こっくりさん
「おいでになられたら『はい』のところに進んでほしいでやんす」
チャビンくん、ユウジくん、トゲトゲ缶コーヒーくんの指を乗せた10円玉が、ゆっくりと動き始めました。
「すげー! こっくりさんって本当にいるんだな!」
『はい』に近づく10円玉に興奮を隠せない様子のトゲトゲ缶コーヒーくん。
「いや、オレはお前らのどっちかが動かしてると踏んでるね。こんなのありえないからな」
ユウジくんは2人を疑っているようです。
「さて、まずはオイラから行くでやんす」
「頼んだぞ、トップバッター」
缶コーヒーくんが期待の表情でチャビンくんを見ています。
「オイラん家は、いつになったらお金持ちになれるでやんすか?」
チャビンくんには夢があるのです。このゴージャスな10円玉の持ち主であるユウジくんのように、ゴージャスな家に住んでゴージャスなごはんを食べて、ゴージャスなお布団で眠ることです。
質問から数秒後、ゴージャスな10円玉が動き出しました。
「む」
「り」
「えっ⋯⋯」
チャビンくんは悲しい顔をしました。
しかし、10円玉はまたすぐに動き始めました。
「む」
「り」
「ひ、ひどいでやんす⋯⋯」
どうやらこっくりさんは「無理」ではなく、「無理無理」と言いたかったようです。
と、また動き始めました。
「か」
「っ」
「なんでやんすか?」
チャビンくんが不安そうな顔をしています。
「こ」
「わ」
「ら」
ここまで指して、鳥居に戻りました。
「かっ⋯⋯こわら? どういうことでやんすか?」
「チャビン、おそらくこれは『ムリムリ(笑)』ってことだと思うぜ」
ユウジくんが哀れみの目を向けて言いました。犬のフンを踏んだ時に向けられた目と同じでした。
「そんなぁ。悲しいでやんす」
「次は僕だな! こっくりさんこっくりさん、僕の将来のお嫁さんはどんな人ですかぁー!」
すると、さっきまでとは比べ物にならないスピードで10円玉が動きました。
「ん? こんなとこで止まるのか?」
10円玉の下にはなんの文字も書いてありません。ここはただの余白です。
「いや、ちょっと待て! なにか浮かび上がって来たぞ!」
じんわりとインクが滲み出し、いくつかの文字を形作っていきます。
『ブスのブタ』
「そんな⋯⋯!」
トゲトゲ缶コーヒーくんが震えています。
「最っ高! ありがとうございますこっくりさん!」
大喜びです。
「けっ、くだらねぇ。やっぱお前らのどっちかが動かしてるんだろ。こっくりさんがいたとして、こんなヘンテコな回答する訳ねーもん! オレ帰るわ! じゃな!」
「ユウジくんダメでやんす! 途中で離したら呪われるでやんす!」
「うるせぇ! もう帰る! 10円玉はチャビンにやるよ!」
「ありがとうでやんす」
こうして3人の遊びは終わりました。
チャビンくんと缶コーヒーくんが片付けをしていると、なにやらユウジくんが震え始めました。
「うぅ⋯⋯ううううう」
両手で頭を押さえ、その場にうずくまってしまいました。
「うああああああああああ! いぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!」
「どうしたでやんすかユウジくん!」
「大丈夫かユウジ! 先生呼んでくるか?」
「ハミィィイイイイイイイイ!!!!!」
2人の心配の声も届かず、ユウジくんは叫びに叫びまくっています。
「しゅぎぃ⋯⋯ふにぃ⋯⋯おしり⋯⋯」
2人がかりで椅子に座らせると、ユウジくんは徐々に落ち着きを取り戻しました。
「チャビン」
ユウジくんがチャビンくんの名前を呼びました。完全に落ち着いたのでしょうか。
「なんでやんすか? ユウジくん」
「シチューを持って参れ」
「え、シチューでやんすか?」
「左様、麻呂はシチューが食べたいのじゃ」
公家になってしまいました。
「ユウジくん、どうしたでやんすか? いつもと喋り方が違うでやんす」
こっくりさんに呪われてしまったのでしょう。本来は狐のはずなのですが⋯⋯
「シチューを持って参れ! 早う持って参れぇ!」
あまりにもうるさいので、2人は大急ぎで教室を出ました。
もう1度ユウジくんに会うのが嫌だった2人はそのまま帰りました。