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第99話 光の石ふたたび

 【水晶(すいしょう)(とう)】──僕たちのギルドハウスがある【星降(ほしふ)高原(こうげん)】から、湖を挟んだ対岸に拡がる【精霊(せいれい)()まう(もり)】の奥地、【闇王(やみおう)墓所(ぼしょ)】と呼ばれるダンジョンの上に現れた青銀色(せいぎんいろ)に輝く巨大な塔である。


「正直、何も情報がないというのが唯一の情報だったりします、はい……」


 サファイアさんがお手上げといった風に軽く両手を掲げてみせる。


「闇王を倒したことで、運営側の機能は大半が戻ってきたのですが、それでも完全掌握にはほど遠い状態です」


 リアルで開発運営会社との直接のパイプがあるサファイアさんが、指を三本立てて説明を続ける。


「今のところ、開発運営チームが直面している障害は三つあります」


 ひとつは、キャラクターの死亡と直結された情報流出シーケンス。今、最優先で解除を試みているが、複雑なプロテクトが施されていて、不可能ではないが、まだまだ時間がかかりそうとのこと。

 そして、二つ目が三大VRMMO融合に関わるシステム。こちらも基幹システムがプロテクトされている上、それを解除したとしても、一度融合してしまったゲーム仕様を再び分離するのは、途方もない工数が必要との見積もりがなされていた。


「ただ、VRMMO融合に関しては、むしろこのままで良いのでは? という声がプレイヤーだけではなく、開発内部からも出てきてるんですよね」

「あ、それ、わかる」


 ロザリー姐さんがいたずらっ子っぽくウィンクしてみせる。


「ぶっちゃけ、VRMMO融合に関しては、T.S.O.の大規模アップデート的な──ゲームとしてみても面白いサプライズだったよね。新しく仲間も増えたし、トラブルさえ回避できれば、このままでいいんじゃないかなって思うよ」

「……俺も同意」


 机に俯せになったまま、右手を挙げるアオの頭を嬉しそうにロザリー姐さんがワシャワシャと搔き回す。

 そんな様子に苦笑しつつ、顔を見合わせる僕とクルーガーさんとサファイアさん。


「──コホン」


 サファイアさんが咳払いをして、ロザリーさんとアオの注意を引きつける。


「VRMMO融合については、まあ、とりあえず置いておくとして、最後に残った三つ目が──」

「水晶の塔なんですね」


 僕の言葉にサファイアさんが正面から向き直ってきた。


「はい、その通りです」


 水晶の塔の実装については、明確に確認が取れたわけではないが、十中八九、【闇王(やみおう)】が倒された後の強制ログアウト、そして、ゲームサービスが再開された時点で今の場所に出現していたのだと思われる。


「運営に問い合わせたら、逆になんですぐに報せてくれなかったんだって、逆ギレされかけましたよ」


 サファイアさんが苦笑いしつつ肩をすくめた。

 開発運営にとっては寝耳に水、まさに青天(せいてん)霹靂(へきれき)だった。闇王が倒されて、あらゆる事態に対応すべく厳戒態勢に入ったものの、三大VRMMO融合事件という想定外の大事件に発展してしまい、その対応に全リソースを割かなければならなくなった。そのため、すでに過去のモノとなった闇王と、その攻略対象ダンジョンの【闇王(やみおう)墓所(ぼしょ)】の存在は完全に二の次、三の次と追いやられ、忘れ去られようとしていたくらいなのだ。

 なのに、そんな場所に知らない間に天まで届く巨大な塔が出現していたとは──

 僕もアオの隣で机に突っ伏した。


「ああ、いや、確かに僕も気づいてはいたんですよ。闇王を倒して追い出された後、ログインできるようになって窓の外を見たら、あ、なんかあるなーって」


 でも、すぐにそれどころではない状況に追い込まれてしまって、頭の中から転げ落ちてしまったのだ。

 ロザリーさんとクルーガーさんもウンウンと頷いて同意を示す。

 サファイアさんがくすりと笑った。


「まあ、私たちが責められる筋合いでもないんですけどね。運営にしてみたら、また新たな頭痛の種を持ち込んでくれた、と、八つ当たりみたいなものですから」


 そう前置きして、サファイアさんがテーブルに触れて立体モニターを表示させる。

 これから話す情報は、外部に公表してもいい内容だと明言してから言葉を続けた。


「──といっても、水晶の塔に関しては、先ほども言ったとおり、まったく情報がないといっても過言じゃないんですけどね」

「それって、闇王の墓所の時みたいな?」

「いえ、それよりも厳しいです」


 サファイアさんが眉間を軽くつまんでため息をつく。


「今現在、一部の例外を除いて、T.S.O.の全体的なコントロールは開発運営会社のノースリードに戻ってきています」

「死亡時の情報流出と、三大VRMMO融合──そして、水晶の塔。この三つが例外なんですよね」


 腕を組んで考え込むクルーガーさんにサファイアさんが頷き返す。


「ええ、そして、その中でも水晶の塔は運営側からのアクセスを完全に弾いているんです」


 運営側には【GMキャラ】と呼ばれる特殊なキャラクターがいる。レベルやステータス、装備などを自由に操作でき、さらにはワープ機能でゲーム世界の中ならどこへでも座標指定で自由に移動できる。また、プレイヤーキャラクターの強制移動やアカウント管理、エネミーキャラクターの配置や操作など、まさにT.S.O.内の神にも等しい存在だ。【闇王の墓所】攻略の時とは異なり、【GMキャラクター】の管理が運営会社に戻った以上、水晶の塔内に強制的に突入し、その後はエネミーキャラクターや罠などもGM権限で排除しつつ、ワープ機能を使って調査すれば良い。


「ですが、それができない──外からワープを試みてもエラーで弾かれてしまうそうです」


 それで、入口と思われる地上にある扉を開けようと調査しているのだが、これまた一向に開く気配がなく、途方に暮れてしまっているとのことだ。


「そこで、アリオットさんの出番です」

「はい──!?」


 突然のご指名に、思わず自分を指さして立ち上がってしまう僕。

 サファイアさんが意地悪そうな笑みを浮かべ、いつの間にか背後に回っていたロザリー姐さんとクルーガーさんが、僕の肩を押して椅子に座らせる。


「実は、水晶の塔の入口に、白く輝く石版が一つ設置されているそうです」

「白く輝く石版──って、もしかして!」


 【闇王の墓所】最下層、激闘の末、闇王を倒した後に現れた白く輝く石版──光の石。


「あの時あの場所にいた三月ウサギのフェンランが確認したそうだよ、光の石と姿形がまったく同じだったってさ」


 ロザリーさんが顔を近づけてくる。


「こうなると、可能性は前に光の石を反応させたアリオットにかかってくるわけさ」

「ええ……そんなこといわれても」


 確かに闇王の光の石は結果的に僕が解放したのかもしれない。でも、だからといって、いくら姿形が同じ石版があったとしても、僕が解放できるとは限らない。

 そう反論するが、サファイアさんが首を横に振った。


「三大ギルドから正式な要請がありました、日時を決めて光の石の封印にチャレンジしてほしいとのことです。そして、昨日のことですがリアルを経由してノースリード──開発運営からも依頼が届きました」


 話が大きくなりすぎてる……というか、それで、もし何も起きなかったら、僕は単なる晒し者じゃん……

 さすがに、気後れする僕だったが、その背中をロザリーさんがバシッと叩いた。


「なぁに、これでもし何も起きなかったとしても、恥をかくのはアリオットだけじゃなくて、その場に集まった私たちや、三大ギルド、運営の連中全員さね。向こうから指名してきたんだしさ」


 そう言われても「はい、そうですか」と簡単に割り切ることもできない。

 だが、いつまでもウダウダ言っていると、ロザリーさんの喝が飛んでくる。

 僕は諦めて深い深いため息を吐き出した。

 机に俯せになった格好のまま顔だけをこちらに向けてニヤニヤ笑っているアオの頭に拳を振り下ろしながら。

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