実録・僕はこうして株でO十万円損しました
2022年度より高校家庭科で「資産形成」の内容が必修化され、昨今では「貯蓄から投資へ」なんていう(無責任な)スローガンを耳にしたりもするが、自分も7年ほど前から株式投資をしている。
いわゆる「個別株投資」、しかも長く持っても1ヶ月程度のスイングトレード(2、3日から数週間の短期間で取引を完結させる短期売買)が主なので、投資というより投機だろうか。
今でこそある程度の自信を持って取引し、収入の柱の一つとなっているものの、そこに至るまでには長い時間と損失を要した。
しかしながら。
振り返ってみると「よくあの程度の損で済んだな……」というくらい最初は、無知・無策・無謀な取引をしていて、恐ろしくて仕方がない。
先に挙げた「貯蓄から投資へ」についてだが、日本はこれまで、金融・経済に関する教育を全くと言っていいほどしてこなかった。なのにいきなり投資しろとは、無責任と称しても差し支えないのではないだろう。
かくいう自分もまた、何の知識も経験もないままスタートした身だ。
そんな「ど素人」がすぐに儲けられるほど株が甘いはずもなく……無惨な失敗を重ねてきたわけで。
そこで今回は、無惨な失敗すなわち「大失敗投資法」をいくつかご披露しつつ、ど素人が一人で、思いつきだけで株(投資)をすることの危険さや、学んだことを伝えられたらと思う。
それもこれも、株式投資や資産運用に興味を持った方のため、同じ失敗をされる方を一人でも減らすため……なんてかっこいいことを言いたいところだが、目も当てられない愚策の連発すぎてただの笑い物にしかならないので、気楽に読んでもらえたら幸いだ。
なお、このエッセイでは最終的に株式投資を推奨するものでは決してない。投資勧誘または投資に関する助言をすることも目的としていないことを、あらかじめ断っておきたい。
まず、なぜ自分が株を始めたかというと、当時のアルバイト先の後輩が「株なんて簡単すよ!」と豪語したことに始まる。
ここが既に間違いで、全っっっっっっ然、簡単じゃなかったのだが……。
その頃、作曲による印税がぼちぼち入ってはいたが、この先ずっと音楽で稼げるのかという不安もあって、アルバイトも細々ながら続けていた。
そんなところへ「株なんて簡単すよ!」。
ちょうど貯金もできつつあったので、そのお金を増やせないかと考えたのだ。
とはいえ、全くのど素人。「約定」の読み方も知らない。
せっせと用語と取引方法を学びつつ、今でも毎日お世話になっている「ヤフーファイナンス」を開き、知っている会社(銘柄)の株価チャートを見たりして、どうやったら株で稼げるのか考えてみた。
その結果、「戦略」と呼ぶには浅はかすぎる愚策を思いついては、玉砕していったのだった。
前置きはこれくらいにして、早速恥を晒してみよう。
ああ、このエッセイを書き始めたことを既に若干後悔している。
・大失敗投資法その1 「勘」
当時、何百曲と集まるコンペ(リリース曲を決めるプレゼン大会)を勝ったりして、自身のことを「成功者だ」という、とんっっっっっっっでもない大勘違いをしていたため、株も成功するとしか思っていなかった。
(アO丸出しだ、恥ずかしすぎる……)
なので日々、個別銘柄の日足チャート(日々の値動きのグラフ)を見て、「このパターンは値上がりする」みたいな傾向を探り、予測を立てた銘柄が翌日に実際に値上がりすると「やっぱり自分は才能がある!」みたいな自己満足をしていた。
(やっぱりただのOホでしかない)
しかしこのやり方、つまり「成功者(笑)の勘」による予測は外れていき、実行に移す前に頓挫した。
当然だ、自身が成功者だなんて思い込みがそもそもの間違い&勘違いだったのだから。
むしろ、実行に移さなかっただけツイてる。
・大失敗投資法その2 「決算チャレンジ1」
ヤフーファイナンスで「値上がりランキング」を見ていると、「決算日の翌日」は大きく値上がりする(こともある)と気づいた。
決算日というのは3ヶ月に一度、企業が業績を発表する日のことで、その内容を受けて翌日は大きく株価が動くケースが多いのだ。
決算後の大きな値上がりをモノにできれば大儲けだ......。
そう考えた自分は、決算後に大きく値上がりした銘柄の業績予報などを振り返り、どのような傾向があるのかを分析していった。
この「決算チャレンジ」はいけると思い込み、早く株式投資(というか、お金儲け)をしたくてたまらなかったので、「成功パターン」に当てはまる銘柄を2つほど購入をしてみた。
初めての株式投資、ある夏の日の金曜日だった。
予想通り、購入した2銘柄の決算は好内容。
それぞれの銘柄の個別掲示板も「ホルダー(その企業の株を持っている人)おめ!」「月曜日はストップ高(その日の値幅制限いっぱいまで値上がること)!」などなど、ポジティブな書き込みで溢れていた。
そして週明け、ドキドキしながら寄り付き(その日の最初の売買)前の「板(価格ごとの買い注文と売り注文の一覧表)」を見る。
きっと、買い板に「特(特別気配)」だろう。買い注文が殺到してるだろうからな。
さて、そこにあった文字は。
「売り板」に、「特」。
??
あれ、「買い板」に特じゃないの? 表示間違えてない??
え、これって売りが殺到してるってこと?
え……?
そのあと幾度となく味わう、血の気がさーーーっと引く感覚を、このとき初めて覚えた。
夏なのに、寒気すら感じてきた。
こんなはずはない……と、現実を受け入れられない自分をよそに、そのまま本当に「特売り」で始まり株価は大暴落。
しかもあろうことか、購入した2銘柄とも。
この時点でマイナス10万円程度の含み損(未確定の損失のこと)を抱えた。
当然パニックだ、「いくら儲かるかな」とワクワクしかなかったのに、蓋を開けてみれば大損スタート。
実は……「好決算だったけど期待ほどじゃなかったから値下がる」「大赤字だったけど想定より悪くなかったから値上がる」などなど、決算をめぐっての値動きは簡単には読めないのだ。
先に、「大きく値上がりする(こともある)」とわざわざ括弧書きをしたのはそういうことだ。
そもそも、決算が良ければ株価は上がる、決算が悪ければ株価は下がる……そんな単純な戦略が通用するならば誰でも株で大金持ちになってる。
この決算チャレンジをするにあたって分析にかけた期間は二週間程度。
決算日をまたぐなどというハイリスクな投資をするには、分析量も経験もあまりに少なすぎたのだ。
今ではむしろ、イレギュラーかつ大きな値動きをする決算日近辺は取引を避けるくらいなのに、ど素人だった当時、決算後の値動きを読み切れるはずもない。
ちなみに後日、2銘柄のうち1つはなんとか買値まで戻したのだが、もう1つは損切り(損失を確定させること)をした。
さらにもう一度、「今度こそは!」と購入した銘柄で再び「特売り」を食らい、「決算チャレンジ1」の続行は断念した。
*実際の損失額。
・大失敗投資法その3 「決算チャレンジ2」
その後、「デイトレ」にも手を出したもののうまくいかず、気づけば損失はマイナス20万円を超えていた。
このままじゃいけない、もっと安全で手堅い投資法はないかと調べた結果、「IPO(新規公開株)投資」というものを知る。
このIPO投資は簡単に言えば、新規公開株を上場前に購入し、上場時に売却して差益を得る投資方法で、自分のようなただの個人が上場前に購入するには、抽選に当たる必要がある。
早速、IPOを取り扱っている証券会社に手当たり次第に口座を開設し、IPOに応募を始めて数週間後、本当に運良くS級IPOに当選できて、なんと一発でそれまでのマイナスがプラスになったのだ。確か40万円程度の利益が出たと思う。
マイナスが一転プラスになったことですっかり調子に乗ってしまい、もう一度「決算チャレンジ」をしてみようかと、懲りもせずに決算後の値動きを追いかけてみた。
すると今度は、「決算が悪かった銘柄を空売り(簡単に言うと値下がるほどに儲かる取引)する」という考えがひらめく。
前回の決算チャレンジは決算の発表前に購入し、翌日の大きな値上がり(ギャップアップ)を狙う作戦だった。
なのでチャレンジ1の失敗時のように、買っていた銘柄が特売りになっても逃げようがない。
だが今回は決算発表の翌日、寄り付きの板を見て「特売り」になっている銘柄、つまり前日より大幅に値下がることがわかっている銘柄を仕掛ようという作戦だ。
これならうまくいく、お読みの皆様もそう思ったかもしれない。
では実際、どうなったか。
実行日、決算が悪く売りが殺到していた銘柄を5つほど空売りした。
そのうち2つは寄り値(その日の最初に成立した売買価格)から若干の値下がり。これは利益になった。
2つは値上がり。損失だ。この時点で先の2つを合わせても、トータルでは損失が上回ってしまった。
では残ったもう1つはどうか。
5つのうち4つの時点でマイナス、期待をかけて開いたページ。
そこに表示されたのは……
気持ち良いほど綺麗な、右肩上がりのグラフ。
値上がりパーセンテージは、緑色に輝く+10%。
……は?
なんとその日のうちに、前日比で+10%以上も値上がりしてしまったのである。
しかも、自分は特売りスタートつまり、「前日の株価よりも下落した値段」で仕掛けている。
ということは……仕掛けた値段から前日終値まで値上がり、そこからさらに+10%超、値上がっていたのだ。
銘柄の個別掲示板に目をやると……
「売り豚ざまあああ焼かれちまええ!」
と、自分のような空売り勢の大損に歓喜する書き込みで溢れかえっていた。
「こんなことある?」と、あまりの大損に最初は夢か現実か判断できない状態。そこから襲ってくる絶望。
決めていた「損切りライン」を大幅に超えていたので、ルール通りその日に決済、つまり大損。
IPOでせっかくプラスに戻せたのに、株のトータル収支は再びマイナスに突入した……。
*実際の損失額。-135028......
今回は「またIPOで取り返せばいい」という気持ちがあったのが唯一の救いだが、決算チャレンジ1とデイトレである種の恐怖心が植え付けられてしまっていたので、今回の件は大きなダメージとなり、結局「決算チャレンジ2」は一度限りで終了となった。
もしかしたら決算チャレンジ1も2も、長い時間をかけて分析と経験を重ねれば、今頃有効な戦略となり得たかもしれない。
しかし、度重なる失敗と損失で心がぽっきり折れてしまった。
しかも毎回、想定の遥か上をいく損失を出してしまう。これは神様から「そのやり方はやめとけ」と言われてるんじゃないか、そう感じもした。
またこの頃には、株を始めた時の「成功者」なんて勘違いもどこへやら。
むしろ「やっぱりな、昔から貧乏くじを引く、ついてないやつなんだ自分は」なんて思うようになっていた。
・大失敗投資法その4 「1%抜き」
悲惨な失敗を積み重ねたことでさすがに意気消沈し、「もっと時間をかけて研究して、確信を持ててから挑戦しないといけない」と感じ、しばらくは大人しくIPOの応募だけをおこなっていた。
比較的当選しやすい大型IPOなどでちびちびと利益を重ね、数年かけて収支はトータルでイーブン近くに戻せた……が、それで生活できるレベルではない。
自分の中では「株の利益だけで暮らせるレベルになりたい」と思っていたので、仕掛けはしなかったものの、戦略を練ってはシミュレーションを繰り返していた。
その結果辿り着いた戦略が、「1%抜き」だった。
(「1円抜き」という手法はデイトレなどで実際にある)
戦略自体は単純、寄り値で買い1%値上がったら決済する、それだけである。
実際には「IFDO注文」という方法を使い、寄り値のおよそ1%値上がったら自動決済するよう設定していた。
たった1%くらい上がるでしょう、そう思わないだろうか?
実際、結構な割合で成功し、放っておけば約定通知メールが来て、お金が増えていくのは楽しかった。
しかし、結果的にこのやり方で一発20万円ほどの損失を叩き出すことになる。
なぜかというと、一度の失敗取引で大損をしてしまう、リスクの大きい設定を施してしまっていたからだ。
まず、確実に1%の値上がり幅を取るため仕掛けには、ボラティリティ(価格変動)の大きい銘柄をチョイスしていた。
午前中はマイナス5%くらいしても午後になったら上がってプラスになる、そんなジェットコースターのような銘柄たちだ。
その大きい値動きに対応するため「ロスカット」つまり、ここまで値下がったら強制的に決済するという基準をなんと「マイナス8%」に設定していたのだ。この8%というのは厳密に計算したわけではなく、なんとなくで決めた。
今思えば欠陥戦略でしかない……。
それでも1%取れる確率はかなり高いため、前述のとおり最初は順調に利益を積み上げていき、その度に仕掛ける金額も増やしていった。つまり、利益額も大きくなるが、失敗した時のロスカット額も大きくなる。
そして、1%抜きを開始した当初の2倍強の金額を仕掛けたその日、某夢の国に遊びに行った。
株で儲かったお金で某夢の国、まさに夢心地で昼のパレードを待っているところに届いた、一通のメール。
お、また儲かったのかな?
完全に浮かれ気分のその目に映ったのは......およそマイナス20万円の文字。
つまり、ロスカット執行の知らせだった。
*実際の損失額。キツい......。
やがて始まった、楽しそうなパレード。
しかし自分の目は、機械的に数字が表示された画面から離れることはなかった。
え、1%も上がらなかったの?(「寄り天」と言って、普通にある)
え、マジで8%とか下がっちゃう......?(値動きの激しい銘柄なら全然普通にある)
顔は必死に冷静さを保っていたが、何日もかけて積み上げてきた利益が一日で吹っ飛んだ事実が、心の中を黒く覆っていった……。
この戦略について、株をある程度経験したことある方なら「ふふふ」と含み笑いすらするだろう。
なぜなら、自分がこの「1%抜き」でやっているのは典型的な「コツコツドカン」であり、教科書通りの「損大利小」の失敗戦略だからだ。
人間には「プロスペクト理論」と呼ばれる、利益は早く確定し、損失は出来るだけ避けたいという習性がある。
その点でまさに、確実に早く利益確定するための「1%」であり、損失を避けるための「マイナス8%」。
しかも自分の場合良くなかったのが、仕掛ける金額を徐々に増やしていったことで、よりによってロスカット額が大きくなった時に失敗したため、それまでコツコツと積み上げていった利益を盛大に吹き飛ばしてしまったのだ。
決算チャレンジといい、何をやっても最悪のケースが起こる。
せっかく上手くいき始めたと思ったら、全部パー。
もう、ここで株はやめてしまおうか。
いっそ株取引自体を「損切り」しようか。
そんな気持ちになったが結局......諦めの悪い性格が故にこの後も、株で利益を得るために試行錯誤を重ね続けた。
なぜかというと、事後によくよく分析してみると「うまくいかなかったこと」にはちゃんと理由があったからだ。
例えば先ほどの一発マイナス20万円、仕掛けた銘柄の時価総額は50億円以下であり、こうした銘柄は大きく動きすぎてリスクが高い(ちなみに今は日経225&JPX400の銘柄しか取引していない)。
逆に、「うまくいっていたこと」もあった。
1%でデイで利確せず、そのまま数日持っていればもっと大きな利益になっていた、「いいところで仕掛けられている」取引も沢山あったのだ。
ならば、「うまくいかないもの」は避け、「うまくいきそうなもの」だけを仕掛けていければ、収支は改善できるのではないか?
そう考えて相場と向き合いながら、大なり小なり痛い目は幾度となく味わったが、だんだんと損失に対する「耐性」もできてきたし、修羅場をくぐり抜け含み損が利益に変わる経験も積み、「勝てるイメージ・自信」もついていった。
そして今、検証と改善を繰り返しつつおこなっているのは、安くなった株を買い、高くなった株を売るという単純な「逆張り」だ。
やってること自体は単純だが、「どれくらい大きく動いた銘柄をターゲットにするか」「底値(高値)から移動平均線に向かってどのくらい戻したら仕掛けるか」「利確するゴールはどこか」「損切りする基準や根拠は」などを明確にルールとして決めている。
相場の荒波にもまれながら構築した、株の本やネットで情報を得ただけではできない、経験からおこなう逆張り(スイングトレード)である。
しかしながら今でも日々、反省と後悔は絶えない。
利確(利益確定)した銘柄が翌日、ここからが本番だったかのようにグングン伸びる。反対に、もう少し伸びるだろうと思って持ち越したら翌日、ドスンと大反落(値下がりすること)。
選択が裏目に出るたび、当然ながら悔しさがにじむ。
だがそんな時……心の中でいつしか、こう呟くようになっていた。
「未来に伝えよう」、と。
どうやっても時間は前にしか進まない。
タイムリープはできない。
過去に戻り、選択肢を選び直すことはできない。
だったら今感じる悔しさ、学びを、未来の自分へと伝え、「次」に活かすしかないと思うのだ。
これまでご覧いただいたように、「ド下手」「教科書通りの負け投資家」というレッテルがぴったりの取引を繰り返してきた自分だがそれでも、失敗するたび一つ一つ学びを増やしていければ、「怪我をする可能性」もだんだんと減っていく。
その結果、ある程度の自信を持って今、取引ができている。
過去に戻って、決算チャレンジや1%抜きでの大失敗取引をやめさせたら、確かにその分の損失はなくなるだろう。
だが、それが果てして本人のためになるのだろうか?
コテンパンにやられて、痛みや悔しさをこの身にこの胸に刻み次に活かしてこそ、人は成長するのではないだろうか。
そうして得た成長や強さこそが、相場でも日常生活でも、予測不能の事態や困難を乗り越える力となるのではないだろうか。
今の自分を支えてくれているのは過去の失敗たちだ。
過去は変えるものじゃない。味方につけるもの、そう思う。
繰り返すが、このエッセイは自分の失敗談を面白がってくれればそれでいいし、株式投資を推奨する気は一切ない。お仕事をされている方はお給料をもらう方が安定性も、精神的にもよっぽどいい(株はメンタルをやられる)。
また、「投資は余剰資金で」という鉄則があり、自分が怪我(失敗・損失)をしても生き残れたのは、資産の全額をかけて挑む大博打のようなことをせず、余剰資金でおこなってきたからというのは大きい。
投資を検討しているのであれば、つみたてNISAに選ばれるような金融商品の方が良いのではと思う。
ただ、何かうまくいかない時や失敗した時に「未来に伝えよう」と心でつぶやくと、気持ちが前向きになるかもしれない。その程度で心にお留めいただければ幸いだ。
ああ、今度はなんだかクサいことを言いすぎて恥ずかしくなってきたが、久々にエッセイを書いて舞い上がってしまったせいもあるので、どうかお許し願いたい。