第71話 援軍到着!
──ブォン!
サイドカーを付けた漆黒のバイクには二人の女性が乗っていた。
車輪に踏みつけられ千切れた草が宙に舞う。
バイクは騎兵隊に近づくと、スピードを落とすどころか、急速にスピードを上げて突っ込んでいく。
──バババババババッ!
サイドカーに乗った少女が、座席前面に据え付けたガトリング銃を撃ちまくる。
さすがに混乱状態に陥る騎兵たち。
「ムチャクチャだ……」
一連の動きを上から見ながら、僕は無意識のうちに呻いていた。
そんな僕の困惑をよそに、バイクは騎兵を蹴散らして正門の前へと走り込んでくる。
バイクはそのまま門を後ろに陣取ると、運転席の少女がライフル銃を構え、さらにサイドカーの少女も引き続き銃を撃ち続けて、騎兵たちを門の側から追い立てていく。
「あ、今だ!」
僕は慌てて双子に指示を飛ばす。
派手な魔法が後退する騎兵たちの中で炸裂した。
さすがに、こんなカオスな状況での戦闘を断念したのか、再び退却していく騎兵たち。
それを確認して、一息ついた僕のところへ通知が飛んできた。
「パーティ同盟申請?」
ウィンドウを開き、申請ボタンをタッチすると二人の名前が表示される。
「あのバイクの二人かな……って、ザフィーア!?」
見知った名前を確認して、急いで承認ボタンを押す。もう一人は知らない名前だったけど、一緒に行動している以上、味方だと断定してかまわないだろう。
[北斗く……じゃなかった、アリオット君! ギルドハウスへの進入許可もお願い!]
パーティ同盟を承認すると同時に、チャットを通じて少女の声が飛んできた。
僕は慌てて、ギルドハウスの権限処理を行う。
「ザフィーアって、やっぱりあのザフィーアなの?」
我ながら間抜けな質問になってしまった。
だが、ザフィーアは、そこにはツッコんでこなかった。
[ええ、詳しい話はそっちに行ってから話すわ]
前庭に入るなり、駆け寄るくーちゃんへ二言三言話してから、ザフィーアはこちらに向けて軽く合図してきた。素早い足取りで、ギルドハウスの中へと入ってくる。
もう一人の、リィンという女の子はそのまま前庭に残っている。両手に銃を構えた格好でアオたちとなにやら話し込んでいた。
「間に合ってよかった」
後ろから声がかけられる。
ザフィーアは僕の返事を待たずに、バルコニーの柵まで歩み寄って敵の様子を確認した。そのまま、手を振ってウィンドウを操作し、大きな銃──対物ライフルに似たフォルムの銃を取りだしたかと思うと、床に置いて、そのまま匍匐姿勢を取る。
「え、えっと……」
戸惑う僕に、伏せた姿勢のままザフィーアが会話を再開した。
「詳しくは戦闘が終わってから話すけど、このキャラクター、私がH.B.O.で使っているキャラクターよ。ソレスタル・シティから急ぎで向かってきたんだけど、T.S.O.の地理がよくわからなくて、思ったよりも時間がかかっちゃった」
「いきなりバイクとマシンガンで突っ込んできたから、H.B.O.のプレイヤーかなとは思ったんだけど、ザフィーアだとは思わなかった」
「あと、私と一緒に来た子、彼女は神藤君よ、学園の」
「ええ!?」
僕は思わずバルコニーから身を乗り出してしまった。ピンク色のサバイバルジャケットとゴーグル付きの帽子を被った女の子。いや、まあ、言われてみれば嗜好的に間違ってはいない気もする。
「彼、えっと……彼女? は銃使いだけど、どちらかというと近距離戦が得意だから、前衛に加えてあげて」
「あ、うん、わかった」
ザフィーアの話に頷くだけ頷いて、ギルドチャットでアオたちと連絡を取る。ザフィーアとリィンがパーティ同盟として参加したので、メインのチャットチャンネルも変更するように伝えた。
[あーあー、これでいいのかな──北斗、じゃなかった、アリオットだっけ? 聞こえるー?]
初めて聞く女の子の声がチャットを通して聞こえてきた。
「えっと、神藤……じゃなかった、リィンでいいのかな? とりあえず、よろしく」
「おうよ」と気楽に返事をするリィンに、アオと連携するように伝えた。もっとも、すでに下でアオたち前衛組とは意気投合していたみたいで、そのあたりは問題なさそうだ。
銃を構えたまま、ザフィーアが説明をはじめた。
「T.S.O.の世界でそれほど戦闘していないから、ハッキリとは言い切れないけど、この世界での銃は魔法みたいな扱いだと考えて間違いないと思う」
街道近くに出没するレベルの低いモンスターなら、一撃で撃ち殺せることもあったが、ある程度レベルが上がるとそうもいかなくなったとのことだった。
僕は軽く肩をすくめる。
「まぁ、さっきの銃乱射、リアルだったら大虐殺になっちゃうもんね。そのあたりはやっぱりゲームってことなんだろうね」
ぴーのに確認を取ったが、ザフィーアたちの乱入時、あれだけの銃撃にもかかわらず、地下牢の捕虜は増えていなかったということだった。
ただ、そうはいっても強力な援軍が増えたことは間違いない。攻城戦の制限時間は、もう少しで半分を過ぎるところだ。このまま、敵を混乱させつつ時間を稼げれば──
「ちょっとだけ勝算が見えてきたかも」
僕は拳を握りしめた。




