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第49話 見え始めたゴール

「ぴーのさぁ、諦めて教官のところに出頭しちゃってよ。まさか、本気で夏休み中部屋に籠もるつもりなの?」


 T.S.O.内のギルドハウス大広間。ソファーにだらしない格好でもたれかかっている少年盗賊に声をかける。

 一応ログインはしているようだが、別画面を出して違う作業をしているのだろうか、こちらの言葉に反応がない。

 こういう態度は今さらなのでもう慣れてしまっている。まあ、リアルの同じ部屋でプレイしているのだから、直接声をかければ良いことだったりするのだが、なんとなく、それも気が引けるのだった。


 今、ギルドハウスには、僕とぴーのの他はくーちゃんとザフィーア、それに双子とジャスティス、イズミという学生組だけが集まっていた。

 もともと今晩については攻略の予定が無い。明日、僕とくーちゃんが実家へ帰省するので、その移動時間中、朝から夕方まではインできないということと、その後、夏休み期間のスケジュールを年長組と打ち合わせるだけで、早めに落ちるつもりだったのだ。

 後では双子たちとくーちゃんが話に花を咲かせていた。どうやらお土産の催促らしい。


「くーちゃん、ちゃんと()()()()()買ってくれた?」

「大丈夫だよー! ちゃんと()()()()()()()()()()()()()()()()三体のプレミアムセットを三人分ゲットしたから」

「くーちゃんさん、ナイスです」

「……あの、もしかして、ぼくも同じモノってことですか?」


 はしゃぐ双子をよそに悲しげに呟く弟。そんなギルティをイズミが慰める。


「良いじゃないですか、あのマスコットたち男子の間でも評判良いですよ」


 オノごろん、ヤタくろう、イナバうさぁは、オノゴロ海上都市の観光PRのために作られたキャラクターで、有名なキャラクターデザイナーが手がけたということと、グッズはここでしか入手できないということから、本土で結構な値のプレミアがついているらしい。

 学業とT.S.O.攻略の忙しさにかまけて、お土産の選定を花月に任せていたのだが、それが(あだ)になってしまったかもしれない。すまない、弟よ。

 あれ? そう言えばアオやリーフへのお土産はどうなってるんだろう。


「ねえ、くー、アオやリーフのお土産って用意してる?」

「え? アリオットが買っていくんでしょ」


 「なにを言ってるの?」と言いたげにキョトンとするくーちゃん。

 あ、いや、わかってはいるんだ。やっぱり、そうだよね……

 ザフィーアがこちらに声をかけてくる。


「男の子向けだったらヤタガラスとかカグヤとかの宇宙ステーション関連グッズの方がいいんじゃない? 制式銃とかも良いと思うわ。まだ、お店も開いてると思うけど。なんなら、予備に買っておいた未開封の銃もあるけど……」


 さすがは保安警備専攻、発想が男らしい。てか、予備の銃ってどういうこと? いや、もちろんレプリカかモデルガンの話だろうけど。

 などと、余計なツッコミは口には出さず、丁重に遠慮させていただく。

 まあ、今回買っていかなくても、ギルティ──弟の(しょう)とリーフは夏休み明けには宇宙実習の壮行会へ招待する予定だから、その時に好きなのを買っていけばいいだけだし。同じ理由で両親からも必要無いと念を押されてたりもする。

 問題はアオだ。気まずい状態が続いているので、それを解消するきっかけになるかもしれない。だけど、僕の方から折れるような気がするのもなんだか面白くないかも。


「バカ兄のことなら気にすることないですよ」

「そうそう、少し経てばなにもなかったように『ちーす、久しぶり』とかいって戻ってくるよ」


 双子が容赦なく実の兄をこき下ろす。

 くーちゃんまで、その話に乗っかっていった。


「まー、そーだね。アオくんは性格が大雑把というか、三歩歩いたら忘れちゃうところあるもんね。たぶん、気にした方が負けだよ」


 それは褒めているのか(けな)しているのか、僕は思わず冷戦中のアオを擁護する必要に駆られてしまった。

 そのまま、ギルティやイズミ、それに興味津々といった態のザフィーアも加わってアオについての品評会へと移行する大広間。

 それにしても、こんなユルい雰囲気は久しぶりだなぁと、僕もノンビリとだらけていたのだが──


「──大変です!」


 そこへサファイアさんが慌てて駆け込んできた。


「三大ギルドから発表がありました! ついに十三層最奥(さいおう)──ボス部屋がみつかったそうです!!」


 その声がギルドハウス内の緩んだ空気をアッサリと吹き飛ばしてしまう。

 慌てて立ち上がる僕。


「ホントですか! それだったら、ロザリーさんとクルーガーさんにも伝えないと!」


 すると双子も反応した。


「今、バカ兄は家にいませんけど、メッセージを送っておきます」

「こっちは気にしなくていいよー」


 僕は「ありがとう」と短く返して、アイテム画面を開いて装備類のチェックをはじめる。


「ボス戦だから、回復アイテムは多めに持っていった方がイイよね。ああ、あと弱点を探るために属性攻撃系も必要か……」

「──って、なんだか、すでに出撃する気満々ですけど」


 サファイアさんが声を高めた。


「少なくとも、ロザリーさんとクルーガーさんたちがくるまではダメですからね!」


 キツくお灸をすえられる僕たちだった。

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