第94話 そして始まる宇宙生活
「……そういえば、青葉やおばさんと連絡は取れた?」
外の光景を見つめつつ僕が双子へと問いかけると、若葉と双葉は同時に首を振った。
若葉が携帯端末を差し出してくる。
「ダメなの、通信しようとしてもネットワークに繋がらないみたいで」
「……たぶん、ここのネットワークが一般に開放されてない」
「あ、そっか」
横からフォローしてくれたリーフの言うとおりだった。もともと今回は宇宙実習なのだから、一般の人が搭乗することを想定していない。そのため、セキュリティの兼ね合いもあって一般の人のネットワーク利用は制限されているのだろう。
おそらく、他の一般人も同乗していることもあるし、近いうちにネットワークの開放設定も行われると思うが、自体が事態だ。僕は取り急ぎ、自分の端末から青葉へとコールを飛ばしてみる。
すると、すぐに反応があった。
[航か!?]
「うん、連絡が遅くなってゴメン」
[おう、とりあえずアイツらも含めて無事だということは聞いてたけど……]
「うん、大丈夫だよ。今、話せるけどどうする?」
[わかった、それなら、ちょっと待ってもらえるか]
「オッケー」
僕は手元の端末を、部屋の大きなモニタにリンクさせる。そして、しばらくすると青葉の声と複数の足音が近づいてきて、人影が現れた。
[若葉、双葉! 大丈夫? 無事なのね!?]
青葉と双子の母親、緑おばさんだ。僕は端末の位置を調整して、双子の姿をカメラに入れる。
「「お母さん!」」
双子の声がきれいにハモった。
よかったと安堵のため息を漏らす緑おばさん。続けて僕の両親も現れ、翔と僕の姿を確認して、よほど安心したのか変な笑いを漏らしていた。
僕はそっと花月に問いかける。
「花月は家族と連絡取れたの?」
「うん、ちょっと前に。こっちもみんな無事だったよ」
そっか、良かったと返してから、僕はカメラを通して、両親と緑おばさんに現状について説明をはじめた。
[航くん、花月ちゃん、悪いけど若葉と双葉のこと頼むわね]
僕と花月にそう頼んだ後、顔を双子へと向けてしっかり釘を刺すあたりが緑おばさんだ。
続けて、うちの両親が僕と翔に声をかけた後、リーフへと視線を向ける。
[リーフ君も大丈夫よね、申し訳ないけど、航や花月ちゃんも仕事で忙しくなると思うし、翔や若葉ちゃん、双葉ちゃんのことお願いするわね]
その言葉にいつもと変わらない表情で頷くリーフ。
[実はね、南さんからも連絡があって……とても心配していたわ。私の方からもこのあとすぐに連絡をいれるけど、通信ができるようになったら直接顔を見せてあげてね]
続けてリーフは小さく頷いたが、一瞬、視線をそらして困惑の表情を浮かべたように見えた。だが、すぐにいつもの顔に戻っていたので、もしかしたら僕の見間違いだったかもしれない。
とりあえず、夜も遅いからということで、お互いの無事を確認したことでこの場は終わらせて、また、あらためて連絡を取り合おうということになった。
モニターとのリンクを切って、端末越しに青葉といくつか言葉を交わす。
「あ、そうだ。青葉たちの入学式って明日……いや、今日かな、予定通りやるの?」
[んー、どうだろう。今のところ予定変更の連絡はないから、普通にやるんじゃないかな]
確かに、まだ襲撃者たちの素性は明らかになっていないが、開催予定だった行事をそのまま行うことで、こちらの余裕を見せる一方、相手の焦りを誘うっていうことも考えてるかもしれないなと脳裏をよぎる。
まあ、僕にはあまり関係ないことだけど。
「入学おめでと、青葉」
[おう、よろしくな、センパイ]
互いにそう言って笑い合ってから通信を切断した。
◇◆◇
「というわけで、年少組ともどもしばらくは宇宙からログインしますです、はい」
T.S.O.、WoZのギルドハウス──大広間の机に突っ伏したままの格好でそう言うと、ロザリーさんは豪快に笑い声を上げた。
「それはいいね、まあ、いろいろあって大変だっただろうけど、双子やジャスティスたちにとってみたら、ある意味ラッキーなのかもしれないね」
イズミあたりが本気でうらやましがりそうだけど、とロザリーさんは肩をすくめる。
その姿を想像して、僕もアハハと笑いかけたとき、視界の端にフレンド登録申請があったことを知らせる通知が表示された。
突然、動きを止めた僕に、ロザリーさんが不審げに声をかけてきた。
「どうしたんだい? そっちで、またなにかあったとか……」
「いえ、そういうんじゃなくて、フレンドの申請があって……なんで、こんな時に」
一瞬、頭の中に小泉の姿が横切る。クルーガーさんつながりでありえるかも、いや、IDは教えてないし、それともザフィーア経由で聞き出したのかな……などと考えつつ、詳細を確認しようとウィンドウを開く。
「──え? リーフ!?」
銀髪少年のアバターにリーフという名前、十中八九、リーフ当人だろう。僕と青葉がハマっていて、再三再四誘ったのに、いつもスルーしていたリーフが今になってなぜ──と、思ったが、いつもの気まぐれだろうと、僕は頭の中で結論づけて、そのまま受諾ボタンを押したのだった。
◇◆◇
──容赦ない波乱の幕開けを迎えた僕たちの宇宙生活。その新しい日々が今始まろうとしていた。




