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六道会

 一人の男が座っていた。モニターが五台用意されている。ここはとある一室。会議室のように机は並べられている。男の名は青木愛人あおきあいと。六道会長直属護衛幹部「六道衆」の一人。階位第二位、畜生道を司る極道である。

 しばらく青木は手を組み待つこと数十分。モニターに映像が映し出される。リモート会議でる。


 「む、青木さん。もういらっしゃったのですか。早いですね。」


 映像に映った男はカメラを通して青木を見た。


 「待ち遠しかったです。予定より早く来てずっと待っていた。」

 「あぁ世間話は不要です。あなたの世間話を聞いてると頭がおかしくなる。」


 男は青木のことをよく理解していた。相手にしたくないのが本音だった。そんな態度をとられて青木は残念そうな表情を浮かべる。彼にこのような態度を取れる人間は数えるほどしかいない。

 しばらく時間が経って、続々とモニターに映像が映し出された。時刻は13時になろうとしていた。


 「それでは定刻となったので始めたいと思います。六道衆会議を。」


 六道衆会議。六道衆である「天」「人」「修羅」「畜生」「餓鬼」「地獄」それぞれの道を冠している幹部が勢ぞろいする会議だ。


 「それでは不肖ながら青木さんは長らく欠席でしたので臨時的に代理として階位第三位の私が今回も進めたいと思います。」


 進行役を務める男は人道を司る電童雷太でんどうらいた。表向きはIT企業「メサイヤ」の代表取締役。階位は第三位。「妄執電脳もうしゅうでんのう」の異名で知られる。


 「待て雷太。階位一位の『天』が来ていないであろう。彼奴はまた欠席か。六道衆としての自覚が足りぬと見た。」


 そう言って不満を零すいかにも無骨な男の名は羅刹波旬らせつはじゅん。修羅道を司り、階位は第五位。表向きはMMA(総合格闘技)団体代表を務めている。その異名は「塵外魔人じんがいまじん」。六道会きっての武闘派である。


 「えー☆別に来なくてもよくない?あたし、今日、今さっき一位の人と話したけどさぁ……なーんかやる気ないっていうかぁ……別にいなくてもよくない?☆ていうかぁ、なんであれで一位なの?あたしさぁ、一位の人ってもっとこう……怖くて強そうなイメージあったけどぉ、なんかいつでも殺せそうだったよ?☆」


 雷太が思わず舌打ちをする。重苦しい空気の中、軽い口調で話す女性こそが餓鬼道を司る愛華渇音あいかくずね。表向きの顔は国民的アイドル。階位は第四位。人は彼女を「乾いた水精」と呼ぶ。


 「おや?雷太くん。餓鬼道は確か伽羅きゃらさんでしょう。伽羅さんの愛人が喋ってますよ。いや初対面なので知らんですけど。」


 青木は彼女のことを知らなかった。餓鬼道を司るのは伽羅きゃらという壮年の男だと記憶していた。


 「あぁ……青木さん。彼女はあなたが服役中に伽羅と交代したんです。信じがたいですけど。」

 「そうなんですか。伽羅さんとはそれなりに気が合ってたので悲しいですね。彼はね、良いレコードを持ってたんです。私に良く聞かせてくれて、私はそれをいつも聞きながらアクション映画を見ていた。いやいや、しかし羅刹さんも大人になりましたね。私初耳でしたけど、怒り狂うものかと。だってあなたより階位が上ですもの。」


 それは禁句だった。流石の六道衆もそこはナイーブな問題と敢えて触れていなかった。二名を除いて。


 「えーだってそれは仕方ないんじゃないのかな?だって羅刹さんのMMA団体って下火じゃないですかぁ。あたしも見たけど、全然駄目。魅せ方が分かってない。ただ暴力だけじゃ」


 ドカン!!大きな音が響いた。羅刹が壁を叩いたのだ。コンクリートであろう壁は羅刹の手で大きなヒビが入っている。


 「それ以上、さえずるな餓鬼。おれは貴様を認めておらん。会長の厳命がなければいますぐにでも階位交代の血闘を仕掛けているわ。そのくだらぬままごとで金を稼いでいる内が貴様の命の導線と思え。」


 明確な殺意。それを涼しい顔で愛華は受け止めた。青木は口笛を吹いた。まるでこの状況を楽しんでいるかのように。


 「だそうですよ薬師寺やくしじくん。君もそこの女より下位になってますけど?」

 「私は……愛華さんを尊敬しています。女性の身でありながら、この仁侠界で立場を得る……それは、素晴らしい才能です。敬意を払っています。敬意とは、素晴らしいものです。尊敬の念を忘れず、傲慢なかれ……。私は、今の立場で十分です。」


 薬師寺と呼ばれた男の本名は薬師寺獄門やくしじごくと。地獄道を司り、階位は第六位。だが羅刹とは対照的に愛華に対して卑屈な態度をとっていた。彼の表向きの顔はない。会長の特命を受けた極秘のシノギに注力している。


 「青木さん、まぁそういうことで餓鬼道は代わりましたが他のメンバーは代わりなしです。」

 「『天』はずっと出てないのです?」

 「はい、残念ながら……。」

 「だーかーらー、あたし言ったじゃん!今日話したけどあんなの一位に相応しくないってー!クビにしよクビに。繰り上げで新しいの入れた方が良いと思うよー?」


 愛華は不満げに口を尖らせる。長く欠席している『天』を司る階位第一位。その姿を知るものは少なく六道衆の中でも限られたものしか知らない。


 「待て。先ほどから貴様……話した、だと?『天』の顔を知っているのか。」


 羅刹は愛華の発言を聞き逃さなかった。今の言い回しは、『天』が何者かを知っている言い回し。羅刹は知らない。『天』の素顔を。


 「え?羅刹さん逆に知らなかったの?あーでもそうだよねー。彼のことを知ったら羅刹さんみたいなの怒り狂いそうだし。なんていうかーかたっ苦しいっていうか?」

 「愛華さん少し黙って。羅刹。愛華さんに『天』を教えたのは私です。彼女のシノギは『天』と繋がりが深いんですよ。だから伝える必要があったんです。無用なトラブルは避けたくてね。」


 愛華の態度に羅刹は堪忍袋の尾がキレかけるがそこを雷太が抑えて補足的に説明した。それを聞き羅刹は不満げではあるが怒りを抑える。


 「愛華さん。確かに今の彼は正直言って我々六道会に対して非協力的とも言えますが……彼以外に適任者はいないのですよ。彼のしてきた"実績"はご存知でしょう?」


 雷太は強い口調で愛華に問いかける。愛華は流石に全員から反対されてしまったことに応えたのか苦い顔を浮かべた。何より雷太の言う事は正論だからだ。


 「う……それは……確かに凄いと思うけどぉ……でもやる気ないのは駄目じゃん!」


 青木はその様子にやれやれとため息をついた。青木は『天』の素顔を知っている。それは表向きの顔ではなく、その裏に隠された実力も。愛華は入れ替わったばかりの新参者故に知らないのだ。『天』が『天』足らしめる理由を。


 「ま、ま、愛華さんでしたっけ?彼は少し今ナイーヴなんです。乙女心は秋の空……といいますけど、男心だって複雑なのです。愛華さんだって気分が落ち込むことはあるでしょう?今の彼はそんなセンチメンタルな気分なのです。温かく見守りましょう。」


 意外なことに青木が愛華に対して情緒論を説いた。そこまで言われると愛華も黙るしかなかった。


 「そもそも今の六道衆の体制も『天』が発案したようなものですしね。」


 六道衆は全員、六道会とは切り離されている存在である。故に警察は六道衆という異名を持つ集団は認識していても、その実態は完全には把握していない。

 指定暴力団の構成員は皆、届け出をする必要がある。構成員は調査会社や警察を通して調べればすぐに分かるのだ。

 暴対法では暴力団に関わるものは一般法人と関わることはできない。アイドルなど論外だ。故にその法を掻い潜っている六道衆とは六つのフロント企業のように例えるのが分かりやすい。

 例えば愛華が分かりやすい。彼女は書類上、六道衆の構成員リストに入ってはいない。故にどう調べようが六道会との繋がりの確たる証拠は出てこないのだ。

 堂々と同じ六道衆である雷太と食事ができるのもそのためだ。雷太もまた同様に、六道衆であることから厳密には六道会の構成員ではないからだ。

 ただし例外もある。元から構成員である青木や羅刹、薬師寺だ。彼らは元六道会構成員として記録に残っている。勿論十年近く前に破門されているため、今は法的に六道会とは無関係だ。

 白石真澄というおおよそ釣り合わない犯罪者と司法取引で仮釈放されたのも、既に指定暴力団六道会構成員ではない青木を縛る法が緩くなってしまったのも理由にある。間接的に言えば、青木が今こうしていられるのは『天』の功績とも呼べる。

 場が落ち着いたことを確認すると雷太は手持ちの資料を持って気を取り直すように咳払いをする。


 「えー……それではまず最初に大切な報告をしたいと思います。」


 青木を除く他三名は少し構えた。いつもの会議では雷太が淡々とシノギの上がりの報告や警察の動向などを事務的に説明するだけだったが、今回は少し違っていたからだ。青木の存在があるからとは思えなかった。大切な報告……そうもったいぶるからには相当のものだと想像に容易いのだ。


 「この度、六道会は藤原家と手を組むことになりました。詳細は追って連絡します。」

 「なんだと!!?」


 羅刹は思わず立ち上がり叫ぶ。だがすぐに落ち着きを取り戻して座り込んだ。


 「藤原というのは……あの藤原か雷太。」

 「えぇ……禁忌の血筋。堕ちた名家の藤原家です。」


 それを聞くと羅刹は大きくため息をついた。他の者も同様だった。


 「し、しかしよくコンタクトがとれましたね……あんなのと手を組むなんて……尊敬……できません。恐ろしい……。」


 恐る恐る薬師寺はそう呟く。


 「実は向こう側から連絡があったのです。しかし話としてはこちらにも利がある話。それに堕ちた藤原家は恐れるに足りません。万が一も考え、直接のやり取りはしません。あくまでビジネスパートナーとして間接的に仲介を持って付き合います。」

 「ま、まぁそれなら……あんなのとシノギを協力してやるなんて……寒気が出ますよ……雷太さん……その度胸だけは……尊敬します。」


 そして雷太は手持ちの資料を引き続き読み上げる。まずは自身が経営するIT企業メサイヤの状況からだ。昨今需要が拡大しているSNS需要。メサイヤも当然参戦していて"ノア"と呼ばれるSNSを運営している。愛華とは連携してマーケティングも進めている。苛立ちながらも雷太と愛華がビジネスの付き合いで行動を共にすることが多いのもそのためだ。

 六道会のシノギは多岐に渡る。六道衆はその性質上、大きなシノギを有しているものばかりである。メサイヤの経営報告を皮切りに会議では彼らのシノギの報告がされる。それらは六道会の維持の為に必要不可欠で、暴対法が施行されている中で生きていくための彼らなりの知恵だった。


 会議は終わりモニターの電源は落とされる。静かになった部屋の中で一人青木はため息をついた。


 「いやいや、まさか……雷太くんが藤原と接触していたとは……私、嫌いなんですよね連中……あなたもそうでしょう?」


 会議室のドアに向けて青木は話しかける。静かにドアノブは回り、ドアが開かれる。


 「無論だ。あのような連中、六道会のガンでしかない……だが向こうから接触してきたというのは懸念故、何も言えなかった。」


 羅刹波旬らせつはじゅん。修羅道を司る六道衆の一人。先ほどの会議ではいかにも青木とは別の場所にいるように見せかけていた。

 羅刹は窓のカーテンを開ける。眩しい日差しが室内を満たす。外は常夏の世界。一面の海が見える。そう、ここは七反島ななたんしま。青木と共に羅刹はそこにいた。


 「まさか藤原が出てきたからといって躊躇してはおらぬだろうな?」

 「関係ありませんよ。全ては六道会のために。そこに藤原など関係ない。手はずどおり進めましょう。」


 青い空、青い海。常夏の景色が果てしなく広がる。青木と羅刹は、平和な光景とは対照的に少しずつ準備を進めていった。


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