表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/111

第73話 さらなる援軍!

「後方から敵襲(てきしゅう)です! 輜重部隊(しちょうぶたい)がやられました!!」


 後ろから駆けてきた兵士の叫びが、ガラ空きになった敵の門へ向けて突撃指令を出そうとしていた覇鈴(はりん)の動きを止めた。


「チィッ、敵の援軍か!?」


 肩越しに振り返る覇鈴の言葉を、報告してきた兵士が否定する。


「違います、T.S.O.のプレイヤーじゃない……三オンの、()のヤツらです!」

「なんだって!?」


 驚きを隠せない様子で馬を(ひるがえ)す。その彼女の視線の先に現れたのは青色をベースとした軍装を身に(まと)った騎兵たちであった。


「ちっ、アイツら横からエモノを奪うつもり──って、あの旗印(はたじるし)は!?」


 覇鈴は攻撃を指示しようと振り上げていた槍を横へと払って声を上げる。


「みんな! 攻撃目標変更!」


 後方から現れた青の騎兵隊は小覇王(しょうはおう)の軍より兵数が少ない。

 一気に蹴散らしてから、その勢いのままに敵のギルドハウスを()とす。


 覇鈴は一瞬の間に決断した。


「また、ウチのジャマしくさって……今日こそはとっ捕まえて首刎(くびは)ねたるわ──ベンジャミンっ!!」

 

   ◇◆◇


「え? 援軍!?」


 チャットから流れてきたぴーのの言葉に聞き返しつつ、僕はバルコニーから身を乗り出して、ザフィーアが示す方向を確認しようとした。

 魔法の爆発で発生した黒煙が湖の方へと流れていき、開けた視界の向こう、丘の上に青色の鎧に身を包んだ騎兵たちの姿が見える。

 横でザフィーアが突然()頓狂(とんきょう)な声を上げる。


「ベ!?」

「べ?」


 僕が問い返すと、ザフィーアが慌てて身を起こして釈明する。


「あ、えっと、その旗印が……」


 説明するよりも見た方が早いと、ザフィーアが僕に対物(たいぶつ)ライフルのスコープを覗くように言ってきた。


「あ、うん」


 床に這うようにして片眼でスコープの中を覗く。中央に(ひるがえ)る青い旗。そして、その中央には大きくカタカナで『ベ』と記されていた。


「ベ……だね」

「べ……よね」


 身体を起こして、ザフィーアと視線を交わしてから、もう一回バルコニーから上半身を伸ばして、門の外の様子を(うかが)う。

 手前にいる赤い軍装の一隊の旗印は『()』だ。おそらく部曲名か、指揮官の名前なんだろうなと思っていた。正直、ちょっとカッコイイかなとか感じていたのだが、さすがに『ベ』はないと思う。

 それはともかく、僕は頭を眼前の戦場へと切り換えた。

 赤の騎兵たち、覇軍が向きを変えていく。おそらく、青色のベ軍を迎撃(げいげき)するつもりなのだろう。

 ベ軍もその意図(いと)を察知したのか、中央を厚くした逆三角形の陣へと移行し、丘の上から一斉に駆け下りてきた。

 ジャスティスの大声がチャットから飛び出してくる。


[ねぇっ! 魔法ぶちかまさなくていいのっ!?]


「今はダメ、様子を見てから……それよりも、前庭の様子を、クルーガーさんとイズミとリィンは扉の前まで下がって、くーとギルティも二階のバルコニーへ──」


 そう指示を出しつつも、僕の目はずっと外の戦場に向いていた。

 ベ軍が覇軍へと激突する。

 その激しさに、一瞬、そのまま覇軍を撃破できるかと思えた。しかし、覇軍の陣が薄青(うすあお)色に輝き、ベ軍の先鋒を受け止めたかと思うと、そのまま、ベ軍の矛先(ほこさき)を受け流すようにゆっくりと陣形を動かしていく。

 その時だった、隣にいるザフィーアが、また驚いたような声を上げる。


「もしかしてベンジャミン!? あの先頭にいるの!」

「!?」


 僕はギリギリまで身体を伸ばして目を凝らす。

 ベ軍の先頭で、旗持ちのN(ノン)P(プレイヤー)C(キャラクター)を背後に従え、勢いよく(ほこ)を振り回して敵中を駆け抜ける騎兵。

 青く光る兜の下から金色に煌めく髪をたなびかせた、碧眼(へきがん)の美青年武将──って、言われてみればリアルのベンジャミンそのものに見える。

 あ、いや……そういえばベンジャミン、三オンやってるって言ってたっけ。


軍神(ぐんしん)ベンジャミン……」


 こちらを見上げてくるザフィーアの視線で、僕は思わず口に出して呟いてしまったことを悟った。


「いやぁ、キャラクターの名前を本名にするって、ありえないよね……旗印だってカッコワルイし、さすがに『ベ』はナイヨネー」


 まさにタハハという感じの笑いでごまかそうとする僕だったが、ザフィーアはいたってマジメに。


「あのベンジャミンよ?」


 一刀両断。

 ぴーのが会話に割って入ってくる。


[細かいことはどうでもいいから、いつでもパーティ同盟受け入れられるように準備しておいてね]


 その言葉が終わらないうちに、僕の視界に同盟申請が入ったというアラートが表示された。

 見ると、ベ軍の先頭を駆けていた騎兵が、門の前までたどりつき、こちらに向かって槍を振っている。

 僕はぴーのが言うがままに同盟申請を受け入れた。


 部曲【緑林軍(りょくりんぐん)】、部曲長【ベンジャミン】以下、32人のプレイヤーの名前リストがずらっと流れた。ちなみに、ベンジャミン一人を除いて、他の全員の名前は漢字だった。


[ハーイ、リョウジ、これで良かったデスかー? あ、ワタルとカヅキも無事デスかー?]

[もしかして、ベンジャミンなの!? よかった、助かったよー!]


 同盟チャット内に聞き覚えのある訛りの強い日本語が流れ、すかさず、くーちゃんが反応する。

 そこへ穏やかな声が続いた。


[ゆっくり話したいところだけど、そうもいかないみたいだね。小覇王も体勢を整えつつある。このまま門を守ってもいいけど、制限時間まで(しの)ぎきるのは正直難しいよ]


 もしかしなくてもガウかなと思ったけど、今はそれを確認する暇がない。

 僕はコホンと小さく咳払いしてから、頭の中で状況を整理しつつ返事をする。


「えっと……ベンジャミン軍でいいのかな、ま、いいや。とにかく、相手の赤い軍なんだけど、湖の方へ誘導することはできる?」


[それくらいならオヤスイゴヨーです。部隊を二手(ふたて)にワケましょー、そちらはランオーに任せマース]

[わかりました]


 詳しい説明を要求せずに、ベンジャミンは簡単に引き受けてくれた。おそらくガウのキャラクターであろうランオーと呼ばれた武将、遠目なのでハッキリとはわからないが、ベンジャミンの横にいる仮面の騎兵だろうか。ベンジャミンと二言三言交わしただけで、半分に分けた部隊の一つを率いて覇軍の側面へと向かっていった。

 ベンジャミンの部隊はランオー部隊に注意を逸らされた覇軍の一隊に横から突撃をしかけ、隊が怯んだ隙に、今度はランオーの部隊が騎乗したまま矢を射かける。

 その反復攻撃を繰り返すことにより、覇軍を自然と密集隊形へと移行させていく──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ