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第93話 さよなら地球

 T.S.O内、WoZのギルドハウス大広間。


「はぁ……」


 僕は机に突っ伏して大きなため息をついてしまった。

 ミサキ-1の捜索が終了して、教官に完了報告を提出し、その後、いくつかのイベントもこなして、ようやく一連の業務から解放されて、初めての自由時間を迎えることができた。

 とりあえず、接続を確認するために、真っ先にT.S.Oへとログインしたのだったが。

 ロザリーさんが苦笑しつつ、肩を叩いてくる。


「まあ、何はともあれ無事で良かったよ、お疲れさん」


 リアルの時間は日が変わった後の深夜の時間帯である。

 それにもかかわらず、ロザリーさんは一人ギルドハウスで待機していてくれたのだ。


「アオや現場に居合わせたクルーガーからも連絡があったし、とりあえずは全員無事ってことだね」


 イズミは夜も遅いので、一旦ログアウトさせたこと。サファイアさんは、リアルが忙しくて──たぶん、僕らの事件の影響で勤務先に詰めているとのことで今晩はログインできなかったとのこと。そして、クルーガーさんは無事に自宅に戻ったが、さすがに疲れが出たので休んでいるとのことをロザリーさんが教えてくれた。


「アオの入学式、無事にできるといいな……」


 そう呟きつつ、先ほどの光景を思い出す。


   ◇


 ミサキ-1の居住区エリアの一角にある乗客用の部屋、というか、ホテルのスイートルームに劣らない豪華な部屋に僕は呼び出された。


「あ、兄さん!」


 部屋に入ると、(しょう)がホッとしたような表情で駆け寄ってきた。

 部屋の中には窓──正確には窓を模した大きな映像モニタだが、そこから外の様子を食い入るように見つめている双子と花月(かづき)、そして、部屋の中央にあるソファーに(かつら)教官と三住(みすみ)教官が座っていた。

 桂教官が、僕も座るように手招きする。


「もう、時間も遅いし、疲れてるところに申し訳ないけど、一応、話を聴かないといけなくてね」


 そう言うと、窓際の花月にも声をかけて双子ともども席に着くように指示する。

 三住教官が手元のタブレット端末を操作しつつ首をかしげた。


「ん? たしか、もう一人いるはずだが」

「あ、今、呼んできます!」


 翔が慌てて奥に続く扉へと駆けていった。

 僕はあらためて部屋の中を見回した。


「それにしても立派な部屋ですね……いいんですか?」


 僕たち、学生の部屋はオノゴロにあった学生寮と全く同じ作りの二人部屋。それに比べて、この部屋はメインの居室に寝室が二つもついていて、広さも設備の豪華さも段違いだった。

 花月も同じように感じたのか、大きく息を吐いた。


「うーん、やっぱりうらやましいなぁ」

「でしょでしょ!」

「確かに、こんな機会は滅多にないですよね」


 それぞれの表情で嬉しさを表現する双子に、桂教官が苦笑を浮かべた。


「一応、民間人なのに巻き込んでしまったお詫びの意味もあってね。他の人たちと同じ待遇だから、そういう意味では気に病まなくてもいいわよ」


 そこへ、翔に伴われてリーフも姿を現した。アクビを堪えるような表情に、乱れた銀色の髪。ぱっと見の外見はいいのに、いかにも寝起きですよという雰囲気が台無しにしている。

 というか、この状況で寝てたというほうが驚きなのだが。まあ、普段からあまり物事に動じない(たち)だが、それにしても図太(ずぶと)すぎるだろう。

 起こしてしまってすまないと詫びる三住教官に、小さく頭を下げてから、僕の隣へと腰を下ろした。


「それじゃ、あらためて確認させてもらうわね」


 その一言を皮切りに、全員の身上の確認をはじめた。

 僕の弟でもある翔と、補欠入学組の青葉の妹である双子は、宇宙学園の関係者ということもあり、簡単な質問だけで済んだのだが、問題はリーフだった。


「記憶がないのか……英語は話せるんだね」


 三住教官が困惑気味に呟く。

 一方、リーフの方はというと一切表情を変えずに訊かれたことに淡々と答えていく。

 僕たちと出会ってからのことは、僕と花月の説明もあって納得してもらえたが、やはり、その前のことが一切不明というのがひっかかるらしい。まあ、外見からして外国出身ということは察することができるし、三住教官も日本語と英語を交えながら質問を続けていく。

 桂教官がポンと手を打ち合わせた。


「まあ、記憶喪失というならしかたないわね。まさか、こちらで検査をするわけにもいかないし、そもそも、そんな設備も人員もないしね」


 そう言うと三住教官を促して、椅子から立ち上がる。


「ただ、念のため、地上の当局に情報の照会だけさせてもらうわね。それだけは了承してください」

「かまわない」


 短く頷くリーフに礼を述べてから、教官たちは部屋から出て行った。

 敬礼をして見送った後、僕たちは自然と窓際へと集まった。

 高度約四百キロメートル、眼下に見える地球は丸みを帯びた姿になっている。日本列島は夜間ということもあり、都市部の光が綺麗に見える。


「今、あたしたち、地球から飛び出していってるんだよね」

「エレベーターっていっても、宇宙船みたいなものだもんね」


 双葉と若葉、双子たちは、さっきまでの賑やかさとうってかわった様子で、しんみりと外の光景に見入っていた──


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