第56話 闇王戦、決着
◇◆◇
「終わったか……」
暗い部屋の中、一人の少年が端末で再生されている映像に見入っていた。
ネットを介して世界中に配信されているT.S.O.の攻略動画だ。
ボス部屋への突入から、闇王との戦いへとクライマックスを迎えるにあたって、すでに夜半を過ぎたはずなのに、映像の視聴者数がとんでもない勢いで伸び続けていく。
顔に落書きされたマッチョ剣士が、仲間の神官を脇に抱えながら必死に敵の攻撃を避ける様は、外野からするととふざけているようにしか見えない。それもあってか、戦闘自体はシリアスな状況なはずなのだが、視聴者たちのコメントは悪ノリの方向へ盛り上がる。
次から次へと興奮状態のコメントが流れ続け、視聴者数のカウンターも加速度的に目まぐるしく増えていく。
その中で、ついに三体いる巨大な化け物の一つが、音を立てて床へと倒れ込んだ。
[うおおおおおおおーーーーっ!]
[やったぁぁーーーーーー!]
[あいつらけっこうやるじゃん!]
[あっと二体、とっととぶっ倒せー]
視聴者たちの盛り上がりも最高潮を迎えようとしていた。
そんな彼らが見守る先で、倒した闇王の一体が動かなくなったことを確認したプレイヤーたちが、残りの二体へと向かっていく。
「思ったより早かったな……見込みが甘かった」
少年は空中にキーボードを表示させて、素早い動きで入力作業を行う。
「本当はここで終わりにしたかった。でも、まだ、終わらせるわけにはいかないんだ」
一拍おいてから実行キーを押す。
「……ごめん」
◇◆◇
ついに、音を立てて最後に残っていた青瞳の闇王が倒れた。
しばらく触手を痙攣させていたが、完全に動きが止まり、モザイクの形に分解されて宙に消えていく。
「はあぁ……」
後ろを振り返って確認したアオが、大きく息を吐き出したかと思うと、抱えていた僕の身体を離す。
「うあっ!!」
僕はそのまま鈍い音を立てて床に落ちた。痛みは感じないからいいけど、なんか屈辱感。
ブツブツ文句を言いながら上半身だけを起こして床に座り込み、ゆっくりと周りを見回す。
戦闘が終わり、気が抜けた態でみんなが床に座り込んでいる。最初から戦闘に参加していたメンバーたちの消耗は半端ないようだ。特にイズミとギルティなんかは背中合わせにだらしない格好でへたり込んでしまい、双子にいろいろ弄られてるのに、反応すらできない状態。
「正直、こんなに上手く行くとは思わなかった」
そう呟きつつ情報画面を開いて、戦闘に参加したメンバー全員の無事を確認する。
最初に部屋に突っ込んだネコミミ少女こと、みくるんさん以下、二十二名。
次に助けに入った僕たちWoZのメンバーと、一緒に突入してくれた二組のパーティを合わせた二十一名
援軍に駆けつけてくれた偵察部隊、四パーティとアオ、二十五名
最終的に合計六十八人を数える巨大なパーティ同盟になっていた。
戦闘が終わった後、外で様子を見ていた他のプレイヤーたちも次々と部屋の中へ入ってきていて、十三層入口のキャンプと同じくらいの賑わいになっている。
「というか、オマエ、またやらかしやがって!」
後ろからアオが僕の頭に拳を落としてきた。
「な、なにするんだよ!?」
「あぁ? アレだけ言ったのに、またムチャしやがって、ホントいい加減にしてくれ……」
盛大にため息をつきながら、勢いよく僕の隣に座り込むアオ。
「まったくだ、本当に彼の言うとおりだ」
後から声をかけてきたのは三月ウサギのフェンランさんだった。
さらに、梁山泊のアンネローゼ様と、サウザンアイズのシグムンド卿の姿もあった。
何が起こるかわからない偵察部隊にも関わらず、三大ギルドそれぞれのギルドリーダーが、しっかりとメンバーに加わっていたのだ。
アンネローゼ様が、苦虫を噛み潰したような表情のシグムンド卿を横目に小さく笑う。
「一応、ここに至る大まかな話は聞いたけどね、坊たちにとっても、ある意味災難だったってことも」
その声が聞こえたのか、みくるんさんたちの一団がそそくさと他のパーティたちの中に紛れ込んでいく。
「あ、逃げた」
ジャスティスが声を上げるが、誰も本気で追求するつもりはなさそうだった。
くーちゃんとミライが顔を見合わせてくすりと笑う。
サファイアさんが僕の前にさりげなく割って入る。
「結果として出し抜く形になってしまって、本当に申し訳ありませんでした。でも、あの状況ではこれが最善の選択だったかと」
「……結果的には、な」
ムスッとしたままシグムンド卿が吐き捨てる。
まあ、怒られてもしょうがないよなとは思うが、このままサファイアさんに庇ってもらい続けるのもカッコワルイし、ちゃんと筋を通して、僕が謝罪すべきだろう。
そう覚悟を決めて立ち上がろうとした時。
部屋の中の灯火台の青い炎が一斉に消え、一拍おいてから天井から降り注ぐ均一な光に照らされた。
そして、ガタンという音と共に部屋の中央に円形の穴が開き、その中から、台に乗った白く輝く石版がせり上がってきたのだ。




