第70話 戦場の駆け引き!
「捕虜?」
ギルドチャットから流れてきた聞き慣れない単語に、僕は思わず聞き返してしまった。
攻城戦が終わるまで、僕は最上階を離れることができない。そのため、直接確認することはできないが、ぴーのからの連絡で、これまた、いつの間にか地下室に出現していた牢屋に、三人の敵兵が閉じ込められているとのことだった。ちなみに全員女性キャラらしい。
[調べたら、これも三オンの仕様みたい。攻城戦や合戦だと、戦闘で倒した相手は一時的に捕虜扱いになるらしいよ]
言われてみれば、戦争モノらしい仕様だとも思う。
「捕虜って、どういう風に扱えばいいの?」
[戦闘が終わってから解放するか、相手と交渉して身代金や講和条件とかの材料に使えたりするんだって。あ、あとは首を斬るって選択もあるよ]
「く、首を斬る……って」
[文字通り死刑だね。その時点で死亡扱い、でもって、情報流出ってことになるね]
あっさりと残酷なことを口にするぴーの。彼によると、牢の中のプレイヤーたちは虚勢を張りつつも、やはり不安そうな色は隠せないとのことだった。
「とりあえず、首を斬るっていう選択だけはありえないし、戦闘が終わったら、ちゃんと解放するし……」
[じゃあ、そう伝えとく]
僕は大きくため息をついた。
「なんかサツバツとしてるなぁ……」
[そりゃそうだろ、向こうは戦争がメインのゲームなんだしさ]
お気楽なアオの声が返ってきた。
[まぁ、今は状況が状況で純粋に楽しむってワケにはいかないけど、三オンもゲームとしては面白そうだな]
その声にチャット内の雰囲気が一気に和らいだ。
「それもイイね」とロザリーさんが反応し、年少組もさっきの戦闘について興奮気味に語りはじめる。
僕は視線を上げて敵軍を確認しつつ、言葉を挟む。
「盛り上がってるとこ悪いけど、回復とかもう終わった?」
丘の上に退いていた騎兵たちが再び動き始めたようだ。
「敵の第二波が来そう、みんな配置について」
○
敵はさっきと同じルートを通って正門へと向かってくる。
僕はその動きを確認しつつ、先ほどと同じ指示を出す。
「敵が門の近くまできたら、双子が魔法攻撃、そして、アオたちが敵の先頭集団を撃退するってパターンね」
全員の返事を確認して、集中を敵軍へと戻す。
指示を出したモノの、敵も同じ失敗を繰り返そうとは思わないだろうと気持ちを引き締める。たぶん、なにかをしかけてくる。些細な変化も見落としてはいけない。
しかし、敵はそんなことはお構いなしとばかりに、猛スピードで門へと迫り、魔法の射程内に入ってきた。
僕は不安を振り払って、声を上げる。
「魔法発射──」
──ズドォーン、ドゥン!
その時だった。ギルドハウスの門がある南側とは別の方向、敵軍が出現した東側の塀の付近で大きな爆発が起きた。
[あっちから敵が!?]
双子の注意が逸れる。
[敵の妖術っていう魔法と、弓矢による火矢攻撃。でも、あれくらいじゃ柵の耐久力はそれほど減らないよ」
ぴーのが指摘する。というか、この状況でも冷静な口調に、僕の意識が正門へと戻された。
「しまった、魔法のタイミングが遅れた……!」
ほんの一瞬だった。
僕や双子の注意が逸れた隙に、敵の騎兵隊は門へと取り付くことに成功していた。
双子が慌てて魔法を放つ。
[炎球!]
[火の鳥!]
だが、二人の放った魔法は門の上部に至ったところで、激しく爆散してしまった。
[ええっ、なんで!?]
[もしかして、門や塀って見えないだけで、高さがあるのかも!]
ジャスティスが驚きの声を上げる横で、ミライが冷静に指摘する。
言われてみれば、魔法が弾けたあたりに、一瞬、半透明の壁が見えたような気がした。
──うおおおおっっ!
大きな喊声とともに、敵軍の騎兵が陣を組む。
規則的に配置された騎兵たちが赤い光に包まれた。
──突撃ぃ!
赤いマントをなびかせた女武将が槍を大きく振りかぶると、騎兵たちが赤く光る矢のように正門へと突撃してきた。
──ドゴォォッッン!!
[今の攻撃で、門の耐久力が二割くらい削られたよ]
あいかわらず動じないぴーの。
だが、その報告は衝撃的だった。
「門の前の敵をなんとかしないと……」
ジャスティスが放物線を描く形で放つことができる魔法を発動しているが、敵兵もそれは織り込み済みで、門や塀の近くに張り付いて回避している。
門が青く光る、ギルティが防御力を高める陣を張ったようだ。プレイヤー以外に効果があるかどうかはわからなかったが、どうやら耐久力を持つ門や塀にも影響を及ぼすことができるようだ。
だが、それも気休め程度にしかならない。
サファイアさんが報告してきた。
[防御魔法で門の強化はできるけど、回復魔法は効かないわ!]
魔法で耐久力の修復はできないということか。
とにかく、門の前の騎兵たちをどうにかしないといけない。
前衛を突撃させることはできるが、敵も陣形を組んでしまっている。その中へ飛び込ませるのは危険行為だ。
僕の思考が堂々巡りに陥りかけた。
「!?」
その時だった、視界の端に光が上がった。
花火? いや、信号弾的な光?
その光は地上から打ち上げられたものだった。
そして、その光の下から一台のバイクが現れ、騎兵隊の後ろからこちらへ向けて突っ込んでくる──




