第96話 花月のサプライズ
「いやっほーい!」
「すっごーい!」
双子の歓声が甲高く響き渡る。
三フロア分をぶち抜いた天井部分から、長い距離を滑り降りてくるウォータースライダーを大きな浮き輪に乗って滑ってきているのだ。
「若い子は元気だねー」
僕はそんな双子たちを苦笑しつつ見上げる。
このプール施設は、更衣室やサービスカウンターが設置されている側の壁以外、プールの中の床面も含めた全ての面に、外の景色──地球と宇宙空間が映し出されている。さながら、宇宙空間を遊泳しているような感覚を体験できるというのがウリの一つでもある。
「うーん、気持ちよかった!」
「本当に宇宙空間を飛んでる気分!」
身体のあちこちから水を滴らせた双子がプールから上がってくる。
双葉はピンク色、若葉は水色のフリルがついた可愛さを前面に押し出したデザインのワンピース水着を着ている。
「あー、あそこの兄弟がなんかイヤらしい目でこっちみてるー」
「健康的な青少年である以上、しかたのないことかもしれませんねー」
そんなことを言いつつ、あからさまに挑発してくるようなポーズを取る双子。
「あー、はいはい、本当にカワイイデスネー、その水着」
僕はわざとらしくポンポンと手を叩いた。
ちなみに、僕や双子を含めた全員、水着は全てレンタル品である。まだ、旅客の搭乗は先の話なのに、プール用の様々な備品が揃っているあたり、ここの担当スタッフ──もしかしたら、教官の誰かかもしれないけど、その心遣いには自然と頭が下がる。
厳しい宇宙実習のさなか、息抜きも必要だと用意してくれたのだろうか。
「ほーい、翔くんにもお待たせー」
「ありがとうございます!」
僕と色違いのサーフパンツ姿でくつろいでいた翔が、隣のビーチチェアから身体を起こす。
花月が、トレイに乗せた派手な色合いのトロピカルジュースを、隣のテーブルに置いた。
「お礼なんていいんだよ! 今回のプールは、翔くんや、双子ちゃんたちへのお礼の意味もあるんだから」
オレンジ色のパレオタイプの水着を身につけた花月が笑いながら、翔の頭を軽く撫でた。
「あ、ちょ……」
翔が顔を真っ赤にして照れてしまう。
幼馴染みである僕が言うのも何だが、花月のプロポーションは同年代の女の子たちの中では上の方のランクにあると思う。少し離れたところで、ストレッチをしている常盤さんが、チラチラと羨ましそうな視線を向けていることにも気づいてしまっていた。
もっとも、常盤さんのスラリとした外見もスポーツタイプの水着とあいまって、それはそれで格好良さがあると思うのだけど、口に出すと要らぬ誤解を受けそうなので、とりあえず空気は読んでおく。
「カヅキちゃーん、わたしもジュースほしーい!」
双子がこちらへ駆け寄ってくる。
「うん、いいよー! せっかくだからスペシャルドリンク用意してあげるね!」
元気よく答える花月、今日はサービススタッフ役に専念すると宣言していた。
もともと、このリゾートプールを休暇目的で貸し切りにすることは認められていない。
だが、緊急避難で臨時の旅客となった双子や翔が、何もすることがない日々に耐えかねて、サービス運営専攻の花月を通す形で何か手伝えることはないかと自ら申し出た結果、レストラン──学食の配膳や片付けなどを手伝うようになった。そのお礼の意味で、今回のプール貸し切りが実現したのだ。
「一応、これもサービス運営の実習を兼ねているっていう建前になってるからね。あとでレポートをまとめないといけないから、みんな何か気づいたら、遠慮しないで、どんどんリクエストを出してね」
「オゥ、それでは私もスペシャルドリンクを頼むとしまショウ!」
髪の毛を掻き上げながら、無意味にポーズを取るベンジャミン。
というか、エメラルドグリーンのブーメランタイプの水着姿で、そういうコトするのは正直止めて欲しい。
「エレガントな水着姿のレディにゴホウシされる至福のヒトトキ、まさに天にも昇るキモチでーす!」
「まさに今ヤタガラスで天に昇っているトコロデスしね」とドヤ顔でキメるベンジャミン。
だが、花月は容赦なく一刀で切り捨てた。
「自分でみんなの水着選んでおいてなんだけど、うん、やっぱキモいから、そーいうのヤメテ」
「Oh!!」
さすがのベンジャミンも心にダメージを受けたのか、ポーズこそ崩さないが、そのまま後退していく。
そして、少し離れた場所にあるテーブルで、水着姿のまま端末を弄っている陵慈にちょっかいをかけ始めた。
ちなみに、今の花月の言葉にあったとおり、男性陣の水着を用意してくれたのも花月である。もっとも、渡された水着を素直に受け入れたのはベンジャミンとリーフだけで、僕も含めた他のメンバーは丁重に遠慮して、無難な水着を要求したワケだが。
「あれ? もう一人の勇者は?」
僕は上半身を起こしてプールの方へ視線を向ける。
ベンジャミンと同じタイプで色違いの黒のブーメランパンツを手渡され、何も言わずに受け取った勇気ある男──いや、単に無関心なだけなんだろうけど、そのリーフは、黙々とロングプールの中で泳いでいた。
外見金髪貴公子のベンジャミンと対象的な銀髪少年のリーフ、ふたりが際どい水着姿で並んでいる姿に、更衣室から出てきた女性陣は一瞬言葉を失った後、一気にボルテージを上げていた。
あの常盤さんですら、花月の手を握って何やら熱く語っていたりして、なんか、アニメやマンガとかの良くあるシーンと逆なんじゃないかなぁなんて、思わずぼやいてしまったりもして──
「彼、スゴいね。プールで泳ぐの初めてって本当なのかな」
僕の視線に気づいたのか、ガウがロングプールから上がってきた。スポーツタイプのショートスパッツが、これまたしっくりハマる細マッチョな身体。正直、僕も爆発しろとか思いたくもなる。
そんなことを思われているとは露知らず、ガウは僕の隣まで歩いてきた。
「リーフ君、泳ぎを教えて欲しいって頼まれたけど、ちょっと基本的なこと教えてあげただけで、もう普通に泳げるようになっちゃった」
そう肩をすくめて見せるガウ。
「ありがとね、というか、単純にガウの教え方が良かったんだと思うよ」
僕がそう言うと、ガウは嬉しそうに照れたような笑みを浮かべつつ、近くにあったテーブル席へと移動する。
「T.S.Oの方も、そろそろ動きたいところですね」
「うん、宇宙実習にも、ようやく慣れてきたしね」
「え? なになに? なんかあるの?」
「初耳です、そこのところ詳しく」
耳ざとく、双子が駆け寄ってきて、僕の両側へ座り込む。
さらに常盤さんまでもが会話に加わってきた。
「もしかして、あの【水晶の塔】関係かしら」
「あ、えっと……てか、みんな近い……」
遠くからベンジャミンのわめき声が聞こえてくる。
「ムッキー! また、ワタルハーレム発動デスか!!」
行き場のない感情をもてあましたのか、必死に抵抗する陵慈を椅子から引きはがし、プールへと放り込んでから、自分も勢いをつけて飛び込み、水面に激しい水飛沫を舞上げる。
「あ、ベンジャミン! 危険な飛び込みはダメなんだよ!」
ガウの分のドリンクを持ってきた花月が叱るような声を上げた。
水面から半分だけ顔を出して、こちらを恨めしそうに睨みつける金髪の貴公子。
ハーレムとかそういう言われようは、はなはだ不本意ではあったが、僕はとりあえず無用な反論はせずに、花月にドリンクのお代わりを頼むのであった。




