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第83話 大人の思惑

「敵ドローン部隊、電波攪乱の影響は見られません。自律行動タイプと判断します」

「では、こちらも自律迎撃ドローンを出動させろ、敵ドローンの分布にあわせて近いところから順次出せ!」


 東海将の控え室だった部屋が緊急の指揮室に指定されて、物々しい雰囲気に包まれている。


「海将、危険です! 窓際からお下がりください!」


 だが、東海将は双眼鏡を構えたままの格好で副官を一喝してのける。


狼狽(うろた)えるな! 敵の攻撃目標は、あきらかにここではないぞ。我々がパニックに陥っていては、敵の思うつぼだ。常に冷静になれ、広い視野で状況を把握しろ!」

「……やはり、ミサキですか」


 そう声を高める海将の横に分厚い上半身を高級なスーツで包んだ強面の男性が並んだ。


 大正(おおまさ) 彰廣あきひろ、宇宙学園の校長である。


 出自は国土交通省のキャリア組だが、もみあげから顎まで続く見事な髭や、筋骨隆々とした身体から、背広より自衛隊の制服の方が似合うと好意半分、皮肉半分で言われることが多い。

 海将が口元に手を当てつつ、校長へと問いかける。


「そうとしか考えられませんな、ですが、本当に出発させていいのですか?」

「はい、敵の目的は宇宙実習……いえ、ミサキの出航阻止、もしくは破壊でしょう。ならば、その思惑を打ち壊すためにも、この措置が最善だと考えます」

「ふむ……」


 海将は双眼鏡を下ろしてから、室内へと視線を向け、壁に設置された巨大モニターを(にら)む。

 そこには三基のヤタガラスを中心とした海上都市オノゴロの地図が表示され、無数の光点と様々な情報が刻々と表示を変えていく。


「地上部隊の動きからも、その見方は正しいと思うが……まだ、敵の素性(すじょう)は判別できんか」


 その問いかけに、幕僚の一人が答える。


「はっ! 警備部隊も応戦に手一杯とのことで、未だ情報は入ってきておりません」

「海上艦からの報告は?」

「はっ! ドローンの発進ベースと思われる偽装漁船団は特定できたとのことで、現在追跡中とのこと。また、第三、第四護衛艦隊はオノゴロに接岸して、特警隊(とっけいたい)を上陸させ、支援するとのことです」


 海将はしぐさで了承の意を示してから、再び大正校長と共に爆発が続く窓の外へと向き直る。


「敵勢力の地上部隊はごく少数との報告だ。おそらく陽動が目的だろう。本命はドローンによるミサキへの直接爆撃だ。だが、それもこちらの対応能力を超えることはあるまい」


 そこまで呟いてから、海将はなにかを思い出したような表情になった。


「そういえば、校長。貴殿(きでん)はミサキ-1に搭乗しなくても良いのですか。必要なら護衛に小隊をつけますが。今からなら、まだ間に合うでしょう」

「いいえ、もともと宇宙実習は若松(わかまつ)教頭が現地指揮を執る予定でしたし、これで問題はありません。それに、私は地上ですべきことがありますしね」


 大正校長は肩をすくめてみせる。


「それに、現場に私みたいな背広組が出張ると教頭を含め、教官たちもやりにくいところがあるでしょう。とりあえず、初回の実習は現場組に任せてみようと思います」

「確かにそのとおりかもしれませんな……と、これは失礼。制服組である小官(しょうかん)としては失言でしたな」


 そう言いながらも東海将は豪快に笑った。

 その様子を横目で見ていた幕僚たちの間に、困惑の表情がよぎる。この状況に冗談を飛ばしている余裕などあるまいという様子だ。

 だが、海将はそのような雰囲気を一顧(いっこ)だにしなかった。確かに先手を取られたのは事実だが、それ以降の状況は、想定の範囲内に収まっている。


「そうは言ってもな……」


 海将は口の中で呟いた。ヤタガラスの根元、起動準備に入っているミサキ-1を心配そうに見やる。


「陵くん……本当なら部隊を差し向けてでも保護しに行きたいところなのだが、父さんの立場ではそうもいかんのだ……許してくれ。そして、絶対に無事で帰ってきてくれ……」


 力が入ったのか、両手で握った双眼鏡がイヤな音を立てた。

 とりあえず、隣の大正校長は気づかないふりをしている様子だった。


 ○


 その後、東海将の指示の元、オノゴロへの襲撃は急速に鎮圧されていく。

 敵のドローンに対し、オノゴロ防衛システムによって制御された防衛ドローンが応戦し、互いの高度な計算による攻防が続いたが、数の有利も働き、防衛ドローンが敵のドローンを次々と破壊していく。

 また、地上での戦いも空中同様に防衛隊の有利な状況へと移りつつある。

 もともと、敵兵の数は多くなかったところへ、海上艦の一部がオノゴロへと接岸し、上陸部隊を送り込んだことが決定的となった。


「一気に押し込んで、敵を逃がすな!」


 東海将の指示の元、敵を一箇所へと追い込んで降伏させるべく動く地上部隊。だが、その眼前で信じられない光景が展開される。


「自爆攻撃──だと!?」


 唖然とする海将、応接ソファに座っていた大正校長も苦虫を噛み潰したような表情になる。

 追い詰められた敵兵は損害を考慮せずに地上部隊へと突撃を開始し、挙げ句の果てに爆発物を用いて自爆攻撃をしかけてきたのだ。

 時代錯誤にも程がある、と呟く海将だったが、これで敵兵から情報を引き出すことは不可能になってしまう。


「……海将、これは思ったより根が深いかもしれませんな」


 校長の声に、東海将は無言のまま頷いた。


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