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異世界に転生する事になった俺。神(仮)が『無能の付与』というスキルをくれたのだが……

どうやら、俺は死んだ?らしい。就活中で面接に行こうとして、横断歩道を渡りかけたところまでは覚えている。

と言うのも、気が付いたら何だかよく分からない空間?にいて、神?と名乗る人物が目の前にいた。何でも、俺はこれから転生させて貰える?らしい。


――ここまで文中に「?」が多くて申し訳ないが、正直俺にもこの状況がよく分かっていない。つまりは混乱しているのだ。その点、大目に見て貰えると助かる。


とにかくだ。


その転生に際して、神を名乗る奴は俺に一つ、スキルというものをくれるらしい。


「――で?お前は何のスキルが欲しい?」


神(仮)は俺に尋ねてきた。

……え?そういうのって、自分で選べんの?そのシステム、ありなの⁇てかそれ、かなりのチートなんじゃ……

あと、何か雑だな。


頭の中には色々と渦巻いたが、まあいい。とりあえず、くれると言うものは貰っておこう。タダだし。(多分)


そこで俺は、欲しいスキルというやつを考えてみた。


「…えーと、そうっすねぇ………まあ、やっぱ?何か、こう…………

凄いヤツを。」


何にも思い付かなかった俺は腕を組み、首がもげそうになるほど傾げながら答えた。


「……“凄いヤツ”……。えらく曖昧な。ウーン……」


神(仮)は渋い顔をした。そして考え込んだ。…神(仮)、考え込むんだ。神なのに…。

まあ、分からなくはない。答えが丸投げで返って来たんだもんな。会話のキャッチボールというより、トスバッティング。けどこういうのって、普通はそっちが勝手に与えてくるもんじゃないの?最初からあんたが考えなさいよ。

…っていうかさっきの台詞。『えらく曖昧』だとは、的を射ているが失敬な。それは俺の想像力が乏しいとでも言いたいのか?すーいーまーせーんーでーしーたーね〰〰〰!!大体、「何のスキルが欲しい?」も大概だと思うぞ。もう少し限定しろよ、内容を。人間、選択の余地が広過ぎると、逆に何も思い浮かばないもんなんだよ‼“神”を名乗るなら、その辺分かっとけ!


……おっといけない。少し興奮し過ぎたみたいだ。


俺が頭の中で悶々と愚痴を呟き続けていると、その間に神(仮)は何かを考え付いたらしい。そんな顔をしている。

因みに、どうやら俺の心の中は読めないようだ。…お前、ホントに神なのか?


「――…よし。ではお前には、“無能を付与する”というスキルを与えよう。」


人差し指で俺を指し、神(仮)はそう告げた。…指を差すな、指を‼相手が神でも気分悪いわ。


しかしだ。

俺は今、ちょっとワクワクしている。


“無能の付与”――。それって、あれだろ?敵の能力を奪う、的な。もしくは、敵の能力を無効化するってやつ!え、それめっちゃいいやつやん‼…何か、若干違和感はあるが…


兎にも角にも、エセ関西弁も飛び出した俺は俄然やる気が湧いてきた。


こうして俺は、『無能の付与』というスキルを与えられ、異世界に転生したのだった。







目が覚めると、俺は青年の姿で森に仰向けで寝転がされていた。

…雑。やっぱ、控え目に言って雑である。オイ、神(仮)!!!


え、俺、すでに大人なんです??いきなりこっから始まんの⁇“それまでの記憶”とかも無いんですけど!!元の俺とも違うっぽいし、これじゃ無から突然発生した人じゃんかよ!完全に雑だわー‼

……なあこれ、「転生」だろ?親はともかく、少年期は??…ああ、人生ずいぶんショートカットしちゃったなぁーおい……

まあ…、いいか。正直、赤ん坊から始めるとかメンドイので、むしろこれでヨシ!


気を取り直した俺は、情報収集のため移動を開始した。


ところでこの世界、俺の知る限りでは何かの漫画・ゲーム・小説・アニメ…後は何だ?――とにかく、そういう類いの二次元等の世界では無いようだ。

そして俺にスキルが与えられてるって事は、多分ここは魔法とかそんなものがある世界、という事なのだろう。知らんけど。

とりあえずまあ、普通の異世界だと思う。いや、普通の異世界って何だよ。


その後、徐々に得た情報によると、どうやらここには魔王が存在しているらしい。そして当然、勇者もいるようだ。しかも勇者は一人ではなく、そのパーティーも無数にあるんだそうな。…それはつまり、儲かる…という事なのでは……?

設定は色々とありがちだが、特に支障は無い。いや、むしろ分かりやすくてこんな時には有難い。


……という訳で、俺は当面の生活費を工面するため、どこかのパーティーに入れて貰う事にした。






「――お前をこのパーティーから追放する!!」


加入して即、俺は追放された。


――早い。早過ぎるだろォォ!!

「お前のスキルは何だ?」と聞かれたから、「無能の付与です」と答えたらこれだった。


「……いや、意味分かんねえから…。無能の付与、って。なに?」


盛大に怪訝な顔をして採用担当…もとい、勇者が尋ねてきた。つか、加入させる前に聞けよ!!


「何って、ほら…。人の能力を無効化したりするんすよ‼」


俺は真面目に、一生懸命に答えた。そうしたら、パーティーの仲間が俺を不憫そうに見てくるじゃないか。


「…そういうのってさあ、“スキルの無効化”とか言わん?普通…」

「ですよねえ…。無能って……()()、ですもんねえ…??」


魔法使いっぽい奴と、聖女らしき奴らが口を揃えた。


言いたい事は分からんでもない。俺も最初聞いた時、ちょっと『?』って思っちゃったからね!でも、頼むから可哀想なものを見る目はやめろ?あと、薄く笑ってんのが見えてんぞ、聖女!


「――とりあえずスキル(それ)は置いとくとして…」


置いとくんかい‼追放までするのに⁉


「で、結果それって職業は何なの?」


それも今さらなヤツー!!おい勇者、お前色々遅いんだよ、言うのが!!


……だが。言われてみれば、何だろうな……


「………………ま…ほうつか…い……?」

「………魔法使い……。」


俺と彼らとの間に、妙な風が吹き抜けた。

仲間たちが何やらひそひそと言い合っている…


「――…まあ、これっていう職業名が無くてもいいよってパーティーは、他にあると思うから!」


そう言って、奴はじりじりと後退しながら、勇者スマイルで俺に手を振ってきた。

お、おい、逃げる気か⁇なに爽やかにフェードアウト決め込もうとしてんだよ⁉


俺はついにキレてしまった。


「職名にそこまで拘る⁉あと、“無能”も“無効”も似たようなもんでしょうがあ!」

「貴方様が、必要とされるパーティーに出会える事を、お祈り申し上げますっ★」


聖女に祈られた。

そして奴らは全力ダッシュ。




――その後も、いくつかの勇者パーティーを見付け、入れて貰おうと交渉をした。しかし、どいつもこいつも同じような事を抜かしやがる。


「じゃっ、じゃあ、せめてスキルの発動だけでも見て貰えませんか⁉不採用にするにしても、それからだって遅くは……」


俺は必死になっていた。こんなん普通に就活じゃねーか。異世界に来てまでこんな事になろうとは、思いもしなかった。畜生。世知辛い……。前世の俺って、就活は結局どうなったんだっけ…?


「う~ん…。つっても君のスキル、何か物騒な予感がするから見たくないんだよねぇ。ごめん、他当たって?」


撃沈だ。取り付く島も無いとはこの事か。



…俺は絶望した。

そして叫んだ。


「―――オイィ神ィィイイ(仮)!!なんつー使えないスキルくれとんじゃ――!!!」


俺は、力の限り叫んだ。しかし、神(仮)は何も答えない。

…野郎、どうやら転生後のコンタクトは取らない主義らしい…。

○○(ピー)がッッ!!



――俺はもう、俺以外を頼る事をやめた。


そうだ。そうだよ!要は、魔王を倒しゃいいんだろ!?それくらい、一人でやってやらあ‼そしたら、この国の王様からたんまりと褒賞金を貰ってやる…。一人でやるんだから、それは当然独り占めだ。そんで、後は遊んで暮らすぜヒャッハー!!


……とまあ、そんな感じで、俺は完全にキレたのだった。




そうと決まれば善は急げだ。まず手始めに、今後邪魔となるであろう勇者パーティーを潰していく事にした。競合相手は少ないに限る。

俺が血眼になって捜していると、やがて一つの()も…勇者パーティーを見付けた。


勇パ内で残しておくと、一番厄介なのは恐らく魔法使いだ。魔法で邪魔をされてはかなわない。こいつは、いの一番に叩いておくべきだろう。

魔法使いっぽい格好をして魔法使いっぽい杖を持っている奴が多分そうだ。そいつに向けて、手をかざすと――


「無能の付与‼」


俺は迷う事無く、魔法使いに無能を付与した。

そして実は、これが俺にとっての『はじめてのふよ(付与)』なのであった。脳内にはこの時、BGMとして○○クイーンズの例の曲が流れていた。


一方、不意を突かれてまともに「無能の付与」を食らった魔法使いだが――。何かよく分からない言葉(?)を吐いて座り込み、ただ一点を見詰めて呆けている。


「ふしゅ~~…………」


恐らく、…多分。魔法使いは無能になった。

その途端、勇パ内は阿鼻叫喚に包まれた。


「な…何なんだこれは⁉」

「きゃあああっ!」

「恐ろしい……ッ!!」


勇者たちのパーティーとは思えないほど、彼らは右往左往している。その元凶である俺が言うのも何だが…。お前ら、そんなんで大丈夫か??


何はともあれ、俺は途轍もない手応えを感じた。


「……このスキル、めっちゃヤバない……?」


かつてない主人公感……。思わず手が震える。

では、次に狙うは勇者だ。相手は慌てふためいているのでやりやすい。


「無能の付与‼」

「ふしゅ~~…」


勇者も無能になった。

それから剣士に聖女に…(「聖女」多くない?)とにかく、そのパーティーのメンバー全員に、俺は惜しみなく“無能”をくれてやった。


「無能の付与ォー!!」




――…この時、一つの勇者パーティーが無能と化した。

我ながら、いい仕事をした。俺は額の汗を拭った。



そこから勇パを見付ける度に、怒涛のごとく無能を付与をする日々が始まった。


「無能の付与!」

「無能の付与‼」

「無能の付与!!」

「無能の付与――!!!」


野山を駆け街を抜け、鬼のように無能を付与して回り、俺はありとあらゆる勇者パーティーを無能にしていった。そうして俺の通った後には、勇者たちの死屍累々が出来上がって行く…。(あ、これ、比喩ですよ?勇者たちは無能になっただけで生きてます‼生きてますからー!!)


――それにしても、こうして休みなく世界中を駆けずり回っているというのに、一向に疲れというものが出て来ない。これも転生者である俺への、神(仮)からのプレゼントなのだろうか。もしくは、おまけ。何て有り難い。そして実はこれこそが、一番凄いスキルなのではないか、という気がしている。


そんな風にして次々と勇者パーティーが消えて行き、やがて残された人間は一般庶民たちだけとなった。


その時、俺はふと思ったのだ。


『――…一般庶民に付与しないのは、差別ではないのか…?』


…そうだ…。この世の全ての者が無能になれば、争いも起こらなくなるんじゃないか……??


いつの頃からか、鬼のように無能を付与して回っていた俺は世界中の勇パから警戒されるようになり、いかに早く相手を見付けスキルを使うかが重要になっていた。そのため動くものはみな勇者と思い、反射的に片っ端から無能の付与をしていた。中には、間違えて一般庶民に付与する事もあった。

そのせいもあるのだろう。俺の中の、妙な正義漢スイッチが入ったのだ。


とにかく、人を見たら「全てに付与しなければならない」という、謎の義務感に突き動かされた。


「無能の付与!」

「無能の付与‼」

「無能の付与!!」

「無能の付与――!!!」


俺は狂ったように、今度は全ての人間に対し無能の付与をし続けた。これは俺に課された使命なのだ。その一心だった。


「ふしゅ~~…」

「ふしゅ~~…」

「ふしゅ~~…」

「ふしゅ~~…」


俺の尽力のおかけで、人々は残らず無能となった。ついでに王宮にも行って、王族やらにもかけて差し上げたから完璧だ。


…よくやった。頑張った、俺……!!

俺は役目を全うした事で万感の思いが込み上げ、目に薄く涙を滲ませた。――そんな時だった。


「………ほう。なかなか面白い事をしている人間がいるとは聞いていたが、これほどとは…!」


地鳴りのような声が聞こえてきた。俺は声の方を振り返った。

そこには万年ハロウィンみたいな大勢の被り物を連れ、黒い装束を身に纏って頭に(ツノ)をくっ付けた、めっちゃ顔色の悪い見知らぬ人物がいた。


「邪魔な虫けらどもを一掃してくれるとは…。気に入ったぞ人間!!我の配下としてやろう……‼」


………………。


だから、誰。


俺は真顔になった。




~~リロード中~~




……ええと……。

そもそも、俺は何でこんな事をしてるんだっけ……???



―――あッ!!

…そうだ、そうだよ!

俺は元々、魔王を倒そうと思ってたんだった!!

そんで、魔王じゃん、あれ‼……いやあ、顔色悪過ぎるのに何やってんだ寝てろ‼と思ってたが、そういう事ねーはいはいはい…。あれもマジの角だったのかー…。あと、被り物じゃなくて魔物っすね!了解了解。


「ワハハハ!…人間よ、恐怖に声も出まい…」


ようやく全てを思い出した俺に、迷いは無かった。


「我こそは魔お…」


そこですかさず


「無能の付与ォオオ―――!!!」

「エッ⁉ちょ、待、まだ名乗……」


魔王が何か言ってたが、知ったこっちゃない。無視だ、無視。


「ふしゅ~~…」


魔王は無能になった。

それを見て、魔物たちは(後から思えば)震え上がっていた。


「ま…魔王様が‼」

「たすけてぇ――!!」


悲鳴と絶叫がその場にこだまし、怯え、散り散りになって逃げ惑う魔物たち…。それを追いかける俺。


「……無能のォ…付与ォォォ!!!」

「じ…地獄だふしゅ~~…」


俺は全てに漏れなく無能を付与してやった。










――……俺以外、全てのものが無能になった。

争いが無くなった。

平和が訪れた。


「終わった……」


俺は草原に寝転がった。

そよ風が吹き、野花が揺れている。そこにひらひらと蝶々も飛んで来た。


「……へーわ、だなぁ……」


空を眺めながら、俺はこれまでの戦いをぼんやりと回想した。


――阿鼻叫喚の大地。逃げ惑う人々。どこまでも執拗にスキルを使う俺。次々と倒れ(?)ていく者たち――…。

そんなものが思い出された。


……ん?

俺、戦…っては、ないな⁇

蹂躙て言う方がしっくりくるような…。


………あれ?

これ、大魔王の武勇伝……だ…な…??


………………。


いやいやいや、違う違う違う。俺は勇者的な方だから!!


頭を振って、別の事を考えることにした。


『…そういや能力には普通、副作用?とか反動みたいなのがありそうだけど…』


特にそういうものを感じない。いくらでも力が使えた。さすがは神の賜物。やっぱチートって凄いわ……




が。

やっぱり、そんな事は無かった。


俺は不能になっていた。


「うっっそだろ!?マジかよオイッッ!!あんの神(仮)ィィイ!!!」


俺は絶望した。神を呪った。魔王なんぞを倒すためなんかに休まずスキルを使い続けた事を、激しく後悔した。あんなもん、その辺の勇者どもにやらせときゃよかったッ!!!

クソッ……疲れさえ…疲れさえ感じていれば、ここまでスキルを使いまくらなかっただろうに……!そうすれば、こんな事には…………!!


「…畜っ生ォオ……ッッ!!」


俺は四つん這いになり、何度も何度も地面を殴りつけた。




……そうしてひとしきり悔やんだ後、俺はもう一度周囲をぐるっと見回してみた。


「ふしゅ~~…」


――勇者も一般庶民も、魔王も魔物も王様も、老若男女・種族さえも問わず、誰も彼もが無能だった。

俺は気付いてしまった。


あ…

これ、別に不能でも大して問題ないやつだ……


俺はまた大の字になって寝転がった。

そしてもう一度、よくよく考え直してみた。


世界中が無能になった。争いは無くなった。が、働けるやつもいなくなった。

と、いう事は、この先この世界って滅……


やめよう。これ以上考えたら負ける。


「………まあ、やってしまったものはしょうがない!寝よう!!」


俺は目をつぶった。




――…えーと、神様?

こうなったのはそちらの責任でもあると思うんですよぉ…。

だからここは一つ、神的な力?みたいなヤツで、いい感じにして貰うって事で……よろしく!!

――完――

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