのと似たようなもんじゃないっスかねぇ?あ、ガムいる?」


 隣の席に座っている澤田は意外にも他の生徒と絡まないで、ガムを膨らましながらイヤホンで音楽を聞いていた。お言葉に甘えて俺は一つ頂戴する。


 「乗り物弱いんスよ自分。あおっちが窓際に席を代わってくれてマジで感謝っスよ。ガムもほら、少しは酔いが紛れるっしょ?」


 貰ったガムを口にするとミントのような爽やかな香りが広がる。確かに程よい刺激で乗り物酔いの予防になりそうだ。

 窓の外を澤田は眺めていたが、突然真っ暗になる。トンネルに入ったのだ。こうなってしまっては窓から見える景色を見ながら気を紛らすこともできず、ぐったりと目を瞑る。本当に乗り物に弱いようだった。

 しばらく特徴のない景色が続き退屈させていたが、突如元から賑やかだったバス内の空気が更に騒がしくなる。


 「おい見ろ!目の前、洪水が起きてるぞ!」「突然大雨が降り始めたってことかよ!おいおいマジかよ愛華ちゃんのライブ野外だろ!?」「海水浴楽しみにしてたのにそんなぁ……。」


 俺は席を立ち正面を見た。クラスメイトが騒いでいるとおり、トンネルの出口は水浸しだった。というより……水のカーテンだ。滝ができている!


 「島の天気は変わりやすいっていうけど、こんな大雨だなんてついてないな……。」


 俺もまたクラスメイトと同じように酷く落胆した。折角のリゾート地が雨で台無しだ。これほどの大雨ともなると洪水警報が出てもおかしくはない。

 だが俺たちの不安を無視するかのようにバスは速度を緩めず、そのままトンネルの出口に出来た滝に突っ込んだ。水しぶきが窓にかかり、そして突き抜ける。その先には……晴れ晴れとした景色が広がっていた。そして楽園を彷彿させるような南国風の植物の数々と、いかにもそれらしいモニュメント。まるで異世界に紛れ込んだかのようだった。

 振り向くとトンネルが見える。人工の滝だったのだ。水のカーテンは非日常の世界への入り口を演出するもの。

 そしてバスは坂道を登り始める。丘のようになっていて、周囲を取り囲む南国風の植物よりも高い位置まで来た時、俺は息を呑んだ。周囲が青々と広がる海で、少し遠くに七反島ななたんしまが見える。一面に広がる美しい景色に思わず心奪われた。ここは離島だ。ホテルは離島に立てられたもので、トンネルは海底トンネルだったのだ!


 ───あおき島の宿、ホテルグランリゾート福富は福富グループが七反島ななたんしま近くの離島、七小島ななこしまに建てた大型リゾートホテルである。

 島まるごとリゾート地に改修したそのホテルは、30階建ての大型宿泊施設として機能している。その他、結婚式場にチャペル、商業施設も多数入っていてさながらショッピングモールに近いものがある。

 俺が知っている未来でのホテルとは違う演出、それは恐らく福富無限が息子である福富白禄ふくとみしろくのために建てたホテルというだけでなく、俺とココネを徹底的に叩き潰すために、豊富な資金でよりこの島を盛り上げようとしているからに他ならないのだろう。

 ホテルに到着した俺たちは団体客用のロビーで待つように言われた。しばらくして教師が各班長を呼び出す。俺たちの班長は司なので司が向かった。


 「荷物を部屋に置いたら6階にある大広間に集合みたい。部屋のカードキーは一人一つずつだから失くさないようにね。」


 そう言って司は俺たちにカードキーを配り始めた。


 「6階ってまた高いところに大広間があるんスね。普通ホテルの広間って低階層の印象ス。」

 「来る途中、坂を登ったでしょう?どうもここが4階みたいなの。」


 ロビーラウンジの壁は大きなガラス張りとなっていて、広大な海景色が見える。恐らく4階をロビーにしたのはこのためだろう。低階層だとどうしても何かが遮蔽物となってこんな景色は見れないはずだ。

 事実として、ロビーにもたくさんの人で賑わっていた。その中でも特に人だかりがある場所がある。俺は気になって覗いてみると今日のライブチケットを販売しているようだ。

 チケット購入は確か島の宿泊者に限られるわけだが、そもそも七反島ななたんしまはこのホテルグランリゾート福富くらいしかない。ライブチケット購入条件として合理的な理由だと思っていた。だがそれだけではない。こうして大勢の利用者がホテルの利用客として来てくれることでホテル自体も最高の宣伝にもなるのだ。まさに複数の業種に手を出している福富グループの強みである。


 「ずるいなぁ……こんな金にものを言わせて札束で殴りつける相手とココネはどう戦うつもりなんだ……。」


 改めて福富グループの凄さを実感しつつも、とりあえずは荷物を部屋に運んだ。

 客室フロアは8階から26階までと広くとられている。27階から29階は商業フロアで30階はバーラウンジ兼カフェ、レストランとなっている。俺たちの部屋は10階の1013号室だ。当然男女で分かれることになっており、司や澤田は隣の1012号室である。部屋は和室で布団を敷く必要がある。

 相部屋の同級生は早速、宿の和室にある謎空間と呼ばれる広縁で外の海景色を眺めていた。


 「すげぇー!見ろよ蒼月!高校ってこんな豪華なことすんだな。俺の中学なんてボーイスカウトの真似事をやらされたよ。」

 「滅茶苦茶分かる……でも多分今回は例外なんじゃないかな。ほら七反島ななたんしまって今、滅茶苦茶宣伝されてるじゃん。今回の宿泊も格安だったみたいだよ。俺ら未成年に宣伝させたいんだよ。」


 事実として連日、スマホで七反島ななたんしまやこのホテルグランリゾート福富の写真がSNSで投稿されている。福富グループの策略の一つだ。メディアを使い宣伝することで認知度を上げて、訪れた人々が口コミで更に認知度を上げていく……王道的なやり方だが事実としてこれが一番なのだ。金がかかるという点を除けば。

 しばらく同じ班のクラスメイトとそんな雑談をしているとインターホンが鳴った。司だった。


 「もう、楽しいのは分かるけどオリエンテーションはすぐだって言ったじゃない。ひょっとして聞いてなかった?」

 「覚えてるとも。いやごめんなさい……すぐ準備するから!」


 こういう時、女子はクレバーだ。俺は部屋に置かれていたパズルを必死に組み立て始めたり、ホテルカタログを熱心に読んでいる同級生二人に声をかけて渋々大広間へと向かった。……俺もあとでパズルをしよう。

 大広間に集められた俺たちはオリエンテーションで退屈な話を聞かされた。正直、ほとんど耳に入っていない。これからやるべきこと……それを考えるので頭が一杯だ。


 夏の日差しに照らされた海は、まるで宝石のようにキラキラと輝いていた。俺はそんな清々しい景色を眺めながら、ビーチチェアで横になっていた。


 「これが学校行事の一環だっていうんだからたまらないな……。」


 まだ初夏だというのに、気温は高く冷たい海水が気持ちいい。潮風が常夏の香りを運び、リゾートに来たことを実感させる。

 あれからオリエンテーションが終わり、またバスで移動して島の歴史資料館を少し見て回り後は自由時間。全員考えることは同じで海水浴場に向かった。


 「福富様々だな……この常夏の景色、南国風バカンス……授業中とは思えない楽園……。」


 空を仰ぐ。快晴だった。ギラギラと輝く太陽も今はこの楽園を彩るアクセントだ。


 「なぁ天理!次はあそこまで競争しよう!もう休憩は良いだろう?ほら早く早く!」


 ホテルのマリンレジャー用品のレンタルは思いの外、充実していて先ほどまでボード型のフロートに乗ってみんなで沖まで行って遊んで帰ってきたというのにココネはまるで初めて海に来た子供のようにはしゃいでいる。

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