第54話 闇王戦、激闘
「大きなダメージを与えることができれば、硬直効果もあるんだ……それなら!」
僕は操作パネルを開き、急いで指を走らせる。
パーティ同盟内の編成を前衛と後衛に特化させる。ロザリーさん、クルーガーさん、イズミには前衛職のプレイヤーを率いてもらって敵の攻撃を引きつけてもらい、ギルティとサファイアさんに遠距離攻撃ができるプレイヤーをまとめてもらって、前衛が作った隙へ攻撃を叩き込んでもらう。
一緒に突入してきたパーティ二組は回復役の護衛を兼ねた遊撃部隊。
僕は大きく距離を開けて敵の動きと攻撃のタイミングを逐一みんなに伝達する。みくるんさんとケットシーがいれば、円刃の攻撃回避も難しくない。
「ねぇ、これって、もしかしていけちゃうんじゃない? 援軍が来る前に倒せちゃうかも」
みくるんさんが浮かれたような声を上げる。
「まだ油断はできませんよ」
僕は冷静に答える。だが、内心ではみくるんさんと同じような楽観的な方向に傾きつつあった。
闇王の残りHPを示すバーが、もう少しで半分を切る。この調子でいけば援軍が来る前にケリをつけられる可能性も充分にある!
「みんなもだいぶ敵の動きになれてきたし、ここからさらに攻勢をかけて良いかも……」
このままでもなんとか凌ぎきることができるかもしれない、だが、時間がかかればかかる程、どこかに綻びができてしまう確率も高くなる。だったら、思い切って攻勢に出てみようと僕が考え直した瞬間──
──ふごおおおおおおおおっっ!
突然、闇王が巨大な雄叫びを上げた。
残りHPが残り半分を切ったのだ。
色めき立つプレイヤーたち。
だが、次の瞬間、興奮が困惑へと急変する。
闇王の全身から黒い霧のような煙が吹き出したかと思うと、あろうことか身体が三体に分裂したのだ。
「「「なぁ……っ!!」」」
突然の状況の変化に、プレイヤーたちの動きが止まる。
──がああっ!
赤、青、緑、それぞれの山羊頭の視線が一斉に僕へ向いた。
みくるんさんも気づいたのか焦りの声を上げる。
「ちょ、ちょっとあんたヤバイよ!」
ケットシーの危険感知スキルが、僕の全身を激しく光らせる。
──ぐおおおーーん!
三頭の山羊頭が雄叫びを上げ、一直線に並んで僕の方向へと突っ込んでくる。
「ここに来てリーダー狙いかよ……って、うわぁ!?」
先頭の緑の山羊が両腕の武器を捨て、替わりに大きな光の玉を胸の前で練り上げて、激しく輝かせながらこちらへ放ってきた。
「うぉっとぉ!?」
なんとか飛んでくる光線から逃れることができたが、みくるんさんたちは反対方向へ逃げたらしく、僕は一人、完全に孤立してしまった。
だが、合流する暇はない。緑の山羊に続いて赤い山羊が円刃を投げつけてきたのだ。
「くっ……なんとかぁっ!」
この攻撃もギリギリでかわせた、だが、無理な動きでバランスを崩してしまい、身体ごと床に倒れ込んでしまう。
「アリくん……っ!!」
くーちゃんの悲痛な声が聞こえた。慌てて顔を上げると、最後の青い山羊が高々と宙に舞い上がり、僕へ向けて複数の触手を捻るようにまとめて突き込んできたのだ。
──もう無理、ここまでか。
ボス敵の体力減少による攻撃パターンの変化は当たり前のことだった。目の前の敵の対処に集中するうちに肝心なことを失念してしまっていた。完全に僕の失策だ。
もちろん、僕が戦闘不能になってしまっても、くーちゃんたち回復役の誰かが蘇生してくれるかもしれない。ただ、今や戦場にいるプレイヤー全員が、闇王の攻撃パターンの変化に混乱してしまっている。この流れのままだと戦線崩壊は免れないだろう。指揮系統を僕に一本化したのも裏目に出た。こうなった以上、あとは援軍が予想以上に早く到着することを祈るしかない。
僕は観念して目を閉じた。
その刹那。
「うおりゃああああああっっ!!」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、同時に激しい衝撃音が全身を打つ。
恐る恐る目を開けると、赤いオーラを全身から立ち上らせる剣士の後姿があった。
両手で構えた大剣で敵の触手を受け止めている。
「アオっ!?」
「おうっ、待たせたな……っ!!」
僕に背中に庇いつつ、アオはついに攻撃を凌ぎきり、敵の触手がほどかれて宙に舞った。
「……ったく、俺がいない間にちょっとは頭冷やしたかと思ってたのによっ!」
続けて放たれる赤山羊の触手攻撃に対応しつつ、毒づくアオ。
僕は慌てて体勢を立て直して周囲を確認する。
ボス部屋に現れたのはアオだけじゃなかった。いくつかの新しいパーティが増え、三体のボスそれぞれに攻めかかっている。
「やらかしてくれたじゃないか、坊」
「アンネローゼ様! よかった、間に合ったぁ──」
僕は安堵のあまり座り込みそうになる。
それを叱咤したのはアオだった。
「気を抜いている場合じゃないだろ! とっととみんなに指示を出せ!」
赤山羊の触手を必死に一人で裁くアオの背中を見ながら、僕は気合いを入れ直そうと両頬を強めに叩いた。
「よし、こっからが本番だ!」




