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第88話 小泉くん、公私混同する

北斗(ほくと)、話がある]


「え!? えっと……あ、小泉(こいずみ)くん?」


 H(ヘッド)M(マウント)D(ディスプレイ)の内部スピーカーを通して突然かけられた声に、僕は思わず声を出して反応してしまった。

 その声にビックリしたのか、スピーカー越しの声があきらかに動揺する。


[声が大きい! 個別会話モードに設定したまえ]

「あ、あ……うん」


 少し離れたところに座っている小泉がこちらを睨みつけてきているのがみえた。

 僕は戸惑いつつも、会話モードを小泉直通に変更する。このあたり、T.S.O.のチャットシステムと似ているので自然に操作できるのはありがたい。


[……これでいい?]

[ああ]


 一言返事をしてから、これ見よがしに咳払いする小泉。


[単刀直入に聞く。柏陽(かしわび)さんとはどういう関係なのだ?]

[え?]


 僕の思考が一瞬止まる、柏陽さん……って、ああ!


紗綾(さや)さんのこと!?]

()()()()、だ!]


 小泉の声が刺々しくなる。


[あ、はい、柏陽さん]

[そうだ。壮行式の時、親しげにしていたな。いったい、どういう関係なんだ?]


 その言葉に、僕は重要なことに思い至った。壮行会場にいた紗綾さんは、あの後、無事に避難できたのか。いろいろあったとは言え、失念していたことが恥ずかしい。

 僕は逆に食いかかるように小泉くんへと問いかける。


[それ! 紗綾さん……じゃなくて、柏陽さんは無事なの!? 小泉くん、なにか知らない!?]

[ちょ、落ち着け──柏陽さんは僕と一緒にシェルターまで避難した。その後、僕は他の学生たちとともに移動することになったが、その前に防衛隊がやってきて一般人全員を保護して退避していったから、心配はないはずだ。今のところ一般人に被害があったという情報もない]

[あ、そうなんだ、よかったー]


 権限を与えられてから真っ先に民間人の安全について確認したという小泉に、僕は心からホッとして息を吐き出した。


[……だから、それはどうでもいい。今、僕が聞きたいのは柏陽さんと君の関係なんだ。重ねて言うが、あの人は、おまえたちみたいな人間が気安く話せる女性(ひと)じゃないんだ]


 うーん、そう言われても、と答えかけて僕は口をつぐむ。確かに、壮行会場でも似たようなことを言われたような記憶がある。小泉は紗綾さん──柏陽さんと親しい関係にあることは想像できるけど、なんで、そこまで僕たちに突っかかってくるのか。

 さすがの僕もちょっとムッとしてしまい、口調に小さな棘を含めてしまう。


[どういう関係って、T.S.O.で一緒にプレイしている仲間だけど]

[T.S.O.!? ]


 遠目に小泉の身体が動いたのが判った。

 だが、他の生徒たちの視線が集中したことに気づいたのか、小泉はわざとらしく姿勢を正す。こういう時、指揮官役っていうのも、いろいろ大変なのかもしれない。

 まあ、僕は別に忖度する立場ではないので、自分のペースで対応を続ける。


[あれ? もしかして、T.S.O.知らない? VRMMOの──]

[そんなことは知っている! 失礼なヤツだな、君は]


 あえて、驚いたような口調で反応する僕に対し、思わず席から立ち上がって、こちらを睨みつけようとした小泉だったが、周りの視線に気がついたのか、コホンとわざとらしく咳払いしてから、席に戻った。


[VRMMOだったら、僕だってH.B.O.をプレイしている──それにしてもそういうことなら僕に相談してくれれば……]

[あ、そうなんだ。だったら、うちのギルドハウスに来てみれば? そしたら、紗綾さん、えっと、ゲームの中だとクルーガーっていう名前の聖騎士さんね。ゲーム統合しちゃったから、小泉くんも来られるでしょ、実際、H.B.O.キャラの常盤(ときわ)さんと神藤(しんどう)も今は一緒にいるし。なんなら、場所教えるよ、ちょっと待って──]

[そうか、なるほど。そういう手も──じゃなくて! そういうことじゃなくてだなっ!!]


 小泉はガマンの限界に達したのか、おもむろにHMDを外して、僕の横へとつかつかと歩み寄ってきた。


「ちょっと、つきあいたまえ」

「あ、え? 今?」

常盤(ときわ)君、少しの時間、席を空ける。その間の指揮は君に任せる」


 常盤さんの返事を待たずに、そう言い捨てて近くの打ち合わせスペースへと僕を引っ張っていく。

 管制エリアの一角にあるので互いに視線は通るが、透明な遮音壁(しゃおんへき)に囲まれているので、外に声は聞こえない。少し離れた司令エリアにいた(かつら)教官がチラリとこちらを見たが静止はしなかった。プラン実行中は干渉しないつもりなのだろうか。

 席に座らされた僕の前のテーブルを小泉が強く叩いて問い詰めてくる。


「柏陽さんはVRMMOなんてプレイするような人じゃないんだ。しかも、君のような人間と仲良くするだなんて、いったいどんな手管(てくだ)を使ったんだ!?」

「て、手管って……」


 さすがに呆れてしまう。

 だが、適当にごまかすことも許してくれそうにない。僕はわざとらしく大きく息をついた。


「えっと……紗綾さんと出会ったのって本当に偶然だったんだよ?」

「柏陽さんと呼べと言っただろ!」

「あ、はい……」


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