ひとりかくれんぼ
今日、チャビンくんはワクワクしています。
学校のお友達から『ひとりかくれんぼ』という遊びを教えてもらったからです。
このひとりかくれんぼとは、有名な都市伝説である『こっくりさん』と同じく危険な降霊術らしいのですが、チャビンくんには調べる術がないので、今回のやり方はすべてお友達に聞いたものになります。
ひとりかくれんぼをするとおかしな現象が起こるそうなので、怖いもの好きなチャビンくんはもうウキウキです。
「小澤 裕二くんにもらったメモを見て準備をするでやんす!」
裕二くんのメモによると、まず手足のあるぬいぐるみを用意する必要があります。
「初手で詰んだでやんす⋯⋯仕方がない、靴下で代用するでやんす」
そう、チャビンくんのお家は貧乏なので、ぬいぐるみなんて高価なものはないんです。
「ぬいぐるみの背中を切り裂いて、綿を抜いて米と自分の爪を詰める⋯⋯この遊び、貧乏人に優しくないでやんすな」
チャビンくんは物を粗末にすることをなにより嫌う子なので、ぬいぐるみを切り裂くなんて言語道断です。
靴下は最初から入口があるので、今回の遊びにはピッタリだったようです。
「遊びにお米なんて使ったらママに殺されちゃうでやんす⋯⋯」
チャビンくんのお家はママの稼ぎだけでやっているので、1粒のお米も無駄にすることは許されません。
「よし、代わりに靴下を詰めるでやんす。爪も入れて、赤い糸で口を閉じる⋯⋯まぁ、これくらいなら出来るでやんすな」
こうして靴下の中に靴下が詰まった、細長いぬいぐるみが出来ました。たまたま茶色だったので、一本グソみたいな見た目になりました。
入口が赤い糸で縫われているので、そこだけ血がついているみたいです。
「あと、名前をつけるでやんすな。名前、名前⋯⋯よし、『お金』にするでやんす。縁起がいいでやんすな」
次に、塩水を入れたコップを隠れる場所に置きます。チャビンくんのお家で隠れられる場所といえば、このビリビリの押し入れしかありません。
「コップはなるべく小さいものを。お塩は高いでやんすからなぁ、まあ1粒でも入ってればこれは塩水と呼べるでやんすな」
チャビンくんは塩分濃度0.0000000001%の塩水が入ったコップを押し入れに入れました。
最後の準備です。
お風呂にある洗面器にお水を張ります。が、そんなにいっぱいお水を使うわけにはいかないので、コップで代用します。
「よし、準備完了でやんすな! あとは3時まで待つだけ⋯⋯」
そう、このひとりかくれんぼは開始時間を午前3時と明確に決められているのです。あと6分です。
ちなみにこの遊びは家族のいない日に行わなければなりません。家族に危害が及ぶ可能性があるからです。
ただ、チャビンくんのお母さんは1日のうち20時間はお仕事をしていて家にいないので、この家ではあまり関係ありません。
さて、3時になりました。チャビンくんのひとりかくれんぼが始まります。
「最初の鬼はチャビンだから」「最初の鬼はチャビンだから」「最初の鬼はチャビンだから」
チャビンくんはお金に向かって3回唱えると、お金を持ってお風呂場に向かいました。お金をさっきのコップに入れるのです。
「コップちっちゃ⋯⋯」
お金が半分しか入りませんでしたが、仕方がありません。次に進みます。
部屋に戻ったら家中の明かりを消して、テレビだけつけます。
「テレビないでやんす」
チャビンくんはだんだんメモを書いた裕二くんに腹が立ってきました。自分が貧乏なのを知っていて、わざとぬいぐるみとかテレビとか書いているような気がしてきたからです。
目を閉じて10秒数えたら、包丁を持って再びお風呂場に行きます。
「お金、見つけた」
本来ならここでぬいぐるみに包丁を刺すのですが、チャビンくんは靴下をこれだけしか持っていないので、刺すことが出来ませんでした。ツンツンするだけにしました。靴下ツンツン男です。
「次はお金が鬼だから」
お金にそう言って、先ほど極薄塩水を置いた押し入れに隠れます。
「暇でやんすなぁ。そろそろ終わるでやんす」
ひとりかくれんぼを終える時は、まず用意した塩水を半分ほど口に含みます。そして、押し入れから出て、ぬいぐるみのある場所へ向かいます。
ぬいぐるみを見つけたらコップに残っている塩水をぶっかけて、その後口に含んでいる塩水も吹きかけます。
「オイラの勝ち」「オイラの勝ち」「オイラの勝ち」
と言って終了です。
使用したぬいぐるみは最終的に燃やす形(普通に捨てればOK)で処分を行いますが、前に言った通りこの靴下はチャビンくんの唯一の靴下なので、捨てることは出来ませんでした。
ひとりかくれんぼを終えたチャビンくんに感想を聞いてみましょう。
チャビンくん!
「思ったより金がかかる都市伝説でやんしたな。半分以上妥協してやったからか、ほとんど訳が分かんなかったでやんす。でもやっている時間と、やっていることの異常さから恐怖を感じることが出来やした」
だそうです。楽しめたなら良かったですね。それではまた、ごきげんよう。