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第44話 アオ、離脱

 WoZのギルドハウスの広間。今日の探索を無事終えて大テーブルの席に座ると、仲間たちも次々と席に着く。


「やっぱり、一人減ると厳しいね」


 ロザリーさんが頭をかき回しながら息を吐き出した。


「うちのバカ兄がすみません」


 ペコリと頭を下げるミライの横で、ジャスティスが口を尖らせる。


「ホント、大人げないよね」

「顔に落書き程度じゃ甘いですよね」


 おもむろに立ち上がったミライが広間の片隅に棒立ちになっているアオに歩み寄る。何をするのかと黙って見ていると、ミライは空中に表示させたメニューウィンドウを操作して、ユラユラと左右に揺れる原色のけばけばしい花がついた帽子を取り出してアオに被せた。

 さらに追い打ちとばかりジャスティスも鼻と髭のついた丸メガネをバシンと顔に叩きつけるように装着させて、お腹を抱えて笑い出す。


 あの日以来、アオはT.S.O.にログインしなくなってしまったのだ。


 双子曰く、バイトとかプライベートが忙しくなったと言っているとのことだが、僕はやっぱりあの時の言い争いが原因なのだろうと思っている。

 あの後、少し悪かったかなと思ったりもしたのだが、こんな形で拒絶されるといささか面白くなかったりもして。


「まあ、それはそれでしかたないさ。こればっかりは本人次第だしね」

「本当に忙しいのかもしれませんしね」


 ロザリーさんとクルーガーさんが苦笑する。


「というわけで頼りにしてるよ、イズミ」


 と、いきなり名前を呼ばれたことにビックリして、ネコミミ少年が耳と尻尾をピンと立てて立ち上がる。


「は、はい! 頑張ります!」

「イイよね、アリオット?」

「あ、はい。大丈夫、というか、それしか無いと思います。さすがに前衛二人だけじゃ難しいですし」


 ロザリーさんの申し出に僕は当然というように頷いた。

 現在の攻略ポイントは十一層。敵の攻撃が複雑化してきている中、後衛の守りが薄くなるのは痛いが、それよりも前衛が戦線を維持できなければ話にならない。


「三月ウサギのパーティと連携できる局面も増えて楽になった分、トントンといったところですかね」


 あの一件、アオの離脱とは別に、不幸中の幸いというかフェンランさんを通して結果的に三月ウサギとのパイプを太くすることができたのだ。お互いの行動予定を共有化することで、僕たちは三月ウサギのパーティに同行する形で、攻略の最前線に出られるようになっていた。

 不意にクルーガーさんが僕へと声をかけてきた。


「そう言えば、アリオットさんたちが宇宙に上がられるのはいつ頃でしたっけ、確かもうすぐですよね」

「あれ? アリオットってば、宇宙実習のことみんなに話してたの?」


 くーちゃんがビックリしたように声を上げる。


「みんなに心配させたくないから黙ってようっていってたのに」

「あ、いや、僕も言ってない……と思う」


 すると、クルーガーさんが軽く手を振った。


「あ、いえ、私にも宇宙学園に通っている知り合いがいて、その方から伺ったんですよ」

「ていうか、ニュースやワイドショーでも取り上げられてるよ」


 ロザリーさんがスゴいよねと笑う。

 正直、そこまで注目されているとは思っていなかった。

 サファイアさんが呆れたように肩をすくめる。


「当事者だと感覚が鈍くなるんですかね」


 その指摘に、くーちゃんがハッとした表情になる。


「え? そんなに? ちょ、ちょっと待って、そう言われるとなんか緊張してきたかも」

「そうですよ、スゴいんですよ! 羨ましいです!」

「もしかして、くーちゃんテレビに出たりするかも!?」


 イズミとギルティに持ち上げられて舞い上がるくーちゃん。そんな彼女にロザリーさんが軽くツッコミをいれてから、こちらに向き直った。


「確か八月の中旬、お盆明けだっけ? もしかして、宇宙に行っちゃったらT.S.O.には入れなくなっちゃったりするのかい? だったら、急がないといけないけど、残り一ヶ月弱か……十一層の進捗から考えるとギリギリ、いや難しいかね」

「宇宙からでもT.S.O.にはログインできるよ」

「え、そうなの?」


 ぴーのは説明するのが面倒だと、それ以上は説明しなかったが、それが本当なら少し余裕ができるかも。念のため、明日以降にでも教官にも()いてみましょうというザフィーアの言葉に頷く。

 だが、そんな僕たちに対して、クルーガーさんが少し考えるようなしぐさをしてから、声をかけてきた。


「本当に無理はしないでくださいね。私の知り合いの子からも宇宙学園での授業は今でさえ大変だと聞いています。それが宇宙に上がったらなおさらです」

「……これは、私が言えた義理ではないですけど」


 サファイアさんが表情を改める。


「もし、負荷がかかりすぎて学園生活に支障が出ているようなら、その時は言ってください。こちらから頼んでおいて今さらですが、アリオットさんたちのリアル生活の方が大事です」

「そんなこと……!」


 と、言い募ろうとした僕の声が詰まってしまった。みんなは悪意があって言っているわけではない、わかっている。本気で僕たちのことを心配してくれているということは。


「……まぁ、そういっても割り切るのは難しいだろうさ」


 ロザリーさんが静かに割って入る。


「とりあえず、この話は宇宙に行く前、夏休みに入った段階でゆっくり話すことにしないかい? それまで状況がどう変わるかもわからないしね」

「そーだよ、もしかしたら明日とかクリアできちゃうかもしれないし!」


 脳天気な声を上げるくーちゃんに、クルーガーさんとサファイアさんが同じような苦笑めいた表情を浮かべた。

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